4-15.重ね合わせて
「よっしゃどーだ、こんにゃろォー!」
先程までの神々しさを捨て去って、レディ・クロウがガッツポーズを取りながら勝鬨の声を上げた。ミカヅチの目の前は赤熱化したアスファルトや砕けた瓦礫が周辺で煙を上げている。落雷による高熱で生じた煙の切れ目から、巨大なクレーターの影が見えた。
ティターニアとカーシアを追いかけている間に、ミカヅチとクロウが考えた策の一つだった。ミカヅチがカーシアに幻影を見せて混乱させて時間を稼ぎ、その間にクロウが最大級の術を唱え一撃を食らわせる。クロウにどれほどの事ができるのか正直不安だったが、ここまでの破壊を起こせるとは素直に驚くしかない。
これならいくらカーシアでも、と言おうとしたところで、ティターニアが呻くように言った。
「……いえ、まだよ。あれじゃ、あいつは、止められない」
「き……さ、ま、らァーッ!」
怒声と共に煙が吹き飛び、ティターニアの言葉通りにカーシアが姿を現した。雷によって焼けたアスファルトのに囲まれた大穴の中央で、肉が所々焼け焦げ、息を荒げてはいるが、その怒りと威容は失われていない。
「蝿め、巨神の娘の前に潰されたいか!」
カーシアは上空のクロウを睨みつけると、右手を勢い良く振り上げた。全身を包む紫光が空を引き裂きながらクロウへと向かって飛ぶ。
「うっわ、ちょ、Beware My Order!」
クロウはガッツポーズをやめて慌ててかわした。空から急降下して瓦礫の山々を縫うように飛び遮蔽物にするが、カーシアが手を奮う度に紫の残光が硬質の刃となって空に閃き、触れたものを砕いていく。
クロウは宙を舞ってかわしながら次々と呪文を唱えて対抗しているが、動きと手数はカーシアの方が圧倒的に上だ。
ミカヅチは歯噛みした。三人で時間を稼げばジャスティス・アイの援軍が来るかもしれないが、それによってカーシアを倒せるか、その前に三人が死ぬか、賭けるには危険すぎる。ならば他の策を考えないといけない。
その前に、ティターニアが戦いに復帰しようと構えた。
「クロウ一人じゃ無理よ。私も行かないと」
「駄目だよ!」
ティターアニアが跳ぼうとして、慌ててミカヅチは肩を掴んだ。ティターニアが目を見開いて叫ぶ。
「離して!奴にクロウ一人じゃ勝てない。私達がやらないと!」
「分かってるよ。でもその体じゃまともに戦えないだろ。俺がやる。俺がティターニアの分まで戦う」
ミカヅチはティターニアの動きを手で軽く制し、耳元の通信機を起動した。
「クロウ。三十秒でいい。どうにか俺達の方に近づけないようにして、時間を稼いでくれ」
『はあぁ~ッ!?ふっざけた事言わないでよォ!』
クロウの怒声に耳をつんざかれながらも、ミカヅチは負けない大声で応答した。
「いいから!あいつを倒す策の準備があるんだよ!さっきは俺がやったんだから今度はそっちの番だ!」
『あーもう!さっさとやってよね!』
了承した後もぶつぶつと悪態をつくクロウとの通信を終え、ミカヅチはティターニアと向き合った。
「カーシアは地球の巨神とシュラナ=ラガの巨神の力を合わせて今の力を得てる。俺達も同じ事をやるんだ。俺の力で俺とティターニアと、二人の巨神の加護を一人にまとめれば、奴と戦える」
ティターニアが固まった。ミカヅチの提案は完全に思考の外で、想像もしていなかったらしい。なんとか戻って、搾り出すように声を出す。
「無茶よ、そんなの。できると思えないわ」
「カーシアはやってる。やってみないと分からないし、やらないといけないんだよ」
実際に可能だとしても、やればどうなるかは分からない。目の前で暴れるカーシアのように変異する可能性もあるだろう。
ミカヅチの顔から視線を外し、思い悩むティターニアの瞳は不安の色があった。ティターニアの両の膝は笑いふらついている。青い戦装束も泥に塗れ、所々破れて傷が覗いている。おそらく立っているのもやっとだろう。果たしてできるだろうか、言っておいてミカヅチは不安になってきた。果たして可能だろうか。
不意に、遠くで一際大きな爆発音がした。クロウとカーシアの争いの余波で、残っていた建物が破壊されたらしい。クロウが必死にかわし、立ち回っているが、カーシアが怒りを見せるたび、破壊が広がっていく。大と綾が暮らす街が崩れていく。
それは認められなかった。そしてそれは、ティターニアも同じ気持ちだった。
「……やるわ」
ティターニアが頷いた。その目に燃える戦意に、衰えは全くない。ティターニアの広げた両手を、ミカヅチが優しく握った。
「全部決着をつけてくるよ」
「それだけじゃ駄目。お願い、元気で帰ってきて」
「もちろん」
ミカヅチと二人はゆっくりと深呼吸した。やった事はないが、要するにティターニアを中継して、巨神の力をミカヅチに集中させるという事だ。イメージさえ固まれば後は難しくない。
ミカヅチの両の足から熱が上り、全身に巡っていく。巨神の力が心地よさと共に、両の手からティターニアへと伝わっていく。
二人の口からこぼれる偉大なる巨神を称える言葉が重なり、合わさっていく。
「世界の創造主、我らの守護者、偉大なる巨神よ……」
「世にはびこる非道を、世にはびこる悪を正す為に……」
「どうか貴方の信奉者、貴方の子、貴方の魂を継ぐ者に、その偉大なる加護をお与え下さい……」