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最終話 サイ

(あなたがどんな決断するか、あたしにはわかるわ。だってあなたの人生に憧れて、ずっと見ていたんだから)


精霊は心の中も表情も明るかった。

人間の世界にいて、少女の姿で観た砦の学校の映画。

それを観てから映画の作成学校を探し、その生徒たちに精霊は憧れてしまった。


その中でも、砦に強く魅力を感じたらしく、『少女』としての人生を辞め『砦』になることを決断する。


その願いが叶おうとしている今、邪魔になる本物の砦を早く暗闇に落としたくてしかたがなかった。


しかし砦は、考え込んでいる。


精霊は苛立ちを隠し、落ちつくように心がけた。


「悩むのも無理もないわね。人生の取引だもの」


倒れている少女に背を向けるかたちで座っている砦が、重い表情でぼそりと答えた。


「まあね」

「じゃあいいわ。時間をあげる。あたしが世界の果ての門の鍵を取りに行く間、存分に悩みなさいね」

「世界の果ての門の鍵?それも壊すタイプなの?」


つい砦は興味本位で聞いてしまう。

どうせいつかは教えないといけないと考えた精霊が説明を始めた。


「違う。世界の果ての門の鍵は、鍵を鍵穴に入れて回す普通のタイプよ。


銀色の門はあたしが造ったものだから、鍵も自由に決められたの」


砦が頷いたあと、渋い顔をした。


「なるほどね。でも、おまえは世界の果ての門を開けたじゃん。なら鍵はおまえが持ってるんじゃ…」

「世界の果ての門の鍵は1個しかないの。無くしたらヤバいじゃない?だから、この女の子に預けておいたの。銀色の門を開ける前、何かあったときの為に、白い部屋に置かせる契約だけど」


砦はその時、やっと自分が少女から世界の果ての門を預かっていることを思い出した。


(もしかして、この子は…)


砦は精霊に鍵を持っていることを隠すため、いつも通り質問を投げかける。


「何かあったとき…?」

「ふふ…そうよ。例えばあなたが壊れたこの子から、鍵を奪うとかね」


精霊の例えに砦が少し動揺する。

しかしその前に、砦があることに気付き、思わず大声を出す。


「って、もしかして、世界の果ての門って開けっ放しなの?!」

「そうよ」

「この門って大切なものでしょ?駄目だろ!」

「い・い・の・よ」


少しイラッとした精霊が強く言う。砦が黙ったのを確認して、銀色の門を開いた。


「じゃあ、あたし行くから。ちなみにこの間に世界の果ての門でても、あたしにかかればすぐ見つけられるから無駄よ!」


そう言って精霊が銀色の門を潜る。

砦は溜め息をついて、考え込む。


(門番になった方に鍵を渡して、銀色の門の向こうの暗闇に閉じ込めるつもりか。


どちらにしろ銀色の門を潜ったら、自分を壊さなきゃ出れないと。


まあ、壊れちゃ門から出れないけど)


ポケットに手を入れて、少女からもらった鍵を取り出す。


(これであの精霊から綺麗に逃げられる、けど…俺が残れば、この子が助かる…)


