表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SignOut  作者: 水素
ERR01:ページが表示されませんでした
1/6

#00 『          』

アクセスは拒否されました。

 (からす)の声はよく響く。木々の沈黙によく響く。

 何かを伝えたいわけでもないが、何も話したくないわけでもない。

 彼の言葉に価値はない。ただ、それでもどうしてか彼は残したかった。

 彼がここにいる意味を。道理を。揺るぎなき価値を。

 果たしてそれは、我々には理解しえないことなのか?想像の範疇(はんちゅう)を超えた、奇想天外な思慮なのか?

 ――いや、決してそんなことはない。

 我々は彼をよく知っている。細部までよく知っている。知っているからこそ、我々もこうして声を出す。

 今日も森々は、綺麗に静かなはず。

 そう、静かだった。


 さて、君は知っているか?

 自然界とは、いつも平穏を保つもの。生態系とは、いつも均衡を保つもの。

 その水平線を乱す()とは果たして――


 ――(どいつ)だ?


「はッ……!!はァ……!!もう少しッ……!!もう少しなんだッ……!!」


 (からす)が遠方からの声に追い出された。颯爽と闇夜へ消え失せる。

 ああ、まただ。また君らか。君らはよく走るものだ。

 余程必死なのか、然程恐れていないのか。ただ足音は、特に沈黙に関わらない。私も心地よい。


「あとちょっと……あとちょっ、うぐぅァッ!!」


 足に枷でもついたのか。君の近くに何か見えるぞ。少々大きいな?私よりも一回りほどは。


「あぁッ……ああァああァあァあアあッッッ!!」


 唐突に沈黙に()り始めた。一体どうしたと言うのだ。

 暗くて木々も目障りで――よくわからない。


「いだいッッ!!イだァぁあァアいッッ!!」


 そうか、痛いのか。それは気の毒に。しかし何が起きた?

 酷い傷が残っているのか?それとも何か病状が悪化したのか?

 とりあえず私には何もできない。とてもすまない。


「ぐッ!!なんだ……なんなんだ貴方はッッ!!」


 ほう、そこに何かいるのだな?私も目を凝らしてみよう。


「何がしたいんだ、貴方はァッ!!」


 薄く輪郭が見える。確かに誰か、いる。


「         」


 輪郭は何かを発した。遠い私にはとてもわからない。


「な、じゃ、じゃあなんで私をッッ……!!」


 君には聞こえたのか。よかった。どうも最近耳が遠くなってきたのかもしれない。

 いや、それだけまだ輪郭が遠いというだけか。それとも()()()()私が遠いというだけか。


「               」


 また何か発した。

 謎の多き者よ。以前君のような者を見たことはあっただろうか。書籍か何かだったか。記憶は定かでない。


「そんな、やっ、やめろっ、頼む、まだそんなのごめんなんだ!!」


 そうか、君は()()なりたくないのだな。よくわかるぞ。私も切実にそう思う。

 ()()とはいつも儚いもので、いつも突然やってくる。

 だからこそ私らは恐怖に(おび)え、(ひる)み、()じるのだ。


 だが〝共感する身〟としても――



 ――私も君は別に知ったことではない。



「ああッ!!あがァッッッ!!がァああアァアあぁァァア!!」


 煩わしくも情けのない雄叫び。それだけ苦しみに耐えたということなのか。

 見過ごした代償として――せめて沈黙に安らぐといい。痛みも直に引くと良いな。


 輪郭が私を通り過ぎた。

 その輪郭よ、君も早く帰るといい。君にも待つ者がいるのだろう?

 ここはただの森であるから、得すべきことは特にない。

 強いて言うなら――ここは静寂が端麗である。残るのならばもう少し味わってみても良いかもしれない。


 さて、かわりに私は彼の元に帰るとしようか。森の視界もよく吟味できた。この後彼に話してみても面白いかもしれない。

 実に心地よい一時だった。たまにはこうして見に来ることにしよう。


 そうだ、私の声を聞く君、そう君だ。君もまた私のところに来るといい。

 まだまだ面白いことも、きっと見せられるぞ。

 恐らく今日よりも、面白いものを。


 では、またいつか。


 私は多分、君の友達だ。



 ***



「――」



「――そこに誰かいるだろ?」






 〝SignOut〟

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