1-1章 先
~街外れの教会の中~
…なんだこれ
寂れているにもほどがあるぞ。
栄えている街並みに反してこの教会だけ異様に寂れている。
まるで何年も誰にも管理されず放置されていたみたいだ。
硝子は割れて、中は荒れ放題。
立派であったであろうステンドグラスも今は見る影もなくなっている。
俺にこんなところに連れてきたのはいったい誰だ…
まぁ、なんとなくこんなとこと出来るのってそういうやつしかいないよなとは思うが…
シルヴィも俺がなんでこんなところに来たのは疑問には思っているように見えたけれども
それを聞いてくることはなかった。
色々と教会の中を見回ってみたが誰もいない
どこにいるんだよ、と思いながら礼拝堂と思わしきところを歩いている時だった。
急に空から
「やっほ~♪元気かい?」
という声が聞こえた。
顔を上げるとそこには宙に浮かぶ一人の少年
ローブを身に纏ってローブからは顔だけを出している
が、それだけでなんとなく、なんとなくだが
とても軽い感じがするのは俺の気のせいだろうか。
「僕が書いた手紙は読んでくれたかな?」
…
「…俺をここに連れてきたのはあんたなのか?」
「そうだよ、僕が君をこの世界に連れてきたんだ!
僕の名前はアルミス
そしてこの世界の名前は『アジルスタ』僕が作り出した世界さ!
僕はこの世界を作り出した唯一神なのさ!!」
…
…
…
…頭がおかしい子なのかと思ってしまった。
あっちの世界でも頭が痛い子がこんな発言をしていたような…
呆然としている俺を無視して自称神様は話を続ける
「君を呼んだ理由はただ一つ!この世界に風を吹かせて欲しいのさ!」
風、風ときたか
何だこの神様はと思いながらも聞き返さずにはいられなかった。
「風?」
「そう!風!どんな風でもいい、この世界を動かす風ならどんなものでもいい!」
「だが、俺はただの原型師だぜ?俺にこの世界で何が出来るっていうんだ?」
「君はその少女を買ったときに人形を貰わなかったかい?」
自称神様がシルヴィを指さして言う。
確かにシルヴィを買ったときに売人からシルヴィそっくりの人形を貰ったが…
その人形は今腰の作業用のドデカいポーチの中に入っている。
「それはエイボン・ドールっていうんだ。」
「エイボンドール?」
「それはこの世界に生まれた女性だけが持つ特別な人形
女性と人形は一心同体。人が傷つけば人形も傷つき、人形が傷つけば人も傷つく
でも、逆に言えば
もし人形をどうにかしたら、そのどうにかが人にも影響を与える。
としたら?」
自称神様が何やらもったいぶって俺に問いかけてくる。
原型師でフィギュアの改造を行っていた俺をこの世界に呼んだ理由
さっきの話で大体は予想がついた。
「俺にそれを改造しろって事なんだろ?」
「そう!大正解!君はその腕前をこの世界で生かしてほしいんだ!!
君が最初に目覚めた部屋、あそこを工房に改造しておいたから自由に使ってね?
追加のお金もそこに用意しておいたからね!
さて、そろそろ僕は行かないといけないんだけれど、君たちにこれからのアドバイス
君たちはまず箔をつける事が一番だと思うよ
だからまず最初はこの街にある『王立鎧技学園』に行くことをお薦めするよ。
じゃぁね!またどこかで会おう!」
と言いたいことだけ言うと、自称神様はどこかに消え去ってしまった。
他にも手紙に書いてあった「魔」の事とか聞きたかったのだが…
なんというか、この世界、神様があれで大丈夫なのか?
神様としての威厳があるわけでもなく
なんというか
近所の子供が何となく力を手に入れて世界を作っちゃいました!
みたいな、そんな感じがするのだが…
仕方ない…
他に何をすれば分からないし、一度戻るとするか…
~シルヴィ視点~
…
…
…
…なんでしょうか、あれは
神様とか言っていましたが
到底神様には見えません。
なんというか
神様の威厳というか、そういうものが一切感じられなかったのですが…
言葉が出てきません。
彼は神様と話をしていますが
私はこの神様と何を話したらいいのか
頭の中が真っ白で
なにも出ては来ませんでした。
気が付いたら
神様はいなくなっていて
彼が私の手を引いて
来た道を戻っていくのでした。
~自室兼工房~
…
…いや、なんというかね?
