第42話 吐露
「本当に世の中って性格の悪い人が多いよね…」
聖堂高校の正門を出て、颯と並んで歩きながら、まるで共感を求めるように、瑞貴はボソッと呟く。
「…」
足を止めず、返す言葉が見つからず、颯は、ただ口を噤む。瑞貴に対して、何も出来ない。
「本当に…。幼稚園の頃からそう。人間の汚い部分を嫌なほど目にしてきたよ。もううんざりだよ…。困っちゃうよね…」
全てを諦めたように、瑞貴は、無理やり作った笑顔を颯に向ける。
「あの…。やっぱり中谷さん…」
思い当たる言葉を発しようとしたタイミングで、颯は無意識に口を閉じる。流石に、自然と言葉が途切れる。そこまでデリカシーが無いわけではない。
「それ以上は言わないでね天音君。その言葉は聞きたくないからね」
「ごめん。配慮が無かったね」
素直に謝罪する颯。胸中で、じっくりと反省する。
「でも、先生に助けを求めないの? そうしたら、今の状況も改善するかもしれないよ」
良心な心が働き、颯は対策案を提示する。
「そんなの…無意味だよ。我が身が可愛くて、助けてくれる親切な人なんか居ないよ……。あの人だって、そうだったし」
過去を思い返すように、颯から目を逸らし、瑞貴は俯く。瑞貴の瞳に、地面の景色が映る。
「でも! 」
「もうやめてよ!! 」
足を止め、珍しく、大きな声を上げる瑞貴。普段の優しく、おっとりした雰囲気は消え、キッとした鋭い目で、瑞貴は颯を睨み付ける。瑞貴の瞳は、怒りを帯びつつ、下方に涙の湖が溜まる。
瑞貴の急な変化に大きく戸惑い、反射的に、颯も足を止める。瑞貴の斜め前で、立ち止まる形となる。
「無駄なんだよ! 《《今回も》》、誰も助けてくれず、うちが辛抱強く耐えるしかないんだよ。理不尽で残虐な、嫉妬から生まれるいじめにね! 」
両目から涙を流しながら、溜まった鬱憤を晴らすように、瑞貴は叫ぶ。幸運にも、周囲に人の気配は無い。
「どうして…。どうして私が酷い目に遭うの…。誰か…。誰か…。お願いだから……助けてよ~~」
頬を通って、大粒の涙を流しながら、瑞貴は勢いよく颯の胸に飛び込む。
「う……うぅぅぅ~~」
両手で、颯のブレザーを強く掴み、胸に顔を埋めながら、所構わず泣きじゃくる。瑞貴の涙が、ブレザーに付着する。
颯は何も言わず、黙ったまま、静かに瑞貴の背中を優しく撫でる。激しく泣いているため、体温が上昇しており、瑞貴の背中は熱を帯びていた。
「…」
瑞貴のしくしく泣く声と、時折り鼻を強く啜《すす》る音が、颯の鼓膜をこれでもかと、刺激する。
だが、不快さを感じなかった。
ただ、心の奥底から、沸々とマグマのように、沸き上がる物が生まれる。それは、制御できない程、心の中で沸騰していた。
「辛かったね。でも、もう大丈夫だから。俺が何とかするから。安心してね」
泣き続ける瑞貴の背中を摩りながら、届かぬ小さな声で、颯は諭すように語り掛けた。




