追憶
「何してんの」
縁側の外へ足を投げ出している従兄弟の、半ズボンからはみ出した脹脛を見ながら尋ねると、
「べーつにー」
気だるげな声が返ってきた。
後ろで腕を掴むゆびに力を込める。
女らしい、柔らかな感触がした。
「何で?」
「別に」
素っ気なく、そっぽを向く。
「怒ってんの?」
「怒ってない」
「そう」
いつまで経っても私には、従兄弟の脹脛しか見えない。
仕方ないので縁側に腰掛ける。
従兄弟がぴくりとした。
「どうしたの?さっきから変」
「別に。何もない。」
「何もなくないだろ。」
「無いよ」
「ムカつくー。なんなんだよもう。何かあるならはっきり言えよ。」
「……」
「…カナ?」
「あのさ」
「おぅ。」
「彼女、いるなんて意外」
「あぁ、それ?マジよマジ。」
「嬉しそうね」
「何、俺に彼女いるのがそんなに不満?」
「別に」
「むー、やな奴だな。素直に祝え。」
「おめでとう」
「わぁお、すごい棒読み」
黙り込んだら、従兄弟も黙った。
なんだか無性に泣きたくなった。
でも固い私の顔は、やはりいつもの無表情で––––––––
やがて従兄弟はその彼女と結婚した。
従兄弟の幸せそうな顔を独り占めできるただ一人の人となった。
別にそれをとやかく言うつもりは無い。
ただ、ただ、悲しい。
私は、頭に刻みつけた従兄弟の笑顔を、私だけに向けてくれていたあの笑顔を、思い出して涙した。
もう二度と見ることの叶わない、瞳から。