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男と僕と女

プロットの無い小説です。

誤字脱字があるかもしれません。

短編です。

 自分の行動を見直そう。そんな切欠なんてものは、大抵の出来事において運が悪いものだと、僕は感じている。そんな時に、神様なんて居るかどうかも判らない存在を恨んでしまう僕は、きっとそうした実像の無いものに有耶無耶ながら起こった物事を押し付けて、自分という体裁でも保っているのだろう。

 そんな変に哲学的な考えをしなければならないほど、僕は今置かれている状況に嫌気が差していた。とにかく、午後から大学の講義に参加するため、三年間通い慣れた、学生通りと言われる大学へ続く一本道を僕は駅からずっと歩いてきたはずだった。

 今も、視線を少し上に向ければ坂道の終着点が見え、小さくもはっきりと大学の門が開かれている。

 横を向けば、交通量の少ない自動車道が通りの真ん中を貫き、歩行者天国でもないのに、学生らしき若人達が、跋扈しているのを見る事が出来た。

 彼らは僕の置かれている状況を敬遠しながらも、好奇の色を隠そうともせずに見つめては去っていく。

「付き合ってるんです。私達」

 僕の斜め後ろへ勝手に陣取りながら、右腕を妙にぎこちなく握る一人の少女が言った。

 僕と少女の目の前には、スキンヘッドで目つきの悪い、如何にも不良だと言える風体をした男が居て、少女はそのスキンヘッドに向けて喋っていた。

 スキンヘッドは物凄い顔をして僕を睨みつける。それはもう、ブルドッグがさらにブサイクな顔になっているのに、瞳だけはドーベルマンみたいな獰猛な犬を思わせる怖さを見せる。そんな視線を僕に向けて、命の危険を感じさせるほどだ。

 僕は、さながら狩られる側に回ってしまった小動物なのかもしれない。とはいえ、黙ってやられる訳にも行かない。様子を伺い、隙あれば当事者達を残して全力疾走する覚悟を決める。筋肉痛になろうと肉離れになろうと知ったこっちゃ無い。僕の命に関わるのだから、死に物狂いだ。

「本当かよ、アンタ」

 僕がそんな覚悟を勝手に決めていたら、スキンヘッドが顎を持ち上げて、見下すように問い掛けてきた。けれども、スキンヘッドの声が、僕の予想より幾らか高かったので拍子抜けしてしまった。案外、ブルドッグのままなのかもしれない。

「本当よ」

「お前に聞いてねぇ」

 スキンヘッドの言葉は正しいし、普通の反応だと僕は同感できる。何故、初対面かつ事情も知らない通行人だった僕が、行き成りこんなドロドロの恋愛事情に巻き込まれなければならないのか理解できなかった。

 大学へ向かう僕の耳に口論が入り込んできた。その方向に目を向けたら少女とスキンヘッドが言い争いをしていた。昼間からお盛んな事で、などと思っていたのが運の尽き。少女と目が合ったと思えば、さも知り合いみたいに「あっ」なんて声を出して此方に近寄って背中に隠れる始末。

「もうウンザリなの。付き纏わないで」

「俺は、お前の事を。お前だってそうだったじゃねぇか」

「そんなんじゃない。あの時、絡まれていたから誰でも良かったの」

 少女とスキンヘッドのやり取りから、今度の被害者は僕になる事を悟ってしまった。なんとも、この少女は魔性の属性を持つらしい。そんな事を考えながら、僕は一刻も早く逃げ出したいので、早々と少女を見限る事にした。

 元々、付き合ってもいなければ面識すらないのだから、当然の判断だ。確かに、今時珍しい黒髪の綺麗なセミロングに、ぱっちりと大きい瞳が可愛いと素直に思えるけれど、だからといって厄介ごとに巻き込まれるのはごめんだった。

 むしろ、スキンヘッドがこの少女を好いた事の方が驚きだった。

「別に、この子と付き合っているわけじゃないですよ。初対面です」

 僕の言葉に、少女が握っていた僕の腕を力いっぱい抓り、スキンヘッドの男は、なんとも言えない苦々しい顔を作っていた。

 それもそうだ。今、スキンヘッドが聞かされた内容がそっくりそのまま再現されているようなものだったのだから、困惑するのも頷ける。

 すると、少女は居た堪れなくなった、というよりかは僕が役に立たなかったので一目散に逃げ出した。

「おい、待て!」

 スキンヘッドは一瞬、追おうかと思って僕の横を通り過ぎたが直ぐに諦めたように、ただ少女が走り去って行った駅の方角を眺めていた。

 僕は、その光景を眺めながら、スキンヘッドと同じ末路を辿らずに済んだことに安堵のため息を漏らした。

「待てよ」

 スキンヘッドがこちらに向き直りながら、気まずそうに声を掛けてきた。

 その顔から、僕が憂さ晴らしのために殴られる事は無いと窺い知る事が出来た。スキンヘッドな出で立ちではあるけれど、根は良い人なのかもしれないと思った。

「悪かったな」

「いえ、仕方ないですよ。こういうのは」

「そうか」

「そうですよ」

 後頭部を擦りながら、スキンヘッドは力無く笑った。僕は、これは絶対に愚痴を吐かされるパターンだと確信したが、どうにも、回避する術が思い浮かばなかった。

「俺は、いつもこうなんだよな」

「そうなんですか」

「だがよ、俺は本気だったんだよな」

 いきなり、直球を放り込むスキンヘッドに愕然としつつも、赤の他人に赤裸々な恋愛観を告白し始めるスキンヘッドに、妙な好印象を持ってしまった。

「俺が、涼子と出会ったのもな。こんな状況だったんだ」

「そうですか」

 僕には適当な相槌を打つ以外に何も出来なかったので、取り合えず吐き出させる事を優先させる事にした。

 人通りがまったく無ければ僕の心情も幾分はマシで、もしかしたらスキンヘッドの愚痴を結構親身になって聞いたかもしれない。時間は押していたけれど、若人の愚痴を聞いてやれないほど、僕は生き急いではいなかったけれど、今の状況ではそうもいかない。ただで、さえ先ほどの騒ぎで目立っていたのに、女の取り合いをしていたはずの男同士で世間話に興じているという奇妙すぎる光景に興味津々だと言わんばかりに視線が刺さり、僕は一刻も早く立ち去りたかった。

「あの、移動しませんか」と僕は言った。

「お、おぅ。こんな場所じゃ、流石に不味いか」

 そう言って、スキンヘッドは笑った。その笑い顔がまた先ほどの強面と違って、人が良さそうな笑みだったので、彼は絶対に心は好青年なんじゃないかと真剣に考えてしまった。

 気付けば、逃げ出すタイミングを失っていたし、何処かそわそわしているスキンヘッドを置いて全力で走り去るのも気が引けてしまっていた。


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