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寺での生活

「ルーラリー様、起きて下さいな」

「ううん」

「起きて下さい」

もう食事の時間なのだろうか?

こっちは疲れてるんだから少しくらい配慮してほしいものだ。

「起きるから少し待ちなさい」

私は半分眠った状態で起き上がり、横にいた尼に水をくみに行かせた。

ねむい・・・

私は取り敢えずワンピースに着替えて髪を結い上げ、汲んでこさせた水で顔を洗った。

ちべたい・・・

外はまだ薄暗くおそらく六時くらいだろう。

「皆さんはもう集まっていますから急いで下さい」

そんなに急がなくてもとは思ったが、お腹はすいていたので大人しく尼の後をついて行った。

「ルーラリー様をお連れしました」

そこは大きな仏像がある部屋で住職たちが整然と座布団の上に座っていた。

私も空いている座布団の上に座る。

朝食まだかな・・・

私がまだ見ぬ料理に思いをはせていると、住職たちが何かを唱え始めた。

「「「・・・今見聞得受持・・・」」」

これ、お経よね。

食事の前のお祈りかしら?

首を傾げた私の前に食事の膳ではなく低いテーブルのような物に乗った巻物が用意された。

漢字ばかりで意味は分からないがおそらくこれはお経が書かれた巻物なのだろう。

私はこの状況について推測した。

おそらくこの人たちは外の世界を知らない。

多種多様な宗教や風習があることを知らず、皆が自分たちと同じで朝はお経を唱えてその後に朝食をいただくものだと勘違いしているのだろう。

私も朝はお祈りを捧げるが、仏像があるこの部屋で祈るのは少しはばかられる。

私はそっと立ち上がり廊下に出て階段に腰を下ろした。

「天の神々よ、昨晩からすべての危険、災いから守ってくださり、こうして新しい朝を迎えることができ感謝します。今日一日私を照らし導いて下さい。・・・・」

私はいつも通りに神々への朝の祈りを捧げる。

お経が終わらないと食事にならないだろうから、大人しく朝日を眺めていた。

しばらくしてお経が終わると憤怒の表情の住職が私の前にやって来た。

「先ほどの態度はどういうことですか!あなたが元はどのような方であってもこの寺に来た限りは決まり事は守っていただきます!」

堀田殿はこの住職に私の事をなんと説明したのだろう?

「あなたはまさかわたくしのことを出家するためにここに来たと勘違いしているのではありませんか?ここには堀田殿に宿泊場所として案内されただけです。それとわたくしはハルデブランド王国の第一王女、倭国で言えば将軍様の子供と同じ立場です。言葉遣いは選ばれた方がよろしくはないかしら」

「話が違う・・・」

住職が驚愕の表情を浮かべながら呟いた。

「何が違うのか、そもそもどのような指示を受けているのか、わたくしに説明しなさい」

「いえ、あの、私は何も聞かされておりません。ただ異国の人が来るとだけ聞いていたので出家に来られた方だとばかり」

はあ、訳が分からない。

堀田殿が朝まで来客用の宿舎に泊まっているはずであるからそちらに確認しよう。

何やらブツブツ言い始めて使い物にならなくなった住職は放っておいて、近くにいた気の弱そうな尼に来客用の宿舎への案内を命じた。



どうやら一足遅かった。

堀田殿は既に出発して宿舎には誰もいなかった。

ちっ逃げられたか、まあ本当に逃げた訳ではないだろうが出発の挨拶もなしに出て行くとは思わなかった。

だって、今後の説明をまだ何も聞いていないのだ。

いったい私をどうしたいのだろう?

もしかして今回手に入れた大砲だけあればよくて、さっさと同盟を解消したいの?