砦は時間がないとわかりながらも、答えを決めれなかった。


「ば……か……」


後ろから聞きなれた声が聞こえた。

振り返ると、少女がうっすら目を開いている。


「ばかじゃ…ないの?サイ……優しさを…利用されてる」

「え、あ、君!え!?」


壊れたのでは?と聞きだい砦だったが、口が回らない。

少女が微かに呆れた顔をする。


「壊れた…とは……思ったけど……不思議」

「不思議って」

「でも……長くは保たない。なんとなく……そう思う」


少女は力が入らないのか、倒れたまま話している。砦はそんな少女を見ているのが辛くなった。


「いいから…サイ……。早く、鍵で……人間の世界に…」

「でも、君が助かるためには、あの精霊の力を借りなきゃ」

「ばか…嘘よ。あれ。…さすがの精霊も……傷は、癒せない」

「そんな!」


少女は苦しそうにしだすが、一瞬笑顔を見せた。


「私は、もういいの…。その代わり、3つ…お願い聞いて」

「え、うん。俺に出きることならいいよ。だから、無理とか言っちゃだめだ。どうにか助かる方法を、探すから!」




少女の一つ目の願いは、砦が少女を連れて門を出ることだった。


「大丈夫?」

「大丈夫」


砦が少女を抱えて世界の果ての門に向かう。

砦は少女の体力を心配した。少女は呼吸をするのもきつそうで、たまにしか目を開かない。


人間が壊れるということが、どういう意味なのか、少女にも砦に詳しくはもわからなかった。

砦はその意味を歩きながら考え始めた。



その時だった。




「ちょっと!あんた!鍵をどこにやった?!」


あの精霊が帰ってきてしまった。精霊は怒鳴り、恐ろしい顔をして銀色の門を開きだす。


「しまった!」


砦は慌てて走り出す。精霊は大分怒っているのか、何を言っているのかさえ分からない。


精霊のスピードは速く、どんどん近づいてくる気配を砦は感じた。

振り返る余裕すらない砦は、やっと世界の果ての門に着く。急いで重い門を開き、身を自分の世界に投じる。


「あ…」


砦にしがみついていた少女が、思わず声を漏らした。

少女と砦は、どこかの森に出た。

青く澄んだ空に、所々にある雲。風によりぶつかる木の枝。砦達とは対照的に穏やかな景色が広がっていた。


そんな景色を、少女は今初めて見た。


「色が、たくさん…」


少女は目を見開いて驚いている。しかし砦にはそんな余裕もなく、急いで門を閉めていた。


精霊の怒鳴り声を聞きながら、砦はやっと、鍵を閉めることができた。


声が鳴り止み、辺りは自然の音だけになる。


安堵に包まれた砦は、少女を抱えたまま座り込む。そして、いま潜ってきたばかりの世界の果ての門を見上げた。


「こっちも、なんかいいな」


精霊の世界の門と形や大きさは同じだが、色は木のような茶色をしていた。所々に苔やら草やら付いていて、自然に馴染んでいる雰囲気が漂う。


「これが、自然…」


少女が地面に手を伸ばした。土を触り、花を見つめる。


「ねえサイ」

「なに?」

「二つ目の……お願い。この黒い服…もらって良い…?」


少女は自分が着ている黒いパーカーを指す。


「そのくらい、良いよ」

「ありが…とう」


砦は少女を地面に下ろし、木に寄りかからせるように座らせた。


「さいごのお願い…。私ね、名前……欲しい」

「…名前?」

「そう。なにかつけて?」


砦は考え込む。これまで人間の女の子の名前など考えたことはなかった。

映画の脚本でも、ネーミングだけは女子に任せきりにしている。


「うーん…。君は、どんなのがいいの?」

「…分からない。私、記憶…ある中で、2人にしか……会ったことないから…よくわからない」


この2人とは、精霊のキリアと砦のことである。砦が真剣に頭を働かせると、少女が黙り込む。


「…ちょっと、君?!」

「大丈夫。…まだ…生きてる。


…………じゃあ、真似していい?


私、サイがいい」

「俺はいいけど。いいの?」

「いいの」


少女は目を閉じたままになった。砦は少女に優しく話しかける。


「じゃあ、俺は漢字だと『砦』だから、君は『(さい)』はどうかな。あの、『彩色』とかの『彩』っていう字」

「『彩』…うん。忘れない………ありがとう。砦」


彩は目を閉じたまま、満ち足りた笑顔を見せた。砦も笑顔になる。


「彩、じゃあとにかく病院に行こう」


彩は目も口も閉ざしてしまった。


「…彩?彩ってば!」


彩の手に触れたとき、彩からほのかな光が溢れ出した。


「なに?!まさか…本当に壊れて……!」


砦が驚き困惑する。彩は光とともに段々と薄くなっていく。砦が慌てて彩に呼びかける。


「おい!起きて、彩!しっかりしろって!彩!彩─────っ!」


砦の声は叫びになる。彩は光と砦の声と共に、綺麗に消えていった。









それから3年後、高校生になった砦は、中学と同じ映画同好会に入っていた。

そしてある日、砦に脚本を書く機会が訪れる。


書く内容は既に決まっていた。


半分は、そういうとこがあったことを、知ってほしいから。


もう半分は、彩という少女の存在を、砦以外の人にも知ってほしいから。


これが本当にあったことだと思ってもらえなくてもいい。むしろ、本当だったと知る機会なんてない方が良い。


だから一つの物語として、砦は脚本を書く。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

登場人物を3人だけということで、読みづらかったかと思います……。でも本当に感謝です!


また別の作品を後日書く予定なので、時間がありましたら、またよろしくお願いします。

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