1-3.決着と告白
金庫室に開けた穴の先には、巨大な廃坑が地下に広がっていた。暗闇の中、等間隔に設置された電灯の光を背に、ティターニアとフェイタリティの戦いは続いていた。
「はぁ!」
「ちっ!」
二人の武器がぶつかって火花を散らすたびに、大音量で鐘を鳴らすような音が周囲を奮わせる。
2メートル近い長刀が、フェイタリティの手の中でまるでナイフのように舞い踊る。ティターニアの双棍が翻り、全ての斬撃を弾き返す。
「しゃあっ!」
上段から稲妻のように下ろされた長刀を、ティターニアは双棍を交差させて受け止めた。
二人の肉がきしみ、金属が擦れて音を鳴らす。
「最高だ、ティターニア。10年も姿を見せなかったってのに、技は衰えるどころか成長してやがる」
「そう。でもそんな事言ってて、いいのッ!」
フェイタリティの気がわずかに緩んだ瞬間、ティターニアは巧みに棍を動かし、フェイタリティの長刀を滑らせた。ティターニアから見て左に長刀が落ち、刃先が地面に突き刺さる。
「うお!」
「ふっ!」
フェイタリティはためらう事なく柄から手を離し、大きくのけぞった。一瞬遅れてその空間をティターニアの持つ刃が切り裂く。
後方に数回バク転し、フェイタリティはティターニアと再度対峙した。
「全く、ほんとに便利だな、そいつは」
ため息混じりにフェイタリティが愚痴をこぼす。 ティターニアの右手に握られていた棍は形を変え、白銀の剣となって光を反射し煌いていた。
ティターニアの使う双棍はただの金属の棒という訳ではない。巨神の加護を得た者のみが使う事のできるその武器は、使用者の意志に応じてあらゆる形状の武器に変化する。
フェイタリティは背のアタッチメントから生えている柄を両手で一本ずつ握り、勢い良く引き抜いた。
アタッチメントの中で液状になって保護されていた金属が、大気に触れて形状を取り戻す。手に生まれた二本の分厚い刀を軽快に振り回し、大きく両手を広げて構えた。
「こっちはそいつを参考にして、やっと作ったのがこんなデカブツだ。一本譲ってくれよ」
「偉大なる巨神への信仰を持たないあなたが持っても、ただの鉄棒より役に立たないわ」
「だろうな!」
「はぁ!」
フェイタリティの突進に対し、迷う事なくティターニアは真正面から立ち向かった。両手の棍は既に、フェイタリティと同じ双剣へと変化している。
舞うように動く二人の間で、その動きとは裏腹に、金属同士がぶつかり合う重たく、鋭い音が絶え間なく鳴り響く。まるでアクション映画のワンシーンのようだ。
何故彼がこんな事をしているのか。ティターニアの脳裏に疑問が浮かんだ。
フェイタリティは元々、長年戦場を駆け巡った傭兵だ。ナイフから銃火器、爆弾に至るまであらゆる兵器を使いこなす。その肉体は幾度も強化改造を行い、身体能力はティターニアにも匹敵するだろう。本来ならばこんなチャチな銀行強盗の手伝いなどやるはずがないのだ。
そちらも気になったが、ティターニアにはそれよりも気にする事があった。
(このまま戦い続けるわけにはいかない……!)
