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悪い子はいねが(小笠原宗孝Side)

「悪い子はいねが」

「ぎゃー!」

「悪い子はいねが」

「きゃー!」

現在小笠原一族の子供たちは神の洗礼を受けている。

大きな鬼の面に藁でできた衣装そして手には御幣(神主が持っている白い紙の付いた棒のような物)、いわゆるなまはげの格好だ。

なぜなまはげとしてよく知られている包丁と桶を持った姿ではなく御幣を持っているかと言うと、中の人が包丁は少し怖いと躊躇したからだ。

ちなみにこの行事をやろうと言い出したのは彼女だ。

なんとも矛盾した話である。

それはともかく彼女は今回の一番の目的である部屋に入っていった。

そこは私の弟の息子がいる部屋だ。

弟は別に問題がある人物ではないのだが、どうやら子育てには少し失敗したようで甥は親の権力を笠に着て威張り散らす困った子に育ってしまった。

先日、彼女は甥が小さな女の子をからかっている場面に遭遇した。

詳細は割愛するが、甥は謝罪を口にしたが反省した様子はなかったらしい。

愚かな。

部屋の中からは甥の強がった声が最初は聞こえていたのだが・・・

「ごめんなさい。もうしない、しないからゆるして」

中でいったいなにが起こったのか・・・

私は妻を怒らせないようにしようと心に誓った。



ある日、私が手紙を書いていると、何やら言い争っている声が聞こえた。

「父上、私はもう一人前です。今年こそ船に乗せて貰います」

ふと視線を向けると、少し離れた場所で一組の親子が口論をしていた。

小笠原一族では実力が認められた子は船に乗ることが許される。

同世代の中で少し突出した実力があると自分が一人前だと過信してしまい、船に乗せろと要求する者が現れる。

さてどうしたものだろうか?

彼は同世代の中では優秀だが、まだ若く大人たちからすればまだまだ未熟だ。

私が出て行って頭ごなしにダメだと否定すれば表面上は解決するが、なるべくその方法はとりたくない。

だが本人に未熟だと納得させる方法が思いつかない。

彼の父親も言葉での説得は上手くいっていない様子だ。

大人が力でねじ伏せたとしても成人したばかりの彼とでは体格が違いすぎる。

流石に最初から勝負は見えており、それを理由に納得させられるかと言えば否である。

「あら、なにを騒いでいるのかしら?」

そこに散策から帰ってきた妻が通りかかった。

今日はどこへ行ってきたのだろうか。

妻はいつもの外出着に帯剣していた。

「これは奥方様、お騒がせして申し訳ございません。ほら、おまえも奥様に謝るんだ」

親に頭を押さえられて謝るように言われた彼はこれに反発した。

「俺は強い御当主様のことは尊敬しています。だからといって権力で無理矢理に妻の座に座った女やその子供に敬意を払うつもりはない」

彼の言葉にイラッとした私はすべてを無視して殴りに行こうと立ち上がった。

「も、申し訳ございません奥様、せがれには後で厳しく言って聞かせますのでなにとぞお許しください」

父親は流れるような動作でその場に土下座した。

「分別もわきまえていない子供の言うことですもの。気にしてはいませんわ」

「俺はもう一人前だ!」

妻の言葉に彼が反論する。

私も流石に我慢できなくなり口を開こうとしたその瞬間、妻が私に笑いかけた。

そのなんともいえない笑みに私の背中がゾクッとした。

当然私は何も見なかったことにして回れ右をした。

その後、なにが起こったのか私は知らない。

私に分かっているのはその日、ボロボロになった彼が父親に肩を借りて帰っていく姿と、”悪い子はお仕置きされるのです”と言って邪悪な笑みを浮かべた妻の姿だ。



ある日、ふと夜中に目が覚めた私は厠へと向かうため部屋を出た。

途中で廊下を歩く妻の姿を見つけた。

こんな夜更けにどこへ行くのか?

蝋燭の明かりに照らされた妻は妖艶な笑みを浮かべている。

私は何かえもいわれぬ恐ろしさを感じたが、勇気を振り絞って妻の後をこっそりつけた。

この先にあるのは妻の私室だ。

何の事はない、おそらく私と同じか水でも飲みに行っていたのだろう。

だが先ほどの妻の表情が少し気になったので、足音を忍ばせて妻の部屋に近づいた。

「ふっふ、ふふふ・・・」

部屋の中からは小さな笑い声が聞こえてくる。

何をしているのか気になって、私は障子に手を掛けたがそこで躊躇した。

あれは数ヶ月前のことだ。

”乙女の聖域を許可なく覗いてはいけません”

妻の祖国の風習だとは思うがここは倭国である。

そう思い、いたずら心も手伝って外から声も掛けずに障子を開いたことがあった。

目に飛び込んできたのは妻の白い肌

私は速やかに障子を閉めた。

その後半日以上の間、私は庭の砂利の上で正座することになった。

私が諦めて立ち去ろうとした瞬間

「あっ!」

中から小さな悲鳴が聞こえた。

私は咄嗟に障子を開けてしまった。

「大丈夫か!」

そこには指を口にくわえた妻がいた。

それと七輪で焼かれているお餅、そしてそのお餅の一つは畳の上に転げていた。

私はすべてを悟った。

「あ、えっと、これはね、ちょっとお月見しようと思って・・・」

いつもならここでなにか飛んできたりするのだが、今は夜中に許可無く部屋に押し入ったことより、隠れてお餅を食べていたところを見られた動揺の方が大きいらしい。

オロオロする妻がとても可愛かったので、私の心に魔が差した。

「夜中に間食をするなんて悪い子だね。悪い子にはお仕置きしないと」

「あのね、ごめんなさい、だからね・・・」

この約十ヶ月後、小笠原家に第三子が誕生した。

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