そういう男って二度目も三度目もやるのよねっていう婚約破棄の顛末
王宮の西棟にある談話室には、冬の午後の光が斜めに差し込んでいた。
高い窓に嵌められた硝子は古く、わずかに歪んでいる。古いステンドグラス。暖炉では白樺の薪がぱちりと爆ぜ、甘い樹脂の香りが部屋に満ちている。壁には歴代の王の肖像が並び、どの王も同じ厳めしい目で、卓上の銀のティーポットを見下ろしていた。
アリアレーネ・フォルナティア・デ・ローゼンハイムは静かに座っている。
ローゼンハイム公爵家の長女。淡い銀色の髪を低く結い上げ、翡翠色の目は伏せられている。纏う藍色のドレスには飾りらしい飾りがない。膝の上で重ねた手袋の白だけがまばゆく輝いた。
「単刀直入に言おう、アリアレーネ」
向かいに立つ王太子ユリウス・ヴァルディアは公爵家の姫君の視線を避けるように、暖炉のほうへ半歩ずれた。金の髪、整った顔立ち。剣の稽古で叩き込まれた威厳を必死に保とうとする努力が見て取れる立ち姿。
「俺は君との婚約を破棄したい」
薪が、もう一度爆ぜた。
ユリウスの隣には、小柄な少女が寄り添っていた。
ミーナ・ルクレール男爵令嬢。蜂蜜色の巻き毛に、大きな榛色の瞳。淡い桃色のドレスの袖を、彼女は両手でぎゅっと握りしめている。
男爵が平民の愛人に産ませた子で、家に引き取り貴族学園に通わせていた少女である。
「アリアレーネ様……ごめんなさい。あたし、こんなつもりじゃなかったの」
「ミーナ、君が謝ることはない」
ユリウスがすかさず恋人の肩に手を置いた。ミーナの睫毛が震え、透明な涙が滴る。
その様子を、アリアレーネは無感動に眺めた。
「俺は真実の愛を見つけたのだ。義務だけで結ばれた相手と生涯を共にすることは、君にとっても不幸だろう。だから——」
アリアレーネは頷いた。空気がぴんと張り詰める。
「わかってくれるか?」
「お話は承りました。その前にひとつ、お茶をいかがでしょう。冷めてしまいますから」
アリアレーネは自らポットを取り、三つのカップに琥珀色の茶を注いだ。湯気が細くたちのぼり、窓の光の中で揺れる。
ユリウスは戸惑ったようにアリアレーネの向かいのソファに腰かけた。ミーナもその隣に腰を落ち着け、差し出されたカップを受け取る。おずおずと香りを嗅ぐ仕草は小動物のようだ。
「ありがとうございます。では、少しだけ数字のお話をさせてください」
アリアレーネはカップに口をつけず、受け皿に戻した。
「殿下とわたくしの婚約は、恋や情で結ばれたものではございません。十二年前、国王陛下と我が父が交わした『三つの盟約』を、人の形に結び直したものです。ご存じのはずですが、念のため、順にご説明いたします」
「……盟約のことは知っている。だが、それは——」
「ひとつ。北方国境の守り」
彼女は指を一本立てた。
「北のヴェルガ峠を守る辺境軍二万は、王家の軍ではなくローゼンハイム公爵家の私兵でございます。維持費の七割は公爵家が負担しております。この軍権は、婚約により王家と公爵家が一つの家になる前提で、王家に『預けられている』形をとっております。婚約が破られれば、父は盟約に従って、軍を領地へ引き上げるでしょう。峠の向こうの北方諸部族が、それを知って黙っているとは思えません」
ユリウスの喉が動いた。
「ふたつ。王家の財政」
白魚のような指が二本目を数える。
「三年前、飢饉と東の蛮族の襲来が重なり王家の国庫は空になってしまいました。殿下もご承知のはずでしょう。その折、公爵家は金貨にして四百万を無利子で王家に貸し付けております。返済期限は定めず、『両家の婚姻が成った時点で、持参金と相殺する』とされておりました。婚約が破棄されれば相殺の根拠は消え、貸付は満額の返済請求となります。王宮の一年分の歳入に、ほぼ等しい額です」
