金色の鬼
子供の頃によく爺様が言っていた”悪い子はお山の鬼に食われてしまうぞ”と・・・
ワシは猟をするために何度もお山に入ったことがあるが鬼なんておらなんだ。
まあ鬼とは子供を躾けるために用意された架空の存在ということだ。
まあワシも孫に同じ事を言っておるから批判など出来ぬ。
ある日ワシが畑仕事をしておると寺のあるお山の方から着物を頭から被ったおなごがやって来た。
寺の者が村に来るなど珍しいことだ。
「おじいさん、このお芋とお米を交換してはくれませんか?」
おなごはワシに大きな自然薯を見せた。
「ほう、これは立派なもんじゃな。沢山は分けてやれんが少しなら交換してもよいぞ」
「はい、かまいません。よろしくお願いします」
ワシの言葉におなごは声を弾ませて応えた。
「分かった、ではワシの家まで来てもらおうか」
村の長屋に着いたワシはおなごを土間で待たせて米を用意した。
「その芋とこの椀五杯の米とで交換じゃ、それでよいか?」
「ありがとうございます」
おなごは嬉しそうに芋を置くと手にしていた桶をワシに差し出した。
「あ、じいちゃん、その変なおばちゃん誰?」
「この人は寺の人じゃよ」
本人がそう言ったわけではないが寺の方から歩いてきた事と、顔を隠している事からの推測じゃ。
火事や色々な理由で寺に入る者も多い。
きっとこのおなごは顔に火傷か傷でもあるんじゃろ、かわいそうな事じゃ。
おなごはワシが桶に米を入れているのを祈るように手を合わせて見ている。
そこへいたずら好きの孫が忍びより横から着物を引っ張った。
「えぃ!」
おなごの頭から着物がするりと解ける。
そして、その下から金色の髪と青い瞳が現れた。
「ひっ、鬼じゃ!」
ワシは目を見開いて固まってしまった孫を抱えて外に飛び出した。
「鬼じゃ!鬼が出たぞ!」
その声を聞いた長屋の皆が飛び出してきた。
そして全員がワシの家からゆらりと現れた鬼に、言葉を失い立ち尽くした。
そんなわしらに向かって、鬼は不敵に笑うとお山の方へと去っていった。
誰も追いかけようなどとは考えられなかった。
あの話は嘘じゃなかったのだ。
お山には鬼なんておらんなどと、鬼を侮るようなことを考えたから、警告に来たのに違いない。
”悪いやつはいつでも食ってしまうぞ”と。
その後、村のみんなで相談して鬼を祭る祠を建て、鬼が残していった着物を収めてお米を奉納した。
それからというもの、村では悪さをする子供はおらんようになったそうな。
めでたしめでたし
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「だれがおばちゃんよ!それに金髪美女に向かって鬼だなんて、ほんと失礼しちゃうわ。ああ、もう少しでお米が手に入ったのに」
もうあの村には行けないよね。
私はうなだれながら寺へと続く道を歩いた。