たい焼き論争
現在俺一人の研究室。とても静かだが、もうすぐ先輩達が来る頃だろう。ひと時の平穏を、研究室の本棚に置かれた漫画を読みながら満喫していた。すると、扉が開く音がしたため本から顔を上げる。
「お疲れ」
七瀬先輩、背中に隠れるように続いて沙羅先輩が来た。そこで扉が閉められる。この時間は先輩達三人共同じ講義を受けていたはずだが。
「お疲れ様です。あーや先輩は?」
「あーやなら、寄りたいとこがあるから先に行っててくれと言って途中で別れたがそろそろ……」
バァン!と、間髪入れずに扉が開く。
「喜べ諸君、たい焼きを買ってきたぞ!」
あーや先輩が紙袋を抱えて入ってきた。
「今日は売店で割引してたのを思い出してな。久しぶりに食べたくなったから買ってきたんだ。みんなで食べよう」
「おお、いいね。いただこう」
「いただきま~す」
ひょい、ひょい、と紙袋からたい焼きを受け取る。沙羅先輩はしれっと先に取って口に運んでいた。
「ところで、たい焼きってどこから食べる?」
「俺は頭ですね」
「私も」
俺と七瀬先輩の手には頭が齧られた状態になっているたい焼きが握られていた。
「二人はそっちかー」
尻尾派であろうあーや先輩は、お尻を一齧りしてご満悦な様子だった。
「尻尾もあんこが詰まってる派と生地だけ派で別れますよね」
「そうなんだよなー。私はあんこ派だけど、ここのは尻尾までギッシリのタイプなんだ。端っこはカリカリだしな」
「生地だけだと、あんこが詰まっている他の部位と交互に食べる人もいるみたいだね」
「お腹とか背中からガブっといくやつも見たことあるな。鮭を食べる木彫りのクマみたいになってたが」
「ワイルドな人もいるんですねー。沙羅先輩はどこからです?」
「ん」
頭に食らいついたまま微動だにしない沙羅先輩。
「沙羅も頭派かー」
「後ろから食べるというのは、行儀が悪く見えることもあって人間の心理的にも少数派になってしまいがちなんだろうね」
「納得いかないぞー」
ご満悦顔から一転、不満顔のあーや先輩はキレイに鯛のお頭を作りあげていく。
ここで、沙羅先輩が全く食べていないことに気付く。食べるのが遅いというか、一口目から動いていない様子だった。
「沙羅先輩、どうかしました?」
声をかけるも反応無し。沙羅先輩が無反応なのはいつものことだが、ここで聞きなれない音がしていることに気付く。
何やら、沙羅先輩の方向から何かを吸い込む音がしていた。
「あ、あの。沙羅先輩……もしや」
「間違いない、こいつ……吸っているっ!?」
「けぷっ……」
沙羅先輩がようやく口を離したたい焼きは、中身がきれいさっぱり抜き取られていた。
たい焼きって内臓派もあるんだ……初めて知ったよ。