奥歯を噛み締める。目の前の敵は強い。10年以上前、ティターニアがヒーローとして活動していた時に何度も戦ってきた宿敵の一人だ。負けるつもりはないが、戦いが長引けば大の命が危ない。フェイタリティの部下が持っていった荷物も気にかかる。
袈裟懸けに振り下ろされたフェイタリティの右の刀を、ティターニアは回転しながらかいくぐる。そのままフェイタリティの膝裏めがけて剣を水平に薙いだ。
「ちっ!」
フェイタリティはその場で横に回転しながら跳躍した。その勢いのまま右の後ろ回し蹴りがティターニアの後頭部を襲う。
肩で蹴りを受け止め、勢いを殺しきれずにティターニアは地面に転がった。
瞬きの後、目の前にフェイタリティの巨大な体が現れる。
「!」
そのまま止まらず、連続で転がる。二度、三度、背後で刃先が地面に刺さる音がした。
呼気と共に立ち上がり、後方に跳んだ先で、ティターニアは失敗を悟った。背にぶつかったのは坑道の壁だ。動きが制限されたこの状況で、フェイタリティの攻撃をかわすのは至難の業。
フェイタリティが背から抜いた大斧を両手で握り、大上段に構えた。
「さあどうする、お嬢ちゃん!」
そのままティターニア目掛けて、一気に振り下ろそうとした瞬間、ティターニアは倒れこみながら思い切り壁を蹴り飛ばした。
「!」
一気に加速したティターニアが斧をかいくぐり、そのままフェイタリティの鳩尾に肘をめり込ませた。
「ぐ……ッ」
うめき声と共にフェイタリティはくずおれる。そのまま踏み込んだ足で跳躍し、ティターニアは棍を縦にして仮面に叩き込んだ。
フェイタリティの仮面が真っ二つに割れ、仰向けに大の字で倒れた。斧が大きな音を立てて地面に転がる横で、ティターニアは大きく息を吐いた。
復帰戦としては危険な相手だった。体も重い。一歩間違えれば倒れていたのはこちらだろう。
フェイタリティは倒れたまま動かない。装置を運んだ男は既にどこにもいない。捜索は困難だろう。
「大ちゃんのところに戻らなきゃ……」
来た道を戻ろうと歩を進める。自分がティターニアだと知って、彼はどう思うのだろうかと、少し気になった。
歩を進めようとして、ティターニアはバランスを崩して前のめりに倒れた。
「え?」
「てぃ、ティターニアァ……!」
ティターニアが振り向くと、フェイタリティが足首を握り締めていた。
「フェイタリティ!?」
気絶からの目覚めが、ティターニアの記憶にあるそれよりも早かった。10年間に行われた強化改造が、失神からの回復も高速化していたのだろう。
ティターニアが立ち上がろうとするより早く、体を引きずってフェイタリティが馬乗りになる。フェイタリティの割れた仮面から覗く顔が、にやりと笑った。
「惜しかったな、お嬢ちゃん。10年前なら俺の負けだった。こっから逆転の芽はあるか?」
「くっ……」
まずい。焦るティターニアの顔面目掛け、フェイタリティが構えた拳を振り下ろそうとする。
その瞬間だった。
「やめろォッ!」
叫びと共に赤い影が弾丸のように現れ、フェイタリティと激突した。
「うおぉぁあ!?」
不意の一撃に対応できず、フェイタリティは受身も取れずに地面と平行に跳んだ。巨体が地面を二、三度転がり、壁にぶつかった後、フェイタリティはそのまま完全に動きを止めた。
体を起こしながら、ティターニアは茫然として、目の前に現れた影の正体を見つめた。
仮面をつけていても、自分と同じ、偉大なる巨神の装束を身にまとっていても、彼が誰かはすぐ分かった。
「……大、ちゃん……?」
「間に合った……また、会えた……」
振り向いて笑顔を見せると同時に、仮面が光に溶けて消えた。糸が切れた人形のように倒れた時には、戦士は大へと戻っていた。
