「夏の海ってどんなとこ? その2」
夏の海に一人で来たのが間違いだった。子供は元気いいなーと、家族連れに目をやると、親がさっとバスタオルで子供の体を隠し、女の子のグループに声をかけようとしたら、「ふん」と鼻で笑われて相手にもされなかった。
しゃーねぇ帰るか、と海に背を向けたとき、「ミルクバーにひゃくえん」と書かれたのぼりが目に入った。麦わら帽子をかぶり、白い袖なしのワンピースを着た小学校高学年くらいの少女が、砂浜に置かれた白いワンドアの冷蔵庫?の側に、クーラーボックスを持って立っている。
近くに寄ると、少女は無表情にハンドベルをカランカランと鳴らしていた。
「ひとつ、くれ」と小銭を差し出したら、少女は無言でクーラーボックスからミルクバーをひとつ取り出してこちらに差し出した。棒の部分が割り箸で、どうやら手作りらしい。
「手作りなの?」と聞いたら、「じつえんはんばい」と少女が言って、ボウルに牛乳をあけ、砂糖を入れてかき混ぜ、それからボウルごと横の冷蔵庫にいれた。
十秒も待たずに少女がボウルを取り出すと、既に半分凍っていて、それをスプーンでかき混ぜて試験管のようなアイスの型にぎゅうぎゅうと詰めて、最後に割り箸を差した。そして型ごとまた冷蔵庫にいれて、十秒して取り出したらもうしっかり固まっていた。
あんまり固まるのが早いので「……ずいぶん強力な冷凍庫だね?」と尋ねたら「ただの冷蔵庫……」という答えが返って来た。よく考えてみると、付近に発電機のようなものはないし、どうやって動いてるんだかわからない。思わず、勝手に冷蔵庫のドアを開けてしまったら、冷蔵庫の中には麦わら帽子をかぶって白いビキニ水着を着た中学生くらいの女の子が入っていた。
「きゃ、急に開けないでくださいよう」と言って少女が吐いた息が凍って落ちた。
「雪女式……?」ずいぶんとエコな冷蔵庫だなぁと思った。
【夏の海】【麦わら帽子】【雪女】その2でもあります。無事に夏の海に来ることができたようで一安心。冷蔵庫に入って山を下りて来たんですね。本当はこのお話は 300行程度の短編で書こうとしていたのですが、挫折して短くまとめ直したものです。ハンドベルの無表情少女は座敷童子。下りて来たはいいものの帰りの電車賃が無くて二人して旅費と滞在費を稼いでいるといったところ。