海上決戦と・・・(小笠原宗孝Side)
ハルデブランド王国より帰還して一年以上がたった。
大砲の力により海上での戦いも最近ではこちらの有利に展開している。
だが・・・
「なんだあの数は!」
油断していた。
小規模集団との戦闘に勝利し、その残敵を追撃している途中で前方から圧倒的な数の船舶が迫ってきた。
敵を侮り深追いしたのがいけなかった。
「反転!直ちに離脱する。右舷回答、退却の信号旗を揚げよ」
逃げ切れるか、戦闘時は追い風だったが離脱するなら当然向かい風である。
我々は後部甲板から大砲を撃ちつつ撤退した。
最悪の場合は大砲を積んでいない船を囮として残し、この大砲だけでも守らねば・・・
「前方に約10隻の大型船!」
見張り台の兵からの報告に緊張が走る。
この状態で挟撃されれば全滅する可能性がある。
全員が前方の船団を睨み付けた。
「前方の敵を突破しそのまま離脱する。戦闘の信号旗を下ろし我に続けの信号旗を上げよ」
兵がその指示を伝えるため新たな信号旗を掲げようとしたその瞬間
「前方船団の船首旗はハルデブランド王国旗、友軍です!!」
見張り台の兵が興奮したように叫んだ。
この日、我々は敵を海上から駆逐した。
戦の日から数日後、私はハルデブランドの船を先導して江戸を目指していた。
敵水軍の脅威がほぼ無くなったことと、通訳が出来る者が私しかいなかったため道案内として同行している。
だが通訳としては必要なかったかもしれない。
「ルゥールァリー王女付の筆頭女官、アーニャと申します。小笠原様のお姿はハルデブランドの港でお見かけしたことが御座います。ルゥールァリー王女がご息災であることはわかりきっていますが、元気が余って倭国の皆様にご迷惑などおかけしてはおりませんでしょうか?」
とても流ちょうな倭国語を話す女官が居たからだ。
流石ルー様の女官である。
なんとも一筋縄ではいかぬ気配を感じるが、姫のことを気に掛けていることは表情からなんとなく理解できた。
「申し訳ない、私はルー様を江戸にお送りしてからずっと戦場におりましたので詳しくはありませんが、姫の身に何かあったという話は聞いておりませんのでご心配には及びません」
私はこの無責任な発言を後日後悔することになる。
「姫様が行方不明?水戸様、それはいったいどういうことですか。使者の方々は既に控えの間でお待ちいただいているのですよ」
国賓であるはずの姫が行方不明になるなどあっていい話ではないし、対処を誤れば同盟に亀裂を生じさせ、最悪は戦争になるかもしれない。
いや、そんなことより、先ずは姫を探さねば・・・
「捜索はさせている。見つかるまで使者の相手はそなたが務めよ」
当代の水戸藩藩主はぼんくらだという噂はあったがこれほどとは・・・
「私が主君より命じられたのはハルデブランド王国の使者の方々を姫様の元へご案内することです。水戸様の命には従えません。これより私は姫様の捜索に加わりますので、水戸藩で捜索の指揮を執っておられる方をお教えください」
この問いに水戸様は答えず、すべてを家老の織部豊邦様に丸投げした。
そしてわかったことは誰もまともにルー様を捜索していないという事実だった。
私は当時の状況を聞き出した。
水戸藩の者は当てに出来ない。
私は船の部下と江戸下屋敷の者を動員して姫を捜索することにした。
だがその前に使者の方々に状況を説明しなければならない。
私は使者の方々に通訳をしてもらうためにルー様の女官を別室に呼び出した。
「あまり良いお話ではないようですね」
どうやら顔に出てしまっていたようだ。
私では通訳が片言になってしまい現状が正しく伝わらないかもしれない。
私はまず彼女にルー様の現状を話すことにした。
「はぁ、大人しくしておられるとは思っていませんでしたけど・・・」
ルー様には江戸でのんびり生活していただく予定だった。
すべて我々が悪いのだ。
「ルー様は必ず我らが見つけると約束する。申し訳ないのだが、私が使者の方々へ説明する際の通訳をお願いしたい」
私は深く頭を下げた。
「きっと大丈夫です。ルゥールァリー様はネズミ並みにしぶといですから、多分どこかでのほほんと生きてますよ。他の人たちにはルゥールァリー様は旅行中だから私が今から迎えに行くと言っときますのでご安心を」
このような事態になり罵倒されることを覚悟していたのだが、ルー様の女官の言葉に驚き彼女を見つめた。
「いや、我らへの気遣いは無用に願う。使者の方々に嘘をつく訳にはいかぬ。正しい現状をお伝えしてくだされ」
ルー様が行方不明になったのはこちらの失態、これ以上嘘や隠し事をすることなど出来ない。
「いえ、私はあなた方のことなど毛ほども気遣ってはいないのですよ。ただルゥールァリー様はお人好しで、自分のことで誰かが不幸になるのを嫌います。だからなるべく穏便に済ませたいのです。なので私が他の方々に説明してきますので小笠原様は彼らの滞在間の接待をお願いしてきてください。まあ彼らはお酒さえあれば文句など言いませんからご安心を。その後、またここで落ち合いましょう。よろしいですか」
その数日後、ルー様の情報はあっさりと手に入った。
ルー様が襲撃された場所より西に行った山で金の髪に青い瞳の天狗が出るそうだ。
拠点にしている宿からすぐに出発しようとした我々を姫の女官が制止した。
「金の髪に青い瞳などルー様いがいの誰だというのだ。すぐに迎えに行こう」
ルー様が見つかったというのに、なぜ姫の女官は我々を止めるのだ?
「お待ちください。ルゥールァリー様の鬼ごっことかくれんぼの実力を侮ってはいけません。もし逃げ隠れされたら次は容易に発見することは出来ないでしょう。もっと情報を集めて確実に仕留めましょう」
そう言って笑った彼女を見て、少しだけ背中に寒気を感じた。
「わ、わかった」