ミーナの顔から、少しずつ血の気が引いていった。彼女は王太子の腕に身体をもたれかけさせ、縋るまなざしで彼の横顔を見つめる。
「みっつ。王家の正統性」
無慈悲な三本目の指である。
「殿下は、国王陛下の御子ではありますが、王妃様は西の小国の出。王位継承に異を唱える方々は、今も王都に少なくありません。その声を抑えてきたのは、建国以来の名門であるローゼンハイム公爵家が、殿下の後ろ盾であるという事実でございます。婚約がなされなかった場合、その後ろ盾は外れます。継承に不満を持つ諸侯は、第二王子殿下を担ぎ出すでしょう。あるいは王弟殿下やも。――内戦に発展いたしかねません」
アリアレーネは言葉を切った。暖炉の火が小さく鳴る。窓の外では、王宮の庭の葉を落とした楡の枝を冷たい風が揺らしていた。
「以上が、婚約が破棄された場合に、ほぼ確実に起こることです。そうなった場合、この国が元の落ち着きますまで少なくとも十年。その間に失われる民の命は、数万を下らないかと存じます」
誰も、何も言わなかった。
ユリウスは何か言い返そうとして口を開き、しかし閉じた。手にしたカップの茶は、一口も飲まれないまま、すっかりぬるくなっている。
「そ、それは脅しか、アリアレーネ」
かろうじて絞り出した声は虚勢に揺れている。
「いいえ殿下。脅しではございません。予定でございます」
アリアレーネは肩をすくめた。
「とはいえ、殿下が『真実の愛』を見つけられたことは喜ばしゅうございます」
「えっ」
「えっ」
王太子とその恋人の声が揃った。
「殿下とわたくしが出会いましたのは五歳の頃でしたでしょうか。その頃からわたくしをお好きでないことはずっと存じておりましたし、それではお気持ちが他の方に向かうことも当然でございます。責めるつもりはございません。人の心は、盟約では縛れませんもの」
銀の髪がさらりと揺れ、翡翠色の目がふっとミーナに向いた。少女はびくりと肩を震わせ、王太子に寄り添った。
「ミーナさま」
「は、はいっ」
「あなたを責めているのではありません。むしろ、お礼を言いたく思います」
「お、お礼ぃ?」
「はい。わたくしという存在は、どうしてもローゼンハイム家の家名を背負っておりますから。単純に妻として殿下のお隣に立つということはできませんの。殿下の御心を真心によりお慰めし、寄り添うお役目はやはり、ミーナさま、あなたが適任かと」
「そ、そりゃあそうですね!」
ミーナは胸を張った。
「あたしたち、学園で偶然出会っただけですけど……五歳の頃から知ってたわけじゃないですけど、あたし、ユーリのことはよく知ってますから! ええ、アリアレーネ様にだって負けないくらい。ただの男の子なユーリのことを愛してるのはこの世であたしだけだと思います」
「ミーナ……」
ユリウスは感動した様子だった。
「王様も王妃様もユーリのことを王太子として見てる。アリアレーネ様だってそう。けど、けどあたしは……あたしだけは……!」
「ミーナ!」
二人はひしと抱き合った。
アリアレーネは静かに立ち上がった。裾が絨毯を撫で、光の揺らぎが藍色の布の上を滑る。
「婚約を破棄なさるかどうかは、殿下のお決めになることです。また、わたくしの決定権を持っておりますのは父。どうかよくお考えの上、我が父にご提言くださいませ」
「あっ、アリアレーネ……!」
「アリアレーネ様!」
王太子と恋人は口々に公爵令嬢を呼んだ。
銀髪を揺らし、アリアレーネは振り返る。
「――何か?」
「あの、ありがとう。俺たちのことを想ってそう言ってくれたんだよね?」
