灰
ある時、目が覚めた。
空が黒くなってから眠ることがなかった僕は寝ていた。自分の体を見ても以上はない、安っぽい布を纏っていて、辺りを見渡しても、持ち物は他にはなかった。
「どこだ、ここ?」
知らない場所だ。ところどころクレーターができているコンクリートの道路には蔦や苔がこびりついていた。
そんなところに、僕は仰向けに寝ていた。
随分寂れたところだ。
「僕は、なんでこんなところに?」
過去のことを思い出そうとしても思い出せ ない。そもそも、時間の概念なんてあるのだろうか。
「考えても、わかんないか……」
考えることを諦めた僕は辺りを見渡した。その時ふと頭に浮かんできた。
(なんだか……東京みたいだなぁ)
「ん?……東京ってなんだ?」
思い出そうと頭を回転させる。とても昔のことだったか?
「頭が痛い……」
昔から、考えすぎると頭が痛くなってた気がする。このことも、考えたところで分からないから気にしないことにする。
「とりあえず……歩こう」
裸足で歩き出して、しばらくしても高い建物が並んでいるだけだ。
耳鳴りがするほど静かでヒタヒタと自分の足音だけが響いている。
「やっぱり人も生き物もいないな……」
この世界は生き物がいない……知っていた。
「まぁ、ucがいないのが救いだな」
そう言っていたとき、視界の右端でなにかが動いたのが見えた。
「っ!」
僕は、脊髄反射で障害物に隠れる。
「……」
息を殺して隠れる。
顔を覗かせて見てみると、真っ白な人型のマネキンのようなものが歩いていた。関節部分に繋ぎ目などは見つからない。
胸のところを見てみると『un creature α』と書かれていた。
その動きはとても滑らかで、とても静かだ。
(流石僕だ、よくあれに気づけた)
ucの視線がこちらを向いた気がしたので慌てて顔を隠す。
ucの顔はのっぺらぼうでどこを向いているのか分かりにくい。
(早く……早くどこかへ行ってくれ……)
そうしてしばらくすると、ucはどこかへ去っていった。
「ほぅ……」
全身の毛穴から汗が吹き出た、ucに見つかれば問答無用で殺される。
そんな奴と遭遇するとはついてない。
「はぁはぁ……」
息を止めていたことによる酸素不足で息が切れてしまった。
「……αタイプで良かった……巡回警備だろうな……全く笑えない……」
また、歩き出そうと思ったときに空から灰が降ってきた。
マスクなどは持っていないからとりあえず、建物内で灰が降り止むのを待つことにする。
降ってくる灰を眺めucが世界に蔓延っている理由を思い出そうとしていた。