『――本日14時頃、葦原市中央銀行に武装強盗団が押し入りました。強盗団は現金と地下の貸し金庫に保管されていた物のいくつかを強奪し、地下に開けた穴から逃走を図りましたが、強盗団のうち16人は、現場に居合わせた何者かに無力化され、逮捕されました。強盗団の残り一人は逃走した模様です。警察は逃走した犯人の捜査を進めると共に、強盗団を抑えたヒーローの行方を追っています――』
天城家のリビングで、テレビから流れるニュース番組のナレーションが、場の空気を無神経に引っ掻き回していた。
中央に置かれたソファーに座った大と綾が無言で見つめあう。二人以外はいつもと変わらない日常なのに、二人のまとう空気はなんとも重い。
大が目を覚ました時、既に日は暮れ、自宅のベッドに寝かされていた。後から聞いた事によると、警察が銀行に突入した時には既に強盗は皆捕縛されていたそうだ。大は強盗の一人に殴られて気絶したという事で綾が押し通し、そのまま知り合いが勤めている病院に連れていったらしい。
眠っている間に検査を行い、体に異常は何もないと判明したそうだ。ベッドから重たい体を起こした時、最初に見た綾の顔が忘れられなかった。
しかしそれからが大変だった。強盗に撃たれたはずなのになくなっている傷。ティターニアと同じような力を得た驚愕、そして綾がティターニアだったという事実。
病院から家に着くまでの間、互いに言いたい事は色々あるのに、何も言えないまま、二人はどうすればいいのか迷い続けていた。それは部屋に入ってからも同じで、二人はよそよそしく会話しながら、互いにどう切り出すか迷い続けていた。
『ティターニア!』
テレビから昼間に聞いた声がして、二人はテレビの画面に顔を向けた。短く髪を刈った大男が、警察に拘束されたまま、感極まったような笑顔で叫んでいる瞬間が映っている。
大も綾も、男が誰かはすぐ分かった。フェイタリティだ。
『どこかで俺の声を聞いているか、ティターニア! お前に再会できて嬉しかったぞ! お前が消えてからずっと、俺の人生は灰色だった! 今日お前とやり合えて、俺は幸せだ! ムショに行く前に、最高の思い出ができた! 愛してるぜ、ティターニア! ハハハ!』
『――先ほどのように、犯人の一人がティターニアの名を呼んでいました。彼の言ったティターニアは、10数年前にヒーローとして活躍していましたが、10年前のシュラン=ラガとの戦い以降、姿を見せておりません。あの巨神の娘、ティターニアが10年振りに、この街に姿を現したのでしょうか』
「……綾さんが、ティターニアだったんだ」
やっとそれだけを口にした。綾の顔が一気に真っ赤になる。言うべきか言わないべきか、悩んでいるのが傍から見ても分かる混乱の表情を数秒見せた後、
「……うん」
綾もやっと、それだけを口にした。
「なんか、変な気分だね。初めて綾さんに会ったのと、ティターニアに会ったのは同じ日で、何年もティターニアに助けられてきたけど、ずっと綾さんがティターニアだって気付かなかった」
「がっかりしたでしょ?こんなのがティターニアだったなんて」
「そんな事ないよ。綾さんなら綺麗で、凛々しくて、ティターニアでも全然おかしくなかった。もっと早く気付くべきだったよ」
「だ、大ちゃん……恥ずかしいから、そういうのはもうやめて」
あたふたする綾の姿がおかしくて、大は思わず笑みを浮かべた。
「恥ずかしいのは俺のほうだよ。その……昔から俺、色んな事、綾さんに言ってきたし」
「ああ、昔言ってたわね。『僕は絶対ティターニアと結婚するんだ』って。大ちゃんがほんと嬉しそうに言うから、私も何て答えればいいか分からなかったわ」
「や、やめてよ、そんなの」
今度は大があたふたするところだった。お互いにひとしきり笑い、ぎこちないながらも、二人のぎくしゃくした空気がやっと弛緩した。
「私の事より、大ちゃんの事を気にしないと。大ちゃんも覚えてるでしょ?あなたの体に偉大なる巨神の御力が降りてきた時の事を」
