七瀬先輩
講義が終わり、いつも通り研究室……ではなく、講義で使用するルーズリーフを切らしてしまったので補充のために大学内にある書店へと足を運んでいた。
この書店だと学生割引で文房具は20%、その他は10%安くなるのだ。
書店入口近くにある使い慣れたA5用紙を手に取ってレジへと向かおうとした時だった。
「ねぇねぇ、あの人すごくかっこよくない?」
ふと、周りの会話が耳に入る。そうなると、気になってしまうというもの。もしかして……いや、別に自意識過剰というわけでは断じてない。断じて。そう自分に言い聞かせながら声がした方を向く。
「ホントだ、綺麗~。先輩の人かな?」
女学生2人が奥の方を見ている。やっぱり俺ではない、知ってた。
2人の視線の先を見てみると……。
「あれ、七瀬先輩」
雑誌コーナーで立ち読みをしている七瀬先輩がいた。どうやら彼女達が言っているのは先輩のことらしい。先輩の整った顔立ちは同性をも魅了するのか……なんて羨ましい。
研究室以外で会うのも珍しいと思い声をかけてみることに。
「先輩、どうも」
「おや、優吾君。君も読書するのかい?」
「俺はルーズリーフを買いに来て。本は最近あまり読んでませんね」
「そうか。たまには活字だけのものでも、漫画でも読むといいよ」
「先輩は何を読ん……で……」
七瀬先輩が開いているページを覗いてみる……と、なんて言ったらよいのか、裸の女の子が触手にまとわりつかれ、あられもない姿になっていた……。
「ちょ、ちょっと!何読んでんすか!?」
「いかんぞ優吾君、公共の場で騒ぐのはマナー違反だ」
「エッチな本を堂々と読むのもどうかと思いますが!」
「店側が陳列しているんだ。何も問題はない」
たしかに教育機関の内部に設置されている店舗としてはいかがなものかと思う。
そんなことを思っていると、遠くからさきほどの女学生2人の会話が聞こえる。
「何読んでるんだろ、ファッション誌とかかな?」
女性の服装には疎いが、こちらがご覧になられてるのは素っ裸でファッション性の欠片もないと思われます。触手を巻くのがトレンドだったりするのかな?ファッションも奥が深い。
「とまぁ冗談はさておき。別ページの漫画を読み終わって適当にこのページを開いていた時に君が声をかけてきただけさ」
「からかわないでもらえますかね……でも先輩も漫画とか読むんですね。自己啓発本とか参考書か、小説とか読むのかと。賢そうですし」
そう言うと、七瀬先輩がきょとん。とした顔をした後に笑った。
「そうか、私は賢そうに見えるのか」
「違うんですか?……あ、なんかイメージだけで決めつけちゃって気に障ったようでしたらすいません」
「いやいや、第一印象というものは見た目が重要だ。それで持ったイメージが実際のそれとは違ったとしてもおかしいことではないよ。『賢そう』という言葉もマイナスではないし、そう思われているのであれば私としては喜ばしい」
「実際は違うんですか?」
「まだ君とは知り合ってそう長くないんだ。せっかくだし、私がどんな人物かは君の目でじっくり見定めてみたまえ」
ハハハハ、と笑いながら漫画雑誌をレジまで持っていく先輩。
3人の先輩の中では一番まともそうだけど、ある意味では七瀬先輩が一番不思議で変な人なのかもしれない。






