1.プロローグ
私は混乱していた。貧農の娘として生まれて10年。お父さんの手伝いで畑仕事をしていた時、突然それは起きたのでした。
(え? なに? 私、高坂真琴? 17歳? 違う! 私はタエ。10歳だもん)
(日本生まれのジョジコーセー? 3女神さまに遭った? そんな……3女神さまになんて遭ったこと無い!)
いきなりの記憶障害でした。全くの別人の記憶が甦って来たのです。でもそれが凄く本当の事に思えるんだよ。
記憶って変だよね。ついさっきまで信じていた自分が全くの別人かもしれないなんて。私は畑の真ん中でぶっ倒れてしまいました。
その後は慌てたお父さんが抱えて家に連れ帰ったんだけど、お母さんは慌てず騒がず薄い布団に私を寝かせて額に手を当てた。
「あなた慌てること無いわよ。ちょっと熱出したみたい。水汲んで来てちょうだい」
どうやらいきなりの記憶のフィードバックで知恵熱を出したみたい。翌日には熱も下がって普通に目が覚めた。記憶の混乱も収まってて、前世の記憶(?)が甦っちゃったのね。
ふぅ~。どこから話したもんかなぁ~。
◇ ◇ ◇
高坂真琴、17歳ピチピチの高校2年生。朝も早くから剣道部の朝錬で学校に向かう途中、突然落っこちたの。道の真ん中で。マンホールも無ければ、道が陥没した訳でもない。
うわぁっと思ったらもう周りは真っ暗。辺りを見回すと何か先の方が光ってるのが見えたから、ついそっちに向かってふよふよと行っちゃったんだよね。
そこは綺麗な場所だった。光に満ちてて、地面には背の低い柔らかい草が覆い、まばらに細めの木々が生えてて小川も流れてた。自然が喜んでる感じが私でも分かったんだよね。
当然そんな場所、日本のどこにもないって知ってる。ううん。世界中でもこんな所ない! 天国(?)いやいや天界かな。人間の居ていい場所じゃないね。
暫くそんな場所をふよふよと漂ってたんだけど、ふわぁ~っと風が吹いたと思ったらぴゅ~って連れ去られてったの。気付いたら大きな掌の上に居たよ。
「まあ! どこから迷い込んで来たの? あら? この娘、異界の娘のようね」
「どれどれ。わぁ~。本当だ。この娘さん凄い所から来たね」
「うむ? そうだな。良く異界の狭間に飲み込まれなかったものだな。虚無が広がっていただろうに。それもさらに天界まで辿り着いたとはあっぱれな魂だ」
「あっ! 早く何とかしないとこの娘、異物扱いで消滅しちゃうよ!」
エイ! ってな具合で自分の髪の毛を1本抜いて私の頭に蝶ちょ結びで結わえた。
「よし。これで消滅しないぞ」
何が起きてるのかチンプンカンプンだけど助けてくれたみたい。視線を上に上げて見ると綺麗なお姉さんが3人。金銀黒の女神さまが私を見下ろしていました。
最初は巨人かとも思ったけど、ほら雰囲気とかオーラとが全然違うから。それにどうやら相手が大きいんじゃなくて私が魂だけの存在になっちゃってるみたい。
「お? ずるいぞ。なら私からも。……こんな感じか?」
最初に私に髪の毛を結わえてくれたのが黒の女神さま。末っ子みたいね。次に結わえてくれたのが銀の女神さま。次女(?)でいいのかな?
そして多分長女なのかな(?)私を掌に乗せてるから手が出せなかったみたいで私を次女の掌に移してプチっと抜いた金の女神さまが最後に結わえた。
白い魂の額に黒い鉢巻みたいな蝶ちょ結び、左から右に袈裟がけに銀のたすき、右から左に金のたすきを付けられた私。うん、こんな魂の人居ないって。全部蝶ちょ結びだよ。
「うふふ。かわいく出来ましたよ。異界の娘さん」
ひとしきり私を眺めていた女神さま達だったけど、何やら色々言ってた。もう帰れないって異界を渡るときに体が消滅しちゃったからだって。かわいそうだから自分達の世界の輪廻の輪に入れてあげるから頑張りなさいみたいな事を言ってた。
お話が終わったら金の女神さまがふぅ~って息を吹きかけたらまたまたぴゅ~って飛ばされて行ったよ。もう色々あり過ぎて理解が追いついて無いままドンドン勝手に進んで行っちゃった。
次に私が辿り着いた所はまた凄い所だったよ。私みたいな魂がたくさん居て、グルグル回ってるの。それも大きな洗濯機の中みたいにさ。
もちろん私もその中にポチャンっと落っこちて揉みくちゃになるかと思ってたけど、皆避けるんだ。周りを見ると皆真っ白なのに私だけ……変なの巻いてるからね。目立つ目立つ。
周りが避けるから私だけぴゅ~っとドンドン下に落っこちて行って最後のロートみたいなところからも落っこちちゃった。
あ~れ~!
んで最初に戻るんだよ。どうやらタエ10歳として生まれ落ちたんだね。いやーついさっきまでは特に気にしてなかったけどこれはないよ。極貧だよ。日本を知ってしまった私には耐えられないよ。……いや、まあ、10年分の経験があるから耐えられるんだけど。
そ・れ・で・も! 思わず知識チートじゃ~とか思っちゃった。ほら、私って最近の子じゃない(?)ラノベとかネットとか見てたから色々聞きかじってるのよ。
……おい! ちょっと待て。私は普通~の女子高生だよ。知識なんて無いって。あ~! チートスキルとかも貰って無いよ。どうしろってのよ!