「うん。驚いたよ。綾さんいっつもあんな気分だったんだ」
巨神の力を手に入れた時、大の全身に脈動していたのはとてつもない万能感だった。アドレナリンが全身を駆け巡り、血がニトログリセリンに入れ替わり、絶えず爆発しているような、今まで体験した事のない高揚感だった。
「タイタナス人以外に偉大なる巨神が御力を与えるなんて話、初めて聞いたわ」
「巨神の教えを守ってたおかげかな」
「かもね。リタお姉様に相談してみるけど、そのうち落ち着いたら一緒にタイタナスに行きましょう。色々調べてもらわないと」
大も頷いた。巨神の力、フェイタリティの狙っていた物、フェイタリティを雇った者達。考える事は沢山あるが、大にできる事はとりあえず何もない。
「でも、残念だったね。理想のティターニアの正体が私なんかで、がっかりしたでしょ?」
「え?」
「大ちゃんも早く、次の理想の女の子を探さないとね」
茶化すような口調で笑う綾に、大は二の句が告げられなかった。
茨で胸を締め付けられるような気分だった。何故かは分からないが、いや、分かっているが、どこかで考えないようにしていた。
ティターニアは子供の頃の憧れだった。強く、美しく、どんな危険な目にあっても逆転し、守ってくれたヒロイン。ティターニアを愛する気持ちがあるのは嘘ではない。彼女が自分を愛してくれたなら、どれだけ素晴らしい事だろう。
では綾についてはどうなのか? 大は自問した。
大の両親は既にいない。綾と知り合ってすぐ、ある事件に巻き込まれて殺された。それ以来、大は祖父母の元に引き取られて育てられた。
大には叔父がいた。当時綾は高校生、叔父はジャーナリスト志望の大学生だったが、二人は友人だった。今思えば、叔父はティターニアの活動を支援していたか、あるいは協力体制にあったのかもしれない。なにがしかの事件を追っていた頃に、叔父がティターニアの正体を知った事が、二人が知り合うきっかけだったのだろう。
だが、二人の関係が友人から親友へ、親友から恋人へと次第に変化していったのは、子供の大にも分かった。
それは大も認めた。子供の大にはどうすることもできなかった。仕方のない事だからだ。
数年後、綾は大学生に、叔父はジャーナリストを諦め、警察官になった。二人の関係はより深まっていった。それについて、大は否定的な事は何も言わなかった。二人の事が大好きだったし、二人が幸せになるのは大も大歓迎だった。
自分の気持ちがどうであれ、二人の関係が変わる事はないからだ。仕方のない事だからだ。
そして叔父は死んだ。約10年前、世界中を騒がせた大事件の中で、叔父はある悪党に殺された。そしてティターニアはそれから数か月後に起きた戦いの後、姿を消した。
叔父が死んでも、綾は大の前でほとんど涙を見せなかった。大が子供だったからだ。自分以上に大が悲しんでいる。大を支えてやるのが大人の務めだ、そう考えていたからだろう。
大もそれが分かったから、綾をずっと支えたいと思ってきた。綾が誇りに思うような大人になろうと努力してきた。綾が喜んでくれるように献身してきた。
綾を困らせないように、自分の気持ちに蓋をしてきた。
「……いらないよ、そんなの」
「え?」
「綾さんがいればいいよ。今だって、ティターニアが……綾さんが、俺の理想の女性だよ」
「え?もう、大ちゃんったら。恥ずかしいからからかわないでよ……」
冗談だと思いながら、まんざらでもないように綾が笑う。だが大の真剣な目を見て、言葉を失った。
「からかってないよ。俺、本気だよ」
「う、嘘でしょ……?」
「そんなに疑うなら、証拠を見せてあげるよ」
綾が首をかしげる。大は膝立ちになると、乱暴に綾を抱き締め、唇を奪った。
「んー!」
柔らかい肉の感触が、これほどの快感を生む事を大は初めて知った。口元から全身に快感が波となって広がった。もっと味わいたくて、無我夢中で綾の唇を吸う。