「アリアレーネ様っ。あたし、負けませんから! あたしのおかあさんは踊り子だったんです。王都劇場のプリマで、おとうさんと恋に落ちたの。あたし、おかあさんの不屈の魂とおとうさんの恋心を受け継いでるんだからねっ!」
アリアレーネはふっと微笑んだ。
「ようございましたね」
扉が閉まった。
残された二人は目を見かわし、熱く互いの唇を貪った。
***
さて。
十年が過ぎた。
ドタタタタ、と足音も高くミーナは王妃アリアレーネの執務室に走り込んできた。ここで衛兵などに止められると泣きわめいて面倒なので、通せと言い置いてあった王妃は慧眼である。
「まあミーナさま。お行儀のお悪い……」
「王妃様あああああああああああああ! どうにかしてくださいよォオオ、あの種なしカボチャ!」
「不敬ですよ」
「んにゅ。くくくくぐやぢいいいいいいいいいぃぃんですもおおおおん! だってだってェェ! だってえええええええええええ!!」
母のかたわらで行儀見習いとして書類に目を通していた、王太子アレクサンドルが目を丸くする。これも人生勉強ですよ、とアリアレーネは優しいまなざしを息子に送った。
「ギイイイイイイイ、あんな、あんな小娘エエ、どこがいいのおっ? ミーナの方が! ミーナの方が踊りうまいのにいいいいいいぃぃ」
「お茶を」
王妃の合図に数名の侍女がいやいやながらその通りにする。
泣いているときのユリウス王の愛妾は油断すると手近な人間に飛びついて抱きしめ、そのまま離さなくなるので警戒が必要なのだ。
お茶を飲み、いったん落ち着いたかに思われたミーナは、だがすぐにけたたましく泣くのを再開した。
「あたしの方が、あたしの方が陛下とは長いのにっ。あたしたちの愛は不滅だって、あんなに固く誓い合ったのにいいいいいいいいぃぃぃいいいい」
ちーん。
侍女の差し出したハンカチで盛大に洟をかみ、愛妾ミーナはおいおい泣き崩れる。座り込んだそこは王妃の接待用のソファなのだが、まあ買い替えればいい。
「なんであたしにだけ赤ちゃんできないの?――でもでも、あたしのせいじゃないしっ。あいつが種なしなのが悪いんだもん!!」
ミーナは恨みがましくアレクサンドルを睨んだ。つつましくも賢い子供は、礼儀正しくその視線を無視した。
「ねーえ。なんでアリアレーネは子供できたの? おかしいよねええェ? 愛し合ってるあたしたちにできなくて、愛されてないあんたになんて……っ。王子様がかわいそうだわ。ねーアレクサンドル様? あんたもアリアレーネのお腹から生まれたくなんてなかったでしょお?」
室内の誰しもが彼女の言うことを無視したので、ミーナはしばらくぶつぶつとなにごとかを口の中で呟いていた。やがて、飽きたのかなんなのか、立ち去った。
絨毯の上にぽいっと高価なティーカップを投げて。
「……母上様、質問しても?」
「ええ、どうぞアレクサンドル」
「あの方はいったいどうして、まだ王宮におられるのですか? 父上の寵愛を失ったなら、修道院に行くべきではないのですか?」
「ああアレクサンドル。もうそんな事情までご存じなの」
アリアレーネは微笑んだ。息子とお揃いの銀髪がさらさら流れる。
「ミーナさまは男爵家のお育ち。そしてそのおうちは東の蛮族との闘いに投資して、没落しております。彼女には帰れるおうちがありません。陛下はミーナさまが修道院に入るならば、支度金は出さないとおっしゃいました。ご自分が彼女に贈った贈り物も一切合切、持ち出すことは許さない。身一つで出てゆけと。よってミーナさまはまだ王宮内にお部屋を賜っております」
王妃はたんたんと続ける。
「わたくしが支度金を出すこともできますが、それでは陛下の命令を曲げることになりますでしょう? 王の命令は絶対。この世のことわりでございます」
