ダイイングメッセージ
「バーン!」
先輩達と俺の四人全員がそれぞれ本を読んでいる静寂を破ったのは、あーや先輩の叫び声だった。
顔をあげてみると、指で銃の形を作って俺に向けていた。
「え」
「いや、『え』じゃなくて。バーン!」
「え」
他の二人に視線で助けを求めるが、視線に気づいた七瀬先輩は俺に向けて薄ら笑いを浮かべてからすぐ本へと視線を下した。この先の流れを野次馬として楽しもうというオーラをビンビン感じる。そして、沙羅先輩に関してはこちらを見ることすらしない。というか本も見てない。床をジーっと見つめていた。
「バーン!」
三度目の発砲。そろそろ反応しておくべきだろう。三発ももらったら耐えられない。
「う、うわー!」
バタリ。死んだふり。
「だよな」
「何がですか!?」
あまりにも意味不明なやりとりすぎて蘇生しちゃう。
「ダイイングメッセージってさ、残さないよな」
「最初からそう言ってくれませんか!?」
「さっきまで読んでた推理小説でダイイングメッセージが出てきたんだけどさ。死ぬ間際にこんなことできないよなーと思って。一連の動作に組み込んでくるのか気になってやってみた」
「俺にそんな期待されても殺されたことないから分からないですが」
「生き物は生命に危険が及ぶと知能が研ぎ澄まされるという噂もあるけど」
「ほほー。いっちょ殺ってみっか」
「お疲れ様でしたー!」
鞄を持って逃げる準備!
「大丈夫大丈夫、するわけないだろー」
「ですよねーハハハハ」
あーや先輩が逆手で握ったペンは見ていないことにしよう、うん。
「でもさー、いくらなんでも犯人に分からない暗号を残すってのは事前に考えとかなきゃ無理があるだろ」
「分からなくても、不審な動きで残した物なんて消されちゃいそうですしね」
「犯人が残したフェイクの時もあるからね。まぁ、そういったミスリードや疑惑を呼ぶこともある推理物のスパイス的な存在だよ」
「だよなー」
「ただ、実際の事件でもメッセージが残されたケースがあるらしいよ」
「マジでか!で、それは証拠になったのか?」
「それが決め手になって、解決したと聞いたよ」
「すごいなダイイングメッセージ!」
「いいですね。これでいつあーや先輩に殺されても大丈夫です!」
その言葉を聞くが早いか、あーや先輩の握られていたシャーペンが半袖で剥き出しの腕に命中する。
激痛でのたうち回りつつ、やっぱり事が起こった時にはそんな余裕無いんだなぁと思った。