第47話 次の日
「あっ! 登校してきた。あれが2年5組の中谷さんをいじめた女子3人達だよ」
「本当だ。しかも、理由が嫉妬だったなんて。最低だよね」
次の日の早朝。
瑞貴をいじめた女子3人が、自分達の教室に足を踏み入れると、多くのクラスメイト達の軽蔑した視線が、大量に突き刺さる。そして、クラスメイト達は、陰口を喋るように、ヒソヒソと近くの人間と言葉を交わす。
「え…。どうしたの…。どうして、こんなことになってるの」
登校してきたばかりの、リーダー格の女子1人は、教室の周囲を見渡し、戸惑いを隠せない。
取り巻き2人は、リーダー格の女子以上に取り乱す。
明らかに、クラスメイト達の冷たい視線に、圧倒される。瑞貴の前で取った態度とは、大違いだ。弱い野生の猫のように、縮こまる。完全に弱者の行いだ。
「お~~す」
背中で背負うように、学生カバンを右手に持ち、軽い調子で、クラスメイト達に挨拶し、教室の後ろの戸から、いじめの首謀者である丸山が、堂々と登校する。
まだ、クラスの異変に気づいた様子はない。陽キャの割に案外、察しが悪いのかもしれない。
「うん? どうしたんだお前達? 教室の後ろで佇んで」
恐怖で怯えるように、1箇所に集まり、周りに視線を移すことを避けるように、教室の床を見つめ、黙っている例の女子3人に、丸山は意外そうに声を掛ける。
彼が女子3人に対して、どう思っているかは定かではない。
表面上では偽装しているが、実際は胸中では、3人に対して、怒りを覚えているのかもしれない。
首謀者は彼とはいえ、女子3人を操っていた犯人を、颯に教えたのは、間違いなく例の女子3人達である。その上、音声記録まで取られる失態も犯している。怒る理由は大いにある。
「あ。首謀者が来たよ。中谷さんにフラれたからって、復讐でいじめを実行するために、あの女子3人に、色々と指示していたらしいよ」
「顔が良くて、野球部でエースで4番かもしれないが、やって良いことと悪いことあるよな。もしかして、自分は何をしても許されると勘違いしてたのか」
「それは有り得る。そうしないと、復讐でいじめなんてしないよ」
「それに、丸山君、自分よりスクールカーストの低い人には、高圧的だったし。本当に性格悪いよね。上手く隠してたつもりかもしれないけど、バレバレ」
丸山の登場で、一段と、クラスメイト達のヒソヒソ話が、加速する。男女関係なく、丸山を責めるような会話が、繰り広げられる。
「な、何が起こってるんだ。どうして、いじめの件が、こいつらに拡まっているんだ…」
わなわなと上下に身体を震わせ、それ以上なにも言えず、直面するカオスな光景を、女子3人の隣で、大きく取り乱しながら、丸山はただ見つめる。目の前に映るクラスメイトたちは、丸山にとっては、全員敵に思えた。
自分のクラスだが、それほどアウェーな状況が押し寄せる。昨日までとは、クラスメイト達からの対応も、大きく異なる。
大半のクラスメイトが、汚物を見るような目で、丸山や女子3人を注視する。
短い期間で、丸山と女子3人は、クラスメイト達、いや多くの聖堂高校の生徒達から、信頼や人望を失うことなった。
☆☆☆
「みずっち大丈夫! はるっちに聞いたし。いじめを受けたって。気付けなくて、ごめん! 」
丸山が教室に登校した、ほぼ同時刻。
教室の後ろの戸から入室した瑞貴に、いち早く気づき、先に登校した愛海が、駆け寄る。その際、きれい染めたボブヘアの金髪が、慌ただしく上下左右に揺れる。
「う、うん。…多分、大丈夫だと思うよ」
愛海の必死さに圧倒されながらも、歯切れ悪くも、瑞貴は返事をする。
「多分ってなに! もしかして、まだいじめを受ける可能性があるの? それなら、愛海に詳しく教えて! 絶対に阻止するから!! 」
大切な友人を心配し、目と鼻の先まで、瑞貴に顔を近づけ、愛海は早口で捲し立てる。口調からも、愛海の心境が、読み取れた。
「まあまあ、落ち着け愛海。瑞貴が対応に困ってるだろ。もう少し、ゆっくり話をしてやれよ」
前のめりの体勢の愛海の右肩に手を置き、落ち着かせるように、軽く遥希はたしなめる。
「あっ。ごめん。ちょっと情報量が多かったかも。はるっちの言う通りだし。冷静になるし。ごめんね、みずっち。自分勝手だった」
遥希の声掛けで我に返り、一旦、愛海は瑞貴から距離を取る。目と鼻の先だった、愛海の顔が、瑞貴から離れる形となる。
「いや…。気にしないで。…それよりも心配してくれてありがとう…」
未だに、普段と同じように、愛海と言葉を交わさない瑞貴。
だが、愛海の気持ちは、伝わってきたのだろう。愛海の先ほどの言動を、さりげなくフォローするように、お礼を口にする。
「お、お礼なんて要らないし。こんなの、…当然だから」
恥ずかしそうに、わずかに頬を赤く染め、そっぽを向く愛海。
ツンデレが発動しているのだろうか?
「中谷さん、災難だったよね。確か、理系のクラスの丸山君が首謀者だったんだよね? 」
「そうそう。丸山君、カッコいいと思ってたから、残念。性格悪い、クズ野郎だったんだね。だって、フラれたからって、復讐でいじめる人だよ? クズ以外の何者でもないよ」
「俺達の目の保養である、中谷さんをいじめるとは。許さん。俺、丸山のクラスに行ってくるわ。イケメンで、野球部のエースで、4番だか知らんが。そんなの関係ねえ。怒りが収まらん」
「同感だ。お前ら行くぞ」
「「「おう! 」」」
数名の男子生徒の声が、ぴったり重なり、彼らは仲良く教室を後にする。
言葉通り、丸山の所属する理系のクラスに、向かったのだろう。
「どうして…。こんなにも、うちのいじめに関する情報が、拡まってるの。別に、うちは拡散した覚えはないのに」
瑞貴の耳に、周囲のクラスメイト達の声は、嫌でも届く。皆が、自身のいじめについて、認知しており、驚きを隠せない。信じられない光景を目の当たりにする。
「まぁ、そうだな。私から教えてもいいが。全ては、天音に聞くといい。あいつが、バカ正直に話すとは思えんがな」
右頬を優しく触りながら、なぜか誇らしげに、遥希は意味深な言葉を、瑞貴に伝える。
「遥希ちゃん、それはどういうこと? その言い方って、天音君と遥希ちゃんは全て知ってるってことだよね。何で遥希ちゃんから、教えてくれないの? 」
「そうだし。愛海も気になるし」
瑞貴の主張に、愛海が便乗する。2人共、真相を気にしている感じだ。
「なんて言うかな。《《メイン》》はあいつだったからな。何か、私が教えるのも気が引けるんだ。天音の手柄を奪う感じがしてな。おそらく、天音は気にもしないだろうが」
瑞貴と愛海の要望に答えず、頑なに、遥希は真実を語らない。まるでチャックが閉まっているように、上手いこと言葉を濁す。
「何それ。変なの…。どうして教えてくれないの? 納得できない」
不満げに、今回の件の当事者の瑞貴は、分かりやすく眉をひそめた。




