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幕間1.華々しきジャスティス・アイ

 『アイ』は日本国籍の超人を保護・管理する組織である。人が鍛錬によって持つ事のできない、超人的な力。先天的に持って生まれてくる者、後天的に力を得る者、人によってその原点は様々だが、現在超人は世界中で増加傾向にある。一歩間違えば災害、社会的事件、迫害へと繋がり得る超人達のプライバシーを管理し、彼らが正しく力を使いこなし、社会に貢献できるように、『アイ』は日本中の超人の指導を行っているのだ。


そんな『アイ』の管理する会員制スポーツジムが、葦原市内の駅前に存在した。品揃えの豊富な各種トレーニング器具に、評判のいい各種イベント。常人、超人に限らず大勢の人が使用しており、人気の高いジムだ。


その一角に、少人数で使用する、予約制のトレーニングルームがあった。超人のプライバシー保護や、危険な能力のコントロールの為に作られた部屋で、トレーニング器具の他にサンドバッグ等の格闘技の訓練に使う道具等も置かれている。その部屋の中に、二人の姿があった。


「それじゃあ、もう一度やってみて」

「了解」


 部屋の中央で、トレーニングウェアを着た綾に言われ、大は目を瞑り、意識を集中させた。両脚を通じて大地から全身にエネルギーが伝わるのをイメージし、今日何度も叫んだ言葉を口にする。


巨神(タイタン)!」


 声と共に、大の体を閃光が包む。光が収まると、大は戦装束に身を包み、ミカヅチへと姿を変えていた。


「うん。変身は完璧みたいね。じゃあ次は能力テスト」


 綾は二人がいる場所から二~三メートル離れたちょうど部屋の中央、ダンベル器具やマットの間にある広い空間を指差し、


「そこに……そうね、グレイフェザーを作れる?」

「もちろん。楽勝だよ」


綾の問題に答えるため、ミカヅチは両手を広げ、綾の指差す場所へ手を伸ばした。まるで魔術師めいた格好だが、この方が集中できるのだ。


変化はすぐに現れた。綾が指定した先、何もなかった空中に、霧のようなものが渦を巻き始める。数瞬もしない内に霧は意志を持つかのように広がりだした。特定の方向に動き出し、次第に密度も濃く、形を作り上げていく。それに伴い、乳白色だった霧も様々に色づき、作り出されようとしているもののリアリティを高めていく。


ものの数秒もしない内に、灰色の大鳳を思わせる衣を身につけた、細身の青年が姿を現した。


綾が手を叩いて笑った。


「似てる似てる。大分使いこなせるようになったみたいね」

「ずっと訓練してたからね」


 褒められた事に気が緩み、ミカヅチも笑う。ここニ週間ほど、大は綾と共に巨神(タイタン)の力について調査と訓練を重ねていた。


個人差はあるが、歴史書に残るかぎりでは、巨神(タイタン)の加護を得た者は怪力を主とした肉体の強化が起きる。それに加えて、自在に形状を変える白銀の双棍を武器として使うのが一般的だ。ティターニアなどは平均的な巨神(タイタン)の子と言える。


 大も綾と同じ力を得ていたが、それに加えて一つ違うところがあった。自分の意志で幻影を作り出す事ができるのである。


 無からあらゆるものを生み出す事ができる、と言えば聞こえはいいが、実体は触ればすぐに掻き消えるあやふやなものだ。今の所ヒーローとして戦闘に使う事になったとしても、せいぜい目くらましにしか使えない。それは今後の訓練次第といったところだ。


「ひとまず力のコントロールは上手くいってるみたいね」

「不安なところはないよ。もし明日フェイタリティが脱獄して来たって、何とかしてみせるよ」

「こら、調子にのらないの。あいつは特別なんだから。今の大ちゃんじゃ、せいぜい5分持つかどうかってところね。それにしても」


 綾はグレイフェザーの幻に近づき、しげしげと覗き込んだ。


「またずいぶんと若い頃のグレイを作ったのね」

「俺からすると、グレイフェザーのイメージはこれだからさ」


 日本有数のヒーロー、グレイフェザーの活動期間は長く、コスチュームデザインにもいくつかパターンが存在する。ミカヅチが作ったのは十年前、ティターニアが現役で活動し、共に戦っていた頃の姿だ。マスクからこぼれ見える顔つきも、今に比べると若々しさが感じられた。