もっとも、ユリウスがミーナを手元に留める理由は、若き日の恋の残骸を懐かしみたいのが半分、自分の寵愛を求めて半狂乱になるミーナが可愛いというのがもう半分、それから愛妾同士をわざとけしかけ合わせて、諍いを鑑賞するのが面白いというのがあるのだろう。
アレクサンドルは首を傾げた。
「その男爵家とやらは、なぜそんなことをしたのですか? 北方諸侯との闘いの方が勝算は高かったじゃありませんか。なぜそちらにせず、あえて東の方にお金を……?」
「情報を正しく追える者ばかりではない、ということですよ」
王妃の手は王太子の銀髪を撫で、慈しむ。
「明らかに正しいと考えればわかることでも、考える力がなかったり、考えても間違った方を選んでしまう者というのが、往々にして存在するのです」
王太子はまだ九つ。いまだ理解は難しいようだったが、それでもこくんと頷いた。
「あなたはいずれ、そのような立場の者たちをも治めていかねばなりません。大変なお仕事ですよ」
「わかりました、母上様」
そのときである。
ミーナよりもさらに大きな足音が響き、胸を張って入室してくる者がいる。
ユリウス・ヴァルディア王。
この国のあるじである。
「アリアレーネ! アレクサンドル!」
「陛下、ご機嫌麗しゅう」
「父上様、ご機嫌よう」
母子は揃って立ち上がり、礼をした。
「わはははは! まあた難しいことをやっているのか。お前たちは本当によく似ている。こんなつまらない書類仕事が好きだっていうんだからなあ! ハハハハッ」
若者のように軽快に笑って、ユリウスは腕の中の子供を揺すり上げた。小さな蜂蜜色の髪の毛の女の子。
後ろから追いついた今をときめく愛妾が、王妃と王太子を見てフフンと鼻を鳴らす。
「あァん、陛下あ。こんなつまんない人たちなんか放っておきましょ。アタシ、つまんなあい」
「おお、おお。愛いやつめ。ごらんアリアレーネ、これこそ女の在り方というものだよ。お前みたいに書類とにらめっこばかりしていては、せっかくの美貌もどんどん老けてしまうぞ?」
「――それで、ご用件はなんでございましょう?」
「おお、そうそう! 金くれ。ベラと遊びにいきたいんだ。西の湖へ!」
「戦乱のある場所へお出向きにならないのでしたら、ようございます。――財務卿」
「は」
すぐさま参上した老年の男から金貨の袋を受け取るユリウスに、若い頃の面影は少ない。
金髪はくすみ、腹は出て頬もたるんだ。それでも美女からの誘いが引きもやらないことについて、彼本人はどのように折り合いをつけているのか……。
アリアレーネにはあずかり知らぬことである。
「じゃ、ありがと」
「建国祭までにはお戻りくださいませ」
「わかったわかった。ふん、嫉妬深いやつめ」
「フッフーンだ! あんたなんかのために陛下は戻らないわっ。ずうっとベラちゃんと一緒だもんねーっだ!」
王は振り返りもせず、愛妾はべえっと舌を出して立ち去った。
と、廊下でどうやらミーナとかち合ったらしい。
「アアアアアアアアア!! この泥棒猫おおおおおおおおおおおっ、陛下から離れなさいよおおおオォォオオオオオオオオ!!」
「きゃーーーーーーん! きゃああああああああん! 陛下あっ。ババアがいじめるのおおおお、助けてえええええええええン」
「子供にメス争いを見せるなよー。わっはっはっは」
などなど。姦しい声が響いてくる。
アリアレーネは息子を見つめた。
哀れだった。
「あれがあなたの父親です」
「はい、母上様」
「あんなふうになってはなりませんよ……」
「はい」
アレクサンドルはもう一度頷いた。
「はい。決して」
