第2話 少女
少女の呟きに砦は返答した。
「うん。まあ、俺は人だけと。ずっと俺に話しかけて来たのは君?」
少女は首を傾げた。何かを考えているらしい。
「それは、私じゃない…」
ぽつりと少女が否定した。しかし砦はその少女の声に聞き覚えがありすぎたため、更に聞く。
「だけど、君と声が一緒だったよ」
「…そう」
「でも、君は何も俺に話しかけていないと」
「そう」
しっかりと砦の目を見てくる少女に少し圧倒された砦は、ため息をついた。
「…もうどうでもいいや…。それより、聞きたいことがたくさんあるんだけど」
その言葉を聞いた少女は、終始無表情だった顔を少し曇らせた。
(面倒くさいって思ったんだろうな…)
砦は少女の表情の変化に気付かないふりをして、自分の疑問を投げかけた。
「まずは、ここどこ?」
「ここは、あなたのいた世界と、違う世界」
感情を含めず喋る割に、少女の言葉は途切れ途切れだった。あまり長い言葉を続けて言うのは苦手らしい。
「じゃあ、ここは俺のいた世界とどう違う?」
「人がいない。ここにいるのは、人間じゃない」
「…動物とか?」
「違う」
少女がやっとの思いで立ち上がり、自分の背後にあった門をじっ、と見始めた。
少女に背を向けられた砦は、質問をしていいのかわからず黙ってしまう。
「ここには…」
今度は少女の方から話し出した。もちろんまだ門を見ているため、砦に少女の表情は見えない。
「ここ世界には、精霊がいる」
「精霊って……」
思いもよらない答えに、砦は色んな意味で言葉を失った。辛うじて出た問いがひとつ。
「君もそうなの?」
「私は、違う」
砦の問いはまた否定された。『精霊』に『世界の果ての門』など、理解に苦しむ情報が砦の頭を漂う。
混乱する砦をよそに、まだ少女は無表情に門を見つめていた。そして独り言のように声を漏らす。
「早く、世界の果ての門に、行かないと」
砦がはっ、とした。
「そう、その世界の果ての門ってなんなの?」
少女が門を見るのをやめ、やっと砦の方を向いた。
「世界の果ての門は、あなたの世界と、この世界を、行き来できる門」
「…その門を通れば俺は、俺の居た世界に戻れると?」
「そう。あなたは、この世界に来るときに、門を通ってる、はずだけど」
「うん。覚えてないね」
砦はふと、少女の服装に目がいく。今まで気付かなかったが、少女は真っ白いワンピースのような服を着ていた。そのせいか、暗闇でもだいぶ目立つ。
それに比べ、砦は黒のパーカーに暗い色のジーパンと、目立たない格好をしていた。
(今日の撮影で、俺は殺人犯の役だったからなあ…)
確実に同好会の時間に遅れることと、主演が遅刻の常連であることに不満を漏らしたことを砦は思い出す。
「ふっ」
思わず砦から笑いが漏れた。