どれだけそうしていた事か、息苦しさに耐え切れなくなり、大は唇を離した。二人とも頬を上気させ、息を荒くさせている。
驚いて目を白黒させる綾に、大は鼻息も荒くしながら、
「俺、綾さんの事好きだよ。家族としてじゃない。女として好きなんだ」
「だ、大ちゃん……?」
「綾さんがティターニアだってのは驚いたよ。でも、ティターニアだからじゃない。ずっと、ずっと綾さんもティターニアも、同じくらい好きだった。愛してるんだ!」
そのまま勢いに任せて、大は綾をソファーに押し倒した。服の上からも感じる肢体の感触は柔らかい。
「だ、駄目よ大ちゃん。お願い」
「何が駄目なのさ。俺が綾さんを好きなこと?綾さんにキスすること?」
「んぅー!」
もう一度、先ほどよりも乱暴に唇を重ねた。テクニックも何もない、ただ唇を密着させているだけのキスだ。
それなのに、胸の弾力や体が発する天然の香りが、まるで媚薬のように大の心と体を支配していく。心臓が脈動する毎に、股間に急速に熱が溜まっていくのが分かった。
「ぷはっ!分かった、分かったから……落ち着いて、お願い、落ち着いて!」
綾は大の顔に両手を当てて、なんとか引き剥がした。二人の口の間を、唾液の糸が細く繋いだ。
「大ちゃんが私を好きって言ってくれるのは、嬉しいわ。ほんとよ。私だって大ちゃんが好き。でも、これは駄目よ。私達、家族でしょ?」
「そんなの分かってる。大事な家族だよ。でも止められないんだ。ずっと好きだった。子供の頃から、ずっと好きだったんだ」
「大ちゃん……」
大の顔を見て、綾が困ったように眉を寄せた。おそらく泣きそうな顔をしていたのだろう。
好きな人はいないのか、恋人は作らないのか。叔父や祖父母、綾から何度も尋ねられたことがある。言われる理由は分かるし、他の女性に目を向けようとしたこともある。だが、相手を知れば知るほど、結局綾へと戻っていった。大にとって綾は完璧な女性だった。
「大ちゃん。ほんとに私でいいの?私、大ちゃんと10歳は違うのよ?」
「関係ないよ。俺、綾さんと一緒にいたいんだ」
「大ちゃん……」
大の言葉を噛み締めるように、綾が大を見つめた。
「……分かったわ。少しだけ、私に時間をちょうだい」
「……時間?」
綾は軽く息を吐くと、大の頬に両手を添えた。頬を包む手は暖かく、心まで溶かされるようだ。
手から魔力でも発しているかのように、二人とも動きを止めて見つめ合う。
「うん。大ちゃんの気持ちは嬉しいし、大ちゃんの事は好きよ。でも、それ以上になれるかどうか、正直自信ない。だから、少しでいいから時間をちょうだい」
潤んだ瞳で大を見る綾の姿は、欲望を抑えられない大を優しく包む聖女を思わせた。
「私の気持ちを整理したい。大ちゃんを男として愛せるかどうか、それで時間をかけて確かめさせて」
軽く首を傾けて、ねだるように綾が囁いた。綾の優しく言い聞かせる言葉に、美酒に酔ったようにくらくらと頭が揺れる。大自分の事を真剣に考えてくれた、その事が大にとって無上の喜びだった。
「嬉しいよ、綾さん。今はそれでもいい。ありがとう」
素直に感謝の気持ちを示す。なんとも恥ずかしい事を言ったと今更ながら顔が真っ赤になってきたが、それでも綾は拒絶も嫌悪もせず、真剣に対応してくれた。それだけで十分だった。
「大ちゃん……んむ!」
不意打ちでまた綾の唇を奪う。唇をたっぷり味わった後、大は顔を離して微笑んだ。
「今のが、始まりのキス、ね」
「もう……大ちゃん、ずるい……」
困惑と羞恥の入り混じった表情で、綾はどこか嬉しそうに呟く。大の顔を見据えるのが気恥ずかしくなったのか、綾の視線がふらふらと所在なげにさまよった。まるで少女のように驚く様が可愛らしくて、大はそのまま綾を見つめていた。