101.錬金術師見習い6
また手が止まっちゃうまでは頑張りますのでよろしくお願いします。
極彩色の芋虫を前に一戦挑む覚悟を決めた私たちは、作戦を練ることにした。
「近接で倒してみる?」
「……私の小太刀ちゃんが臭いのは嫌」
「だよね。私も嫌だもん。そうすると弓か魔法になるけど、情報によると火と水は効果が薄いみたいね。周りのヌラヌラのせいで。比較的雷魔法が効くみたい」
「……矢を撃ち込んでから魔法」
「フムフム。そうしよっか。飛漸は最後ね。一応Eランクの魔物みたいだから気を付けようか。あれ? Dランクだっけかな?」
「……どっちでもいい。さっさと終わらせたい」
「ふひぃ~。見習い錬金術師も楽じゃないよね。これ、冒険者資格とかないとやっていけないんじゃないかな~」
「……普通の師匠なら素材は買ってお仕舞だと思う。お姉さん師匠、無茶ぶりが過ぎる」
「あっはは。だよね~。でも師匠たちも自分で素材集めてるからね~。流石に師匠がやってるのに弟子ができませんって訳にはいかないよ。私たち武闘派の錬金術師になっちゃうね」
うだうだ言ってるのはもちろんやりたくないからである。気持ち悪すぎる。もしかしてぴゅーとか体液が出てきたらどうしよう。そんな嫌な予感がひしひしと感じられるんだもん。
でももうしょうがない。これも経験でしょう。フンと構えて気合を入れる。勿論、闘気法を使うためです。できるなら一撃で仕留めたい。反撃なんかされたらパニックになることは必定です。
ギリギリと弓を引き、気を纏っていきます。もう少し発動が早くなってくれないかと思う今日この頃、準備万端整い、いざ発射。
狙いたがわず! ヌルニュの頭部を見事に命中する。そのまま矢はヌルニュを突き抜けた。命中した矢はそのまま突き抜けて遥か彼方まで飛んで行ってしまった。
「おぉ~、柔らかい! 小さな穴が開いただけで終わった。ひぇ~。出てるよ出てる。体液が~ぴ、ピンクの、いや~」
「……うぇ~。気持ち悪い」
私たちの攻撃を受けのそりとモニュラが動く。大したダメージではなかったのか、その頭部からにゅ~と何やら突き出てくる。
(うわ~、あいつらなんてことしやがるんだ。獣人は匂いには敏感なんだぞ。くっ。仕返しか。肉の仕返しだろ! クッソ~キツイ! この護衛はキツ過ぎる!)
「ぎぃ~や~。な、何この匂い! 超~くさい! サンダーボルト、サンダーボルト、サンダーボルト、サンダーボルト。サーンーダーボールートー!」
「……さ、サンダーボルトー。だ、ダメ。もう耐えられない。くっさ~い」
私たち2人+αは逃げ出した。
「はあ、はあ、はあ。あの角……ムニュムニュした角。あれは凶悪過ぎる!」
「……ネイちゃんもそう思う」
かなり遠くまで全力で逃げ出して今一息ついたところです。臭豆腐? くさや? ドリアン? シュールストレミング?(イワシの缶詰)そんなもの比較にならん! 全部混ぜても耐えられる気がする。
異世界恐るべし。まさかあんな匂いが存在するとは思ってもみなかったよ。あれってガスマスクで防げるのかな~。地球の科学でも対処できないかもと思わせる匂いだったよ。
学習しました。ええ。学習しましたとも。ヌルニュは攻撃してはいけません。手を出してもいけません。あれの討伐依頼とかどうすんだろ?
「ム! ネイちゃん。なんか来るよ。警戒しないで逃げちゃったから別のモンスター引き当てちゃったみたい」
「……うん。問題なし。イノシシ」
のそりと姿を現したのはワイルドファングでした。一流の猟師なら倒せるくらいの強さだもん。今の私たちが恐れるような敵じゃない……と思う。
ガス、ガスガス。私とネイちゃんの矢が次々とワイルドファングの頭部にめり込んでいきます。突進なんかさせることなくめった撃ちです。
「いや~、普通の獲物はいいね! こうだよ。こうでなくっちゃ。お肉も獲れるし言うことなし」
爽やかに額の汗を拭いながら一仕事しましたー感を出しています。封殺ですよ封殺。ワイルドファングを封殺って褒めてもいいよ?
仕留めたワイルドファングを木に吊るして血抜きを終え、氷魔法をぶっ放しています。お肉を冷やさないと味が落ちるからね。
「さて、ネイちゃん。このまま帰る訳にはいかないんだけど、もう大丈夫だと思う?」
「……ふぅ~。もう一仕事した。帰ってもいいと思う」
いやいや。あんた仕事してないのよ。本来の仕事これ、ちゃうからね? ジトっとした目でネイちゃんを見つめてるとしぶしぶ本来の仕事を認めてくれました。
そこそこの時間が経ったのでもう一度先ほどの場所に戻っているところです。徐々に先ほどの匂いの残り香がそこはかとなく漂ってきます。
「くっ。これ、匂いが消えてないの?」
「……み、見て。タエ。木が枯れてる……」
毒ガスか! 毒ガスなんでしょ? まさかの枯葉剤。うん。木は逃げらんないからね。あれに数十分さらされたら枯れるかもしんない。
「もう、さっさと結界張って糸を回収して帰ろう。この依頼もう嫌だ」
「……了解。ネイちゃんもそう思う」
残り香に苦しみながら接近を果たす私たちでした。