第46話 放課後
「あれ? ローファーがある…」
昼休みから、しばらく時が経ち、放課後。
いじめに対する恐怖を抱きながら、硬い表情で、瑞貴は昇降口まで移動する。緊張した面持ちで、靴箱を開けると、中には自身のローファーがあった。
「もしかして、ローファーの中に、いたずらされてるかも。虫とか画鋲とかが入ってるかも」
例の女子3人からのいじめを警戒し、恐る恐る、瑞貴はローファーを手に取る。
苦手な虫が飛び出して来ることを非常に警戒し、身体を上下に小刻みに震わせながら、ローファーの中に目を通す。ローファーの黒い中敷きが、瑞貴の視界に映る。
「あれ? 虫も画鋲も無い……」
恐怖の対象が存在せず、拍子抜けな顔を作る。先ほどまで、拒否反応のように、身体の震えも、驚く位に、途端に収まった。
「そんなことって———」
ローファーを右手に持ったまま、靴箱の中を隅々まで、瑞貴はチェックする。しかし、いじめ形跡は、見られない。不気味なほどに、何も無かった。荒らされた後も皆無だ。
「そんなに神経をすり減らして、怯える必要はないよ。もう大丈夫だから! 茶々入れて来る、面倒くさい奴らは、身を引いたから」
靴箱の中を真剣に凝視する瑞貴の後方から、同じく昇降口を訪れた颯が、明るい調子で声を掛ける。
「え? それはどういう……」
颯の声と言葉に反応し、素早く振り返り、瑞貴の動く口元が、途中で止まる。颯の言葉の裏に隠れた意味を、突き止めようと試みる。
「そのままの意味だよ。いじめは消滅したから、これから安心して、中谷さんは、学校生活を送れるってこと」
既に瑞貴の後ろを通過し、自身の靴箱を開き、中に入ったスニーカーを取り出しながら、颯は片手間に返答する。そして、昇降口の床に、スニーカーを投げ置き、両足をスムーズに通す。
「そういうことだ。だから普段通りの学校生活が戻ってきたわけだ。それと、ごめんな。同じクラスメイトで、大事な友達の受けているいじめに気づけなくて。正直、情けない気持ちだ」
颯に続くように姿を現し、ポンッと優しく瑞貴の肩に触れ、神妙な面持ちで、申し訳なさそうに、遥希は謝罪の言葉を口にする。いち早く、友人のピンチに気付けなかった自分に、責任を感じているのだろうか。
「いや、それは仕方ないよ。うちも遥希ちゃんや愛海ちゃんに教えなかったし、相談もしなかったから」
遥希から謝罪を受け、居心地が悪そうに、俯く瑞貴。
「今度は、私や愛海にも伝えて欲しいな。1人で抱え込まないで欲しい。瑞貴は私にとっても、愛海にとっても、大事な人間だからな。これだけは覚えておいてくれ」
自身の靴箱の前に立ち、真剣な目で、正直な気持ちを、遥希は伝える。本心から湧き出た、気持ちの籠った言葉であった。
「…う、うん! …ごめんね。今度から気を付ける。絶対に覚えとくよ」
大きく目を見開き、顔を上げ、瑞貴は遥希に視線を向ける。瑞貴の視界が広く開ける。
瑞貴と遥希の目が合う。
そして、満更でも無さそうに、嬉しそうに、瑞貴は、にこっと顔を綻ばせた。自然と零れた笑みだった。
「それじゃあ、《《仕事》》も終わり、一件落着したことだし、一緒に帰るか。あ! おい天音!! 先に帰って置いていくなよ! 私と一緒に帰らないとダメだぞ! 」
「ご、ごめんね八雲さん。気が利かなくて。一緒に帰るよ」




