第44話 犯人
「ちょっと、いいかな? お話したいことがあるんだけど」
あるクラスから退出し、廊下に出た、高身長で、顔立ちの整った男子生徒に、ベストなタイミングを窺い、颯は声を掛ける。
この男子生徒は、理系のクラスに属する。文系のクラスに所属する颯とは異なる。
「いいけど。失礼かもしれないけど、君は誰? 知らないんだけど」
怪訝そうな顔を浮かべ、男子生徒は露骨に雑な対応をする。
「おっと。自己紹介が、まだだった。俺としたことが。2年6組の天音颯。平凡で陰キャな聖堂高校の生徒だよ。ちなみに、君と同級生ね」
作り笑いを浮かべながら、颯は淡々と自己紹介を終える。普段は、ここまで愛嬌は無い。それこそ、表情は豊かではない。基本的に、その時の心に従って、表情を変えるタイプだ。良く言えば、正直な人間なのだ。
「ふぅ~~ん。それで、そんな俺と一切ゆかりの無い天音君が、俺に何の用? 」
陰キャという言葉を聞き、自身より下の人間と認知したのだろう。先ほどよりも、威圧的な態度を取る。
「ちょっと…。ここでは話せないかな。内容が内容だからね。場所を変えたいんだけど。ダメかな? 」
特に気にした素振りを見せない颯。分かりやすく、颯は場所を移すように提案する。颯なりの最低限の配慮でもある。
「何で? ここで話せない、やましいことでも有るのかい? 」
得意げに、余裕綽々《よゆうしゃくしゃく》で男子生徒は、まるで責めるように、きつく颯を問い詰める。
「いやぁ~~。ここでは話せないかな。この音声を聞いたら、察してくれると思うけど」
ブレザーのポケットからスマートフォンを取り出し、颯は保存された録音データを表示し、再生ボタンをタップする。スマートフォンから音声が流れる。
『中谷瑞貴さんのいじめの首謀者は、丸山君です。彼が首謀者であり、私達3人に指示を出しました』
機械音で、瑞貴をいじめていたリーダー格の女子の声が、つらつらと吐き出される。
「な!? 」
目を大きく見開き、男子生徒は驚きの声を漏らす。さっきまでの余裕は一瞬で消え、明らかに顔に動揺が走る。
「事情は理解してくれた? そういうことだから。場所を変えない? 早くしないと、昼休みが終わるよ。俺も早く話を済ませたいんだよね」
男子生徒の胸中を無視し、さらに追い込むように、颯は遠慮なく畳み掛ける。
「それと。俺の言うことを聞かずに、このまま場所を移さないのは禁止だからね。君が、その手に走るなら、俺はこのボイスデータを学校中に拡散するから。言っとくけど、脅しじゃないよ。本気だからね? 野球部のエースの丸山君」
目の前の男子の名字を呼び、颯は、にや~っと不敵な笑みを浮かべる。
「わ、わかったよ。そっちの言う通りに動くから! 」
最悪の未来を想像したのだろう。両肩をブルブル上下に揺らしながら、丸山は何度も首を縦に振り、肯定の意を示す。丸山は、颯に強く威圧的な態度を取れなくなってしまった。逆に、下手に出る必要まで有りそうだ。
「話が早くて助かるよ。ありがとね! さあ、場所を変えようか! 」




