表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その飲みかけ致死量につき。――男女比1:4の世界で普通に生活する俺が、飲みかけボトルを置き忘れた結果  作者: ヤッくん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/15

5話 その男、無警戒につき――五分の休息が、死に至るまで

「いいか、悠。今日から来る新人さんには、くれぐれも失礼のないようにしてくれよ」


店長の背中は、いつになく小さく、そして小刻みに震えていた。


俺がアルバイトをしているカフェ『レゼール』。

ここはおおとり財閥が肝入りで立ち上げたブランドで、売上も右肩上がりだ。けれど、その好調さが仇となったらしい。


「例の『鳳の裁き』……本社からの抜き打ち査察が、この支店にも入るっていう噂だ。今回の新人は、その査察官の刺客か、あるいは本人かもしれない……」


もし評価が低ければ、即日解雇。それが鳳財閥の鉄の掟だ。


「大丈夫ですよ、店長。いつも通り、心を込めて接客するだけですから」

「その『いつも通り』が一番怖いんだよ、お前は……!」


頭を抱える店長。そんなに警戒しなくてもいいのに、と思っていると、店のドアベルが涼やかな音を立てた。


「失礼いたします。本日よりこちらの店舗で研修を受けることになりました、レイ……いえ、麗華れいかと申します」


店内の空気が、一瞬にして凍りついた。

そこに立っていたのは、一人の女性。



おおとり 麗華れいか



黒いウィッグのような不自然に重たい髪型に、顔の半分を覆うような分厚い眼鏡。

そんな「野暮ったい身なり」だというのに、彼女から溢れ出す気配はどこか異質だった。


眼鏡の奥から覗く肌は陶器のように滑らかで白く、ふとした瞬間に見せる瞳の輝きは、獲物を射抜く鷹のように鋭い。


何より、その立ち姿が美しかった。

背筋が天に向かって真っ直ぐに伸び、指先一つにいたるまで、完璧な所作で制御されているのだ。


彼女は、あまりにも「目を引く存在」だった。

地味な装いで自分を押し殺そうとしているはずなのに、隠しきれない気品と、圧倒的な「強者」の気配が周囲を支配している。


ついでに言えば、野暮ったい制服の上からでも分かるその胸のボリュームも、別の意味で周囲を圧倒していた。


「あ、ああ、担当は結城くんだ。よろしく頼むよ」


店長が逃げるように消え、俺は彼女の前に進み出た。


「よろしく、麗華さん。俺は結城。そんなに緊張しなくていいよ、この店は楽しい場所だからさ」


親しみやすさを込めて手を差し出すと、麗華さんは一瞬、俺の手を汚物でも見るかのように見つめた。

だが、すぐに温度のないビジネススマイルを浮かべる。


嫌われているんだろうか。……いや、人見知りなだけかもしれないな。


「ご丁寧に恐れ入ります、結城様。私、早く戦力になれるよう努力いたします。ご指導、よろしくお願いいたします」


鈴を転がすような美声。

だが、その奥には氷のような冷たさが同居していた。



「いらっしゃいませ! 毎度ありがとうございます、佐藤さん」


来店したのは、常連の恰幅のいい男性だ。

「佐藤さん、今日はパフェ、一つにしておきませんか?」


俺はメニューを下げ、困ったように笑いかけた。


「奥さんから聞いたんですよ、最近血圧を気にしてるって。今日三つも食べたら、明日からまた怒られちゃうでしょう? 代わりに新作のハーブティーをサービスしますから。ね?」


麗華さんは眉間にシワを寄せ、真剣な眼差しで俺を観察していた。

すごい真面目な子なんだなぁ……。

俺はそんな場違いな感心をしていた。



数日後。


「悠くん、先日はありがとう。おかげで妻に叱られずに済んだよ」


佐藤さんが山のようなリンゴを持って来てくれた。

最近は果物も高いから、本当に助かる。……それにしても、麗華さんの顔色が悪い気がする。


「……麗華さん? どうかした? 顔色が悪いけど」

「なんでもありませんわ! 私は、ただ……効率の悪い現場だと思っているだけです!」


昨日の納品作業で、俺がケースをひっくり返したことを言っているのだろう。


「あはは、そうだね。効率も大事だけど、お客が笑ってくれればそれが『正解』かなって。とりま楽しんでみたらどう?」


彼女の眉間のシワは、深いままだった。



翌日の夜。

店内模様替えのため、俺と麗華さんは深夜まで残っていた。


「……くっ、……あ、あと少し、……ですわ」


什器を支える麗華さんの声は、今にも途切れそうだった。

お嬢様育ちであろう彼女には、この重労働は酷すぎる。


「麗華さん、あと少しだ。気合入れて……っ!」


鼓舞するように声をかけた瞬間、彼女の靴がタイルに滑った。


「あ……」


傾く巨大な鉄の塊。反射的に体が動いた。

俺は彼女の腰を抱き寄せ、自分ごと壁際へ滑り込む。



ドォォォォン!!!



背後で重量物が着地し、地響きが鳴った。


「はっ、……はっ、……大丈夫か、麗華さん」


腕の中に、震える肩の感触。

はだけた襟元から、俺の熱気が彼女に直接伝わっているのが分かった。


「……あ、……あ……」


彼女は何かを言いかけて、俺の喉元や胸板を、熱を帯びた瞳で見つめていた。

その瞳の奥で何かが砕けるような、危うい光を感じたのは気のせいだっただろうか。


作業を終えて控室に入った時、俺の体力は限界を越えていた。


「悪い、5分だけ……寝かせてくれ……」


椅子に倒れ込んだ瞬間に、意識のスイッチが切れた。


深い眠りの中、奇妙な夢を見ていた。

ヘビが体を這い回るような、くすぐったい夢。


数時間後。まぶしい朝日の光で目が覚めた。

体中が重い。なぜか、一晩中全力疾走したあとのような脱力感があった。


「……? なんだ、これ……」


指先で唇の端を拭うと、そこには生々しい「ベタつき」が残っていた。

寝汗だろうか。重労働の後でたくさん汗をかいてしまったのかもしれない。


だが、それにしては首筋まで妙に生々しい感触が残っていて、俺は首を傾げた。


ふと見ると、麗華さんが少し離れた椅子で、逆さまの雑誌を必死に読みふけっている。


「……麗華さん、おはよう……」


「ひっ……! お、おはようございます、結城様っ!」


飛び上がるように肩を震わせる彼女。

雑誌を握る指先は小刻みに震え、その横顔は耳の先まで真っ赤に染まっていた。

【※読者の皆さまへ、お願いです】


もし少しでも

「面白かった!」

「続きが気になる!」

「応援してる!」

と思っていただけたら……


下のポイント評価欄【☆☆☆☆☆】から、評価で応援していただけると嬉しいです!


★1つで2ポイント、★★★★★で10ポイント入ります!

この10ポイント、作者にとって本当にめちゃくちゃ大きいです……!


評価をいただけると、更新のモチベが爆上がりして

「明日も書くぞ……!」って本気で思えます。


どうか、よろしければ【☆☆☆☆☆】→【★★★★★】で

応援してもらえると泣いて喜びます……っ!


↓この下に【☆☆☆☆☆】があります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