再び扉が開き、やってきたのはローゼンハイム公爵だった。宰相にして大将軍。国の軍事力の八割を掌握するとも言われる、時の人である。
「おじい様」
アレクサンドルはぱっと顔を輝かせると、祖父へ向かって駆け寄った。
「ははは、坊やは元気だ。……アリアレーネ」
「はい、父上様」
「陛下たちとすれ違ったよ。騒がしいことだった」
「ええ」
ローゼンハイム公爵は――実質的な国の指導者は、王妃アリアレーネをひたと見つめた。
「大丈夫かね?」
「もちろんですとも、父上様」
アリアレーネは優雅に一礼する。彼女の後ろに控える、たくさんの侍女たちと一緒に。
北のヴェルガ峠からやってきた地方豪族の末娘。
東の蛮族のうち友好的な部族から差し出された姫。
南の海辺の街で貿易について学んだ豪商の妹。
西の国境地帯をよく知り他国に嫁いだ姉妹を持つ姉。
――彼女たちはローゼンハイム家の子飼いであり、忠誠とはいかずとも協力者である。
名誉など、地位など、ヴァルディア王家に任せておけばよい。ユリウスは心優しく従順な王であり、それ以上の価値は必要ない。
すでに王宮内部、および外交、および官僚たちの任命権はアリアレーネの手の中にある。
「わたくしは大丈夫でございます。アレクサンドルも、大丈夫でございますよ」
王妃は柔らかく微笑み、王太子もまた同じ笑みを浮かべる。ローゼンハイム公の笑みもまた慈悲深く、温かく、この王宮で彼らは家族だった。彼らだけが家族だった。
ユリウスはこの先も暗愚に生きるだろう。ミーナに心奪われた若き日の再演を求めて、ありとあらゆる女に手を出すことだろう。
一度目はミーナ。二度目は誰だったか。三度目から先は名前を覚えるのもやめた。ベラは十度目かもしれないし、十五度目かもしれない。それでもなおミーナを手元に置くのだから、ユリウスにはやはり彼女への格別の情愛があるのだろう。
劇団一の踊り子の娘、洗濯係のメイド、王太子の家庭教師になるべくやってきた子爵令嬢、伯爵令嬢、大通りで見かけた花売り娘、女騎士。一度、他国から留学しにやってきた小国の王女に目を付けたときは面倒だったが、それでもアリアレーネが懇切丁寧に説得すれば王は少女を諦めた。
外交問題に発展する相手だけは、アリアレーネは絶対に許さなかった。
アリアレーネにユリウスへの愛情はなく、逆もまたしかり。
ただ、ヴァルディア王家にはローゼンハイム公爵家が、ローゼンハイム公爵家にはヴァルディア王家がなければ立ち行かないので互いを必要としている。そういう関係だ。
王家を廃して自分たちが王になれば、諸外国や諸侯との正統性問題が発生する。だからローゼンハイム家にとっても国にとっても、ヴァルディア王家という看板は必要なのだ。
アレクサンドルが生まれた直後くらいまでは、「きみは冷たい女性だな」だの、「ミーナたちのような心優しいところはきみにはない」だのとアリアレーネを罵っていたユリウスも、最近はただ彼女のことを王妃という名の王家の部品として扱う。
それでいい。それでいいのだ。
アリアレーネにとっては同じことだ。ユリウスの人間的な感情があってもなくても、尊重されようがされまいが。
ただ、彼女は王妃である。
息子アレクサンドルは次の王である。
大事なのはそれだけ。
――もし息子に受け継がれた父親の血があまりに濃く、成人間近になって父親譲りの女癖が顔を出したらどうしようという不安はあるが。
とはいえそれでもやりようはある。酒場で歌を歌っていたベラをユリウスが見初めたときと同じに、裏から手を回し愛妾でもって王の行動を狭めるやり方が。それ以外の方法が、たくさん、アリアレーネにはある。
「わたくしは国を愛しております」
と王妃は嫣然と笑う。
「何一つ、過不足などございませんことよ」




