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出会い

私の必死の叫びはあの場にいた全員の心を捉え、その場は気まずい雰囲気に飲み込まれた。

最初に混乱から回復した徳川様によって、その場は一時解散になった。

その後、水戸藩の家老で織部豊邦という人がやって来て意見や要望のすりあわせを行った。

結婚相手は御三家か譜代大名の家臣の中でそれなりの家格と地位にある者を選ぶことになった。

当然、雪と海の件も了承してもらった。

御三家か譜代大名の子息ではなく家臣の中から選ぶことになった理由は、単純に私が厄介ごとに巻き込まれるのが嫌だったからだ。

特に御三家なんて今は次期将軍を選ぶためにピリピリしているらしい。

そんなところに絶対割り込みたくない。

平穏が一番である。

また当面の私の環境については専属の女官と護衛、更に料理人まで付くことになった。

当然白米も支給される。

船で一ヶ月、そして寺で一ヶ月、期待しては裏切られてきたがついに白米にありつける。

今は護衛に囲まれて寺に帰る途中だ。

寺の食事は気に入らなかったけれど環境は気に入っていたので、宿はそのままでお願いした。

先ほど前回と同じ茶屋で団子を四皿いただいてお腹もいっぱい。

私は今とても上機嫌である。

「白米!白米!この世の至宝・・・」

私はオリジナルの白米賛歌を小声で歌った。

気分が高揚しているためか駕籠の揺れが気にならない。

病は気からとはよく言ったものだ。

ガタン!

急に駕籠が止まったので私は小窓から外を見た。

「道を空けよ。この駕籠が水戸藩のものと知っての狼藉か!」

え、何が起こってるの?

「狼藉ではない。拙者は水戸藩侍大将、和田日達である。水戸様の御心に沿いこの地にまいった。大砲が手に入った今、その姫は用済みだ。大人しく差し出せば見逃してやるぞ」

狭い駕籠の中にいることが怖くなり、私は駕籠から飛び出した。

そこで見たものは倭国に到着したときに港から江戸城まで私を案内した和田なにがしと頭巾を被った男たち、そして動揺している護衛の侍たちだった。

怖い。

頭巾の男たちの方が圧倒的に人数が多い。

その場は激しい乱戦になった。

怖い、ここに居てはいけない。

私は近くの林に向かって走り出した。

この行為は護衛を見捨てて逃げたという者がいるかもしれないが、勝てないとわかっているのに全員で仲良く死ぬのが良いことか?

私が逃げれば、追ってくる者と護衛を足止めする者に分かれて、結果的に護衛の生存率は上がる。

数人が私を追って来た。

襲撃者たちは飛び道具や馬を用意していないようだ。

私は走った、走り続けた。

林の手前で追っ手の一人が私に追いつき刀をぬいて斬りかかってきた。

私は反射的に腰に下げていたレイピアでその刀を払い、相手の体に刺突を加えた。

運が良かった、祖国で何度も練習してきた型と同じ刀の軌跡に勝手に体が動いたのだ。

男のぐもった悲鳴が聞こえる。

追っ手はまだ数人いる。

私は急いで剣を引き抜いて走り出した。

私の体は船酔いで一ヶ月ほど船の中で寝て過ごしたためかなり弱っていたが、寺で毎日探検や日々の生活によりほぼ回復している。

私は田畑を越え、林を抜けて追っ手が見えなくなった後も走り続けた。

そしてどれくらい走ったであろうか、私は山の中で足を止めた。

「父様、母様、リアナ、ハルメ、シェラ、キース、ロラン、アーニャ」

私は両親と弟妹、仲の良かった侍女の名前を呟いたが、みんなは海の向こうにいて誰も助けに来てはくれない。

ここには誰もいない。

私の瞳から滝のようにしずくが落ちる。

白米が食べたいと言う思いだけで私は倭国に来た。

それ以外は何も考えていなかった。

同盟という友好的な言葉の裏に悪意が潜んでいるなんて考えもしなかった。

帰りたい・・・

でも祖国は遠く、また船がないと帰れない。

私は行く先も分からぬまま歩き始めた。

止まっていることがとても怖かったからだ。

日が暮れて、日が昇る。

そして太陽が真上にさしかかった頃、獣道を歩いていた私にぐもった女性の声が聞こえた。

立ち止まって耳を澄ますと、それは助けを求める声だった。

こんな時に厄介ごとに関わるべきではないと言うことくらいは分かっている。

でも私にはそのまま素通りすることが出来なかった。

声のする方に歩き、茂みの中からこっそりと状況を確認した。

そこには四十代くらいの女性が倒れていた。

周囲の状況から察するに、その向こうの少し高くなっているところから落ちて足を痛めているようだ。

出血している様子もないし、放っておいても死ぬことはないだろう。

「大丈夫ですか?」

怪我をしているので大丈夫ではないことも、この状況で彼女に関わるべきではないこともわかっているはずなのだが、自然とその言葉が口からこぼれた。

「誰かおるの?お願い助けて!」

その必死な叫びに私は茂みから一歩踏み出してしまっていた。

彼女の瞳が私の姿を映す。

「天狗様?」

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