第5話 変化
白い道が続く。
砦は自分の服装を見る。少女とは対照的な暗い色でまとめてある。
(白い部屋に白い少女。さっきの暗闇に暗い服の俺。何かの因果みたいだな…)
砦はそんなことを考えながら、黙々と歩いていく。
砦の前を歩く少女は、当然曲がり角があれば砦より先に曲がる。続いて曲がる砦は、角を曲がったあと、白い少女の姿を確認するのに一苦労する。
「俺が先に歩こうか?」
「いい。私のほうが、この世界に詳しいから」
少女は話していくうちに、だんだん一度に話せる言葉が長くなった。砦はそれに気付いていたが、特にそれを指摘しない。
しかし、少女自身は楽しいのか、はたまた単に砦に慣れただけなのか、最初に比べれば話すようになった。
「サイ、なんか元気なくなった」
「あはは…最初から元気では無いんだけど」
「?」
(うーん、白い部屋にいるから、白い服の君が消えるんじゃないかって思った。なんて言ったら、さすがに怒る、かな。いや、引かれるかな…)
「…う、何でもないから、気にしないで」
「…」
「…」
嫌な沈黙が流れる。先にその状況に耐えられなくなったのは、砦だった。
「あの、もし俺が変なこと言ってるって思ったら、スルーしてね?」
「スルー…。分かった」
(本当に分かってるのか?!)
やや疑問に思いながらも、砦は自分が思っていたことを少女に話した。少女が少しだけ頷いた。
「…なるほど」
「あ、わかってくれた?」
「ううん。全くわからない」
砦は顔で苦笑いし、心の中で落胆した。
そんな砦には構わず、少女が両手を差し出してきた。
「な、なに?」
驚いた砦が少女に聞くと、少女は意外なことを言い出した。
「私の服が白いから、いけないんでしょ」
「いけないというわけでは…」
困惑する砦を少女はスルーした。
「だから、その黒い服、ちょうだい」
「………。ああ、なるほどね」
砦が黒いパーカーを脱ぎ、少女に渡す。
その時ふと、この世界に来たときに誰かに言われたことを思い出す。
『意外と冷静なのね』
(そういえば、あれは誰が言ったんだろう?
この子が言ってないのは、確かなんだけど。やっぱり、俺を利用している精霊っていうのが言ったのか…?)
考え事をしている砦をよそに、少女はそのパーカーを、白いワンピースの上から羽織っていた。
「あ、これ、目立つ」
少女が少し嬉しそうに自分を見渡した。その顔が少し微笑んでいる。思わず砦が少女に向かって叫んだ。
「あ、笑ってる!」
大きな声に少女が驚く。
「…笑ってるって?サイが?」
「違うよ、君がだよ。…なんで俺が自分が笑ってることをアピールしなきゃいけないんだって」
少女はぽかんとしていた。そして、何かをぼそりと呟いたあと、再び歩き出した。
砦はその呟きを全て聞き取ることは出来なかったが、一カ所のみ、鮮明に聞き取ることができた。
『「笑う…あの精霊みたいに」』
黒いパーカーを着た少女は、かなり目立ってくれた。少女の機嫌も良いのか、砦によく話しかけるようになる。いつの間にか2人は、並んで歩いていた。
しかし道はいつまでも続くだけで、終わりは見えない。
「長い道だな…」
溜め息混じりの砦の声を聞いて、少女も少し不安になり、下を向く。砦は慌てて新しい話題を探した。
「そういえば、その壊さなきゃいけない鍵は、どんな鍵なの?」
「普通の鍵だって、聞いてる」
「聞いてる…って、見たことはないの?」
「そう。ない」
白い道は無秩序に曲がり角があり、今、自分達が部屋のどのあたりにいるのかを分からなくさせる。
その曲がり角を曲がった時、砦がダメもとで少女に聞いた。
「世界の果ての門に繋がる、その門自体をぶっ壊したらどうなる?」
少女が呆れた目で砦を見た。
「…壊すのはまず不可能。それにあの門は、目印みたいなもの。実際大切なのは、潜った者を移動させる『レーツェル・システム』」
「レーツェル・システム?」
「そう。レーツェル・システムには実態がない。だから壊せない」
砦は、今までの情報と今の話を組み合わせて、少女の話を理解しようとしていた。
(レーツェルって、たしかドイツ語で『謎』とかいう意味なんじゃ…どんなシステムなんだろう)
「レーツェル・システムっていうのを、もう少し詳しく説明して…」
悩む砦を見て、少女も考えながら説明した。
「レーツェル・システム、略してレーツェル。それは、精霊や人間を、決められた場所から、決められた場所まで、移動させる、技術」
分かりやすく伝える努力をしたせいか、少女は最初に出会った時のように、言葉を短く切っていた。
そのおかけで、砦は理解できたらしい。嬉しそうに少女に確認する。
「分かった!詳しい原理はわからないけど、そのレーツェル・システムっていうのは、ワープ装置みたいなもの?」
「そう、それ」
「それで俺達が探している鍵は、『門を開ける鍵』というより、『レーツェル・システムを起動するためのスイッチ』ってこと?」
「そうそう!」
少女も伝えられたことが嬉しいらしく、笑顔になった。砦はひとり、大きく頷いていた。
(それなら鍵をぶっ壊すっていうのも、まあ納得かな)
ふと思い出したように、少女が笑顔で砦に釘をさした。
「だから、目印となる門を壊しても、レーツェル・システムの位置が、わからなくなるだけ」
「うん。あの暗闇で目印を壊すっていうのは、嫌がらせにしかならないね。ちなみに、世界の果ての門も、レーツェル・システムが採用されてるの?」
少女が頭を横に振ったあと、簡単に説明した。
「人間の世界には、それはまだ存在してないらしい。だから、普通に2つの世界の、間に門がある」
つい足を止めてしまった2人は、急いで歩き出す。その時、砦がある疑問を抱いた。
「…?」
そして、その疑問を解決するため、少女に質問した。
「なんで君は、門番をやっているの?」




