第50話 停学解除
聖羅と石井が、停学処分を受けてから、3週間が経過した。彼らにとって、長い長い21日間だっただろう。想像に難くない。
学校から連絡があり、今日から晴れて登校が可能になった。
そのため、自分達で事前に決めた場所に集まり、聖羅と石井は、寄り道せずに、学校へ向かう。
「…」
「…」
集合して、登校を始めてから、2人の間で、会話は一切無い。
聖羅も石井も、硬い表情で、ただ歩を進める。
おそらく、2人とも、緊張感を抱いている。
それと同時に、恐怖も抱いている。これから登校し、彼らを認識した生徒達に、どのような目で見られ、どのような扱いを受けるか。想像するだけで、ゾッとするレベルだ。
静寂と緊張が、張り詰めた空気を漂わせながら、聖羅と石井は、聖堂高校に到着する。
重い足取りで、正門を抜け、昇降口に向かう。学校の敷地内に入る前よりも、歩くスピードが、明らかに遅くなる。まるで、昇降口に辿り着くことを、少しでも遅らせるように。
昇降口に辿り着くまで、何人かの生徒から、冷たい視線を受ける。容易に、聖羅と石井の犯した過ちと、彼らの関係性を知る者達と、分かる。
肩身の狭い思いをしながら、靴から校内スリッパに履き替える。
1階の廊下を進み、時間を掛けるように、ゆっくり1段1段階段を登り、2階に向けて、移動する。
2階に、聖羅と石井の所属する、2年5組と2年6組の教室が有る。
聖羅と石井も、それなりに覚悟を持って、登校しただろう。ひどい扱いを受けることも、推測できたはずだ。
未来で起きる恐怖から自身を少しでも守るために、わざわざ2人は、共に登校した。
案の定、生徒達からの扱いは、実に冷酷だった。
他者の生徒達からの攻撃は、2階に到着し、廊下に足を踏み入れた直後に、始まった。
「あ、来た来た。今日、停学が解けた2人だ」
「他人の彼女を寝取った石井君。彼氏を裏切って、浮気した伊藤さんだね」
「クスクス。下種同士、仲良く一緒に登校して、実にお似合いだね」
「本当だな。実に醜く、滑稽だな」
見下した態度で、バカにした笑い声を漏らしながら、廊下に身を置く2年生の生徒達が、様々な種類の視線を向ける。
あざ笑う視線、見下した視線、冷たい視線、ゴミを見るような視線、小バカにした視線、など様々だ。
「「っ」」
このカオスな場から逃げるように、聖羅と石井は、同時に廊下を駆け抜ける。生徒達の多様な視線が、これでもかと、遠慮なく、聖羅と石井の背中に、突き刺さる。
覚悟はしていたが、それらの視線が、聖羅と石井を、精神的に追い詰める。
「じ、じゃあな」
「う、…うん」
2年5組のクラス前に辿り着いた所で、初めて校内で1言交わし、聖羅と石井は、別れる。
石井は、自身のクラスである、2年5組の教室に、いち早く逃げ込む。
残念ながら、全く、変わらぬ、扱いを受けるにも関わらず。
石井と別れた後、後ろの戸から、すぐ隣の2年6組の教室に、聖羅は駆け足で入室する。
地獄かと錯覚するほど残酷で、無慈悲な廊下を、ようやく自力で免れ、心の底から安堵した表情を浮かべる聖羅。
走った結果、多くを消費し、不足した酸素を補うために、息を乱しながらも、聖羅の顔は、思わずといった形で、うっすらとした微笑が浮かべる。
しかし、不幸にも、その微笑は、一瞬で消え去ることになる。
「え…」
教室の後ろの戸から、映った光景を認知し、聖羅の表情が、一瞬で劇的に変化する。
血の気が引いたように、聖羅の顔が固まる。その上、だらしなく、口が半開きになってしまう。
仕方のないことだ。なぜなら、聖羅にとって、信じ難い出来事が、目の前で起こっているのだから。
「ねぇ〜。颯君〜。うちのことは、いつでも瑞貴って呼んで、いいからね」
「いや、それは、…流石に。俺には、ハードルが高すぎるような」
「そ、そうだぞ! それに、どうして、天音を下の名前で呼んでるだ。最近、仲良くなったばかりだろ! 距離感おかしくないか? 」




