第45話 脅し
「ここでいいかな」
クラス前の廊下から場所を変え、空き教室に、颯と丸山は移動する。この空き教室は、あの女子3人組が、瑞貴を呼び出した場所だ。
「そ、それで。話は何なんだよ」
明らかに動揺しながら、場所を移してから今まで口を閉じる颯に、丸山は沈黙に耐えられずに、聞く。
「それは、自分が1番分かってるでしょ? 」
教室の戸を硬く閉め、余裕な態度で、薄ら笑みを浮かべ、颯は丸山を見据える。
「ぐっ…」
颯の態度に恐怖を覚え、歯を食い縛りながら、丸山は数歩ほど後ずさる。
「身体は正直だね。それでも、敢えて言うよ。理由はどうでもいいから、もう、中谷さんに、ちょっかいを掛けるのは辞めてくれないかな? 」
丸山の心境など無視し、自身のペースで、颯は伝えたい内容を述べる。
「そ…それは…」
プライドが許さないのだろう。颯を直視できずに、視線を逸らしながらも、丸山は二つ返事で要求を飲もうとしない。
「どうせ、野球部のエースで4番で、モテるイケてる自分の告白をフった中谷さんが、許せなかったんでしょ? それは俺が許さないよ。絶対に手を引いてもらう。何が何でもね」
態度が急変し、鋭い目を向けながら、颯は冷たい声色を丸山にぶつける。絶対に普段見せない、怒気を帯びた瞳が、存在感を放つ。
「わ、悪いかよ!! 元はと言えば、あいつが悪いんだよ! スポーツ万能のスーパー陽キャの俺の告白を、あっさりと無下にしやがって。復讐して何が悪い? 」
流石に颯の言葉に我慢ならなかったのだろう。頬に汗を掻きながらも、声を荒げて、丸山は反抗する。
「復讐して何が悪い? 本当に自分勝手だね。言葉に気を付けた方が良いよ」
まるで見せびらかすように、右手に持つスマートフォンを、颯は前に差し出す。無言の脅し行為だ。これ以上、下手に言葉を吐けば、颯は例のボイスデータを拡散するといった、颯なりの分かりやすい意志表示だ。
「ちょ、ちょっと待て!? 分かった! 分かったから!! 早く、そのスマートフォンを触る手を止めてくれ!! あのボイスデータが、学校中に拡散されれば、俺の今後の学校生活が絶望的になる!! それだけは勘弁してくれ!! 」
焦った口調で、説得するために、丸山は捲し立てる。その際、無数の唾が、丸山の口内から飛び散り、床に何粒も付着する。実に下品で、汚い。
「中谷さんは苦しんでいるんだ。昔から、恋愛関係で、何度も何度も絶望を味わっているんだと思う。だから、今後の行動は改めて欲しい。分かったな? 」
限界まで瑞貴の立場に立ち、彼女の気持ちになりながら、本心を口にしてから、颯は、最後に強い口調で、威圧的な言葉を残す。
「わ、分かった。…分かったよ…」
観念し、颯の強い眼差しを凝視できず、さっと視線を逸らし、丸山は、ようやく要求を飲んだ。渋々といった形だが。
「それは良かった。約束だからね。これで、話は終わりだよ。それじゃあ。《《またね》》」
既に用無しであるため、完全に丸山から意識を外し、ひらひらと軽く手を振りながら、颯は歩を進める。
完全に颯の視界から丸山は消え、今向かう空き教室の戸だけが、彼の目に映る。
教室の戸を引き、優しく閉めて、退出する。
空き教室に戸の閉じる音だけが生じる。
丸山は、微動だにせず、ポツンッと、空き教室に取り残される。
空き教室を後にし、教員が周囲に居ないか、目を光らせながら、手に持つスマートフォンのロックをパスワードを打ち込んで、颯は慣れた手付きで解除する。
チャット系SNSのミインを起動し、ある人物に連絡を入れる。
天音 颯『このボイスデータの拡散をお願い。やり方は、お任せするよ』