まず部屋に戻って来てみて思ったのは
変わりすぎだろこれ
俺が最初起きた時は
簡素なベットに丸机と丸椅子が二つ、それと壁に絵が飾ってある程度だったのものが
戻ってきた時にはリフォームしたのかというぐらい様変わりしている。
まず部屋の広さが倍以上、見た感じだと部屋が二部屋増設されている。
俺が居ない間に誰かが両隣の部屋をぶち抜いて改装したんじゃないか思うぐらいだ。
元々俺が寝ていたと思われる部屋にはベットが二つとテーブルに椅子が二つと花瓶
それにキッチンがあった。
増設されたと思われる二部屋は
1つは俺の部屋兼作業部屋
ここに帰ってくるまでに露店や市場で確認した、加工、改造のための道具や塗料などが
大量に、それもきちんと整理された状態で置かれていた。
更には向こうの世界の俺の部屋に会った塗料の配合表や電気を使わない道具もあった。
もう一つはシルヴィの部屋だった。
本が大量に入った本棚や服などがしまわれていたクローゼットなど
生活に必要なものは一通り揃っていた。
そろそろ粗末な服ではかわいそうだなと思っていたので
シルヴィに着替えてきて、といって俺はひとまず部屋を出た。
これからどうするべきか…というのは俺の部屋の机の上にあった資料で大体解決した。
机の上に「王立鎧技学園」の資料が置かれていたのだ。
そこには俺は知りたかった「魔」についても書かれていた。
「魔」というのは学園地下に封じられている魔物の事であり
遙か昔に存在していたとされる魔術使い
その人たちの力によって「魔」は学園の地下に閉じ込められ
魔術使いは人々に「エイボン・ドール」を与えた…と書かれていた。
…魔術使いときたか
なんかいよいよ異世界って感じがする。
「王立鎧技学園」は二つの科に分かれているようだった。
「魔」と戦う戦士を育成する戦技科
「エイボン・ドール」を改造する技術を育成する技巧科
の二つに分かれているようだった。
なるほど
自称神様がここに行った方がいいよ、といった理由が分かる。
箔をつけるにも、この世界の知識をつけるにも、技術をつけるにもうってつけの場所だ。
しかも試験日は明後日
試験内容は戦技科は素質検査
技巧科は技力検査となっていた。
まぁ…受けるにしろ、俺は問題ない、と思いたい。
一応は向こうではその仕事についていたしな…
神様は何も言わなかったが、多分シルヴィを戦技科に入れろって事だよな…
じゃないのならわざわざ奴隷を買ってこい、なんていうはずがない、はず。
腰のポーチからシルヴィそっくりの人形を取り出す。
改めてみると本当に本人と瓜二つだった。
腕とかを触っていて指にふとした違和感があった。
なんというか、雑に、上からパテを塗ったみたいな…
その場所以外にも数か所、同じよう場所があった。
気に入らないな…
そう思った俺は自分の作業部屋に戻っていくのだった。
~シルヴィ視点~
なんというか、見た事のない綺麗な洋服がそこにいっぱいありました。
どれも凄く綺麗で、清潔そうで、いままで私が着ていたものとは段違いでした。
手に取ったのは白のワンピース
それを体に合わせて鏡で見てみます。
様々な服を手に取って体に合わせてみては、それを鏡で見てみる。
鏡に映る私は
昔に諦めた自分で
嬉しくもあり、少しだけ涙も出てきました。
と、その時
右腕にぞわぞわぞわっと何かが撫でる感触がありました。
「ひゃっ」
私は思わず声を上げてしまいました。
この感触、売人がやったあれに似ています…
けど、今回のはそれとは違って嫌な感触ではありませんでした。
続いて足、顔、胸、と続いて下の方にも来て…
「~~~~~~~っ!!」
声にならない悲鳴を上げて私はその場にへたり込んでしまいました。