グレイフェザーの幻をつついて楽しそうに笑う綾を見て、ミカヅチの気も大きくなっていった。


「他にも作ってみようか?何だって作れるよ?」


 意識を再度集中させると、グレイフェザーの隣に次々と往年のヒーロー達が作り出されていく。全身を青白く光らせた仮面の男は、日本最強のヒーロー、ブルーフレイム。傷一つない滑らかな装甲に身を包んだ、雷より速い男、ジンライ。分子操作を得意とするシンラは、その体のラインを強調するコスチュームデザインもあいまって、当時ティターニアと人気を二分するスーパーヒロインだった。


 次々と現れた友人達の懐かしい姿に、綾も興奮気味に笑う。ミカヅチも調子に乗って、さらに指を鳴らす。


「それに、ティターニア!」

「ちょ、ちょっと!」


 ミカヅチが指を鳴らすと、先ほどの大と同じく、綾の体が閃光に包まれた。綾の抗議の声を無視して、光はティターニアの装束へと変わった。だがその姿はミカヅチのいたずらで、かなり露出が高くなっていた。

 ジャケットと白銀の手甲、足甲は変わらない。だがいつものぴったりと全身を包んだ青い衣は、ビキニのように大事なところを隠すのみとなっていた。胸元は大きく開き、綾のふくよかな胸がさらに強調されている。


 全身の美しい肉のラインを目の当たりにして、ミカヅチは思わず赤面した。


「うわ、すげぇ」

「ちょっとこら!さっさと戻して!」


 ティターニアの怒声で、ミカヅチは慌てて指を鳴らした。

 綾達歴代の巨神(タイタン)の加護を得た者と違い、大が手に入れた力はもう一つある。それが、他者の巨神(タイタン)の加護を操作できるというものだ。自分の意志を解さず、綾の変身を自在に操り、衣装すら変えられる。とは行っても、身近にいる巨神(タイタン)の加護を得た者は綾しかいないので、操作できるというのが正確なのかどうかは分からないのだが。


すぐに綾の姿は元に戻ったが、その後数分、ミカヅチは綾の物理を組み合わせた説教に付き合わされる事になった。



「もう、ほんとに恥ずかしかったんだからね?」

「ごめんなさい。調子に乗りすぎました」


 トレーニングを終えた後、二人は帰宅の途についていた。綾の運転する電気自動車は無駄な振動や音を立てることもなく、氷の上を滑るように滑らかに夜の道路を渡っている。



「いやでも、すごい似合ってたよ。普段から鍛えてるだけあって綺麗だった」

「海で水着を着てる時に言われるなら、嬉しいけどね」

「今度戦う時があったら、あれ着てみる?俺なら指先一つでコスチューム変えられるよ?」

「やったら本気で怒るからね?」

「はい……」


 氷よりも冷たい綾の一言に、からかい気分は一気に収束した。思わず体を硬直させてしまいながら、話題を変えようと考えを巡らせていると、先に綾が口を開いた。


「そういえば、大ちゃんはコードネームは考えたの?」

「コードネーム?」

「ヒーローの名称の事。ヒーロー活動しろなんて言わないけど、もし必要になった時は何て名乗るか、決めてる?」


 大は一瞬言葉に詰まった。初めて変身した時勢いで名乗ったが、それも今考えるとどうかと思っていたりする。巨神(タイタン)とは関係のない名前だし、もっと巨神(タイタン)の神話に関係する名前をつけたほうがいいのでは、などと考えを巡らせているのだが、中々候補が一つに絞れないでいた。


「えっと……最初はミカヅチ、とか考えてたんだけど」

「ミカヅチ?ああ、建御雷から取ったのね。記紀神話における軍神、武神、相撲の神様よね。武と力を尊ぶ、日本生まれの巨神(タイタン)の御使いとしてぴったり。いい名前じゃない」


 綾はさらっと由来を言い当てた。綾の学生時代、神話や伝説を好む、体育会系文学少女だったのを、大は思い出した。


「……ほんと?」

「ほんとだってば。こんな事で嘘ついてもしょうがないでしょ?こういう名前ってのはちゃんと意味を考えてつけないと、あんまり変な名前をつけると後が大変だからね。私の友達なんて……」


 先ほどの幻に思い出を刺激されたのもあってか、昔話がどんどん止まらなくなる綾に、大は相槌を繰り返していた。

初めて変身した時に勢いでつけた名前だと、既に言える空気ではなくなっていた。

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