船で小笠原様が私に取った態度と今の状況がかけ離れておりどうにも真意が見えてこない。

まあ、人の思惑とか裏を感じ取ることは元々得意ではないので見えてこないだけかもしれないけど。

「あの・・・・」

尼がおずおずと口を開く。

いない者はどうしようもないので帰ろうかと思ったが、この宿舎って今の部屋より広いし塀で囲われていて住み心地も良さそうだ。

よし、こっちに引っ越そう。

「あなた、わたくしの荷物をここに運ばせなさい。食事などもこちらでいただくので準備なさい」

「あの、でも」とかしどろもどろする彼女を叱責して命令に従わせた。

色々分からないことは多いが、まともに説明されていない寺の者たちを問い詰めても時間の無駄だろう。

ここは基本自給自足の寺で彼女たちが山を下りることを許されておらず、外の者がくるのは月に一度、麓の村の者が味噌や塩などを持ってくるだけらしい。

ここは曰く付きの流刑地のような場所かとも思ったがただ戒律が厳しいだけの寺だそうだ。

ここまでが尼からの情報である。

住職はいつの間にかいなくなっていた。

尼の話では元々住職はここに居ないことが多いらしいので困ることはないそうだ。

私は困る。

今までの話を統合すると寺の外と連絡が取れるのは住職だけで、他の尼たちはまるで役に立ちそうにない。

江戸城へは歩いて行けるような距離でもないし、現在の待遇に関する説明は堀田殿か他の使者が来るまでは確認できそうにないので諦めることにした。

私は運ばれてきた朝食に口を付ける。

はあっ、精進料理ってこんなに美味しくないものなの?

全体的に薄味の葉っぱに薄い味噌汁、そして最大の問題は・・・

麦粥?しかしこの少し小さめの粒はなんだろうか・・・

ああそうか、米でないならこれは雑穀で、この時代ならきっとヒエとかアワだ。

まあ米の入っていない五穀米の粥だとでも思えば良いのかもしれないけれど、プリーズ白米

膳を下げに来た尼に昼は白米を出すように命じたが、残念ながら寺には米がないそうだ。

まあ無いのなら仕方がない。

食事を終えてからまだ少し眠かった私は縁側に寝転んでまどろんでいた。

ちゃんと入り口のかんぬきはかけてあるので、このだらしない格好を見られる心配は無い。

太陽は水平線から大分高い位置まで移動していた。

「暇ね・・・」

私は寝仏のような姿勢で鳥たちの声を聞きながら呟いた。

暇であれば何をするのか。

それは当然探検だ。

普通は刺繍や読書かもしれないが私にそれは該当しない。

ガバリと起き上がると荷物をひっくり返して騎乗服とレイピア、それと救急セットを取り出した。

スカートだと探検には向いていないのよ。

第一目標は体を拭きたかったので井戸だ。

朝の内に桶を庭に置いておけば太陽の熱で温まるはずである。

そう考えて探索したが桶はあったが井戸がない、残念ながらこの宿舎にはないようなので外を探すことにした。

門を出た私は取っ手の部分に祖国から持ってきた鍵をかける。

これで良し。

私は探検を再開した。

ここは山というか林の中にある少し小高い程度の場所で、視界はそこそこ開けておりそれほど険しくはない。

おおっ!私の心は高揚した。

祖国ではお父様の狩りに同行するときくらいしかこんなことは出来なかったけれど、ここにはいつも口うるさかった従者も侍女もいない。

「ヒャッホー!」

私は林を駆けずり回った。

しばらく探検を楽しんだ後に宿舎に帰ると今朝の尼が食事の膳を持ったままオロオロしていた。

あ、ごめん・・・



午後も周辺の探検だ。

オロオロ尼さんに確認したがここでは井戸ではなく、いくつかある湧き水を利用しているそうだ。

教えてもらった場所を探すとお目当ての湧き水が見つかった。

まあヨーロッパと違って日本の水なら普通に飲めるだろう。

宿舎に引き返して水くみ桶を二つ持ってきた。

「何往復すればいけるかな?」

オロオロ尼さんに桶で水を温める話をしたら、この宿舎には五右衛門風呂があることを教えてくれた。

庭の隅にある小屋だったのだが不覚にも中を確認しなかったのだ。

祖国を旅立ち強行軍や船で移動していた約一ヶ月半の間、私は布で体を拭くことしか出来ていない。

絶対に風呂を沸かす。

私は一杯になった水くみ桶を持って立ち上がる・・・ことが出来なかった。

「重っ!まあ私みたいな非力で可愛いお姫様が二つも運べるわけないか」

祖国のようにツッコミ役の侍女がいないことに少し寂しくなった。

私は桶の水を少し減らして両手で抱え込むように持ち上げる。

これが十リッターくらいだとしたら二十往復くらいかな。

日本の水道の事を思い出し、ため息をつく。

そういえば祖国にあったお風呂って確か三階だったよね・・・

侍女の皆様、今までありがとう。

私は一杯目を風呂に注いだ後に日の沈む方向に向かって頭を下げた。

その後、悪戦苦闘の末、夕食後にお風呂タイムを満喫した。

お風呂の水面が恐ろしいことになったが聞かないでほしい。

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