第36話 告白を受ける
「中谷さん! 君を初めて見た時に、一目惚れしたんだ。この気持ちは本物だ。好きなんだ。付き合ってください! 」
真剣な目で、丸坊主の男子生徒は、目の前の瑞貴に告白する。
男子生徒の告白の言葉により、自動販売機から意識を戻し、瑞貴は目の前の男子生徒に視線を移す。
男子生徒の顔は真面目であり、嘘を付いている様子も窺えない。本心からの気持ちなのだろう。
好青年をイメージさせるイケメンに、告白を受ければ、喜ぶ女子が大半だろう。それだけ、男子生徒の外見には、魅力が存在した。
だが、瑞貴は、どこか辟易したような、失望したような表情を、一瞬だけ浮かべる。
一方、好奇心に負け、再び自動販売機から顔を覗かせ、なぜかドキドキしながら、颯は状況を眺める。瑞貴は男子生徒に注意が向いているため、今回は目が合うことは決してない。
一瞬だけ俯き、意を決したように、瑞貴は再度、顔を上げる。
「ごめんなさい。あなたとは付き合えない。うちは誰とも付き合う気はないから」
軽く頭を下げ、理由を添えて、瑞貴は男子生徒からの告白を断る。
「そ、そうなんだ。もし良ければ」
そこで男子生徒の動揺した早口の言葉が、途切れる。男子生徒の口が、不自然に硬く閉じる。
瑞貴が、深掘りするなと、まるで警告するように、言葉無しの無表情で、訴え掛けるためだ。
「ご、ごめんね。時間をもらって。こっちから呼び出した身だけど、そろそろ教室に戻ろうかな。ごめんね自分勝手で」
忙しなく、わざとらしく頭を掻く男子生徒。先ほどから、落ち着きがない。
「うん。…ご自由にどうぞ」
特に止めずに、歓迎するように、瑞貴は淡白に答える。
「そ、そうさせてもらうよ。じゃあ! 」
居心地が悪く、メンタルに影響が及んだのだろう。逃げるように、踵を返し、男子生徒は、駆け足でその場から退く。
颯の隠れる自動販売機を横切り、校舎へと一直線に駆け抜ける。
そんな男子生徒の背中を、自動販売機越しに、颯は目で追う。彼の哀愁のプンプン漂う背中を目にすると、哀れな気持ちを抱いてしまう。決して善人を装っている訳ではない。
「もう告白は終わったよ。そろそろ出て来てもいいよ。天音君」
振った男子生徒を特に気に掛けず、男子バスケ部の前に1人で身を置きながら、瑞貴は呟く。瑞貴の声は、自動販売機に半分ほど身を隠す颯に、しっかり届く。
「ごめんね。告白の現場を盗み見して。もしかして、不快だった? 」
申し訳なそうに、自動販売機から姿を見せる颯。
未だに自動販売機に硬貨は投入された状態であり、ボタンは青いブルーライトを放つ。時間制限に至り、カシャンッカシャンッと機械から、硬貨が吐き出される。自動的に、ボタンの青いブルーライトも全て消える。
「ううん。問題ないよ。もう慣れてるから。告白を受けるのも、見られるのも」
首を左右に振り、特に気にして無さそうな素振りを見せる瑞貴。
「そうなんだ…」
この場に相応しい言葉が見つからず、相槌を打つように、颯は適当に返答する。
「うん。告白する人には申し訳ないけど、正直告白を受けるのは、面倒くさいんだよね。呼び出されるのも、断るのもね」
ダークなオーラが、瑞貴を覆う。今までに告白してきた、男子生徒に対して、相当鬱憤が溜まっているのだろうか。その気持ちは、残念ながら颯には理解できない。今まで告白を受けた経験は皆無だから。
「何て言うか。モテるんだね…」
場の空気を変えるため、颯は率直な感想を口にする。悪気は無いが、デリカシーの欠ける選択である。
「…男子にモテても本当にロクな思い出がないよ。辛いことばかりだよ。何度も何度も味わってきた。そう…あの時も」
目を伏せ、意味深な言葉を吐露する瑞貴。瑞貴の顔には、多大な哀愁が漂う。その上、何かに絶望しているようにも見えた。
「え~っと」
気を利かせようと、懸命に脳をフル回転させる。だが、経験値不足により、思う通りには進まない。
「無理に気を遣わなくていいよ。そろそろ休み時間も終わる頃だから、戻らないと。ねっ」
哀愁の漂う表情から、悟ったように、瑞貴は無理に作った笑顔を浮かべる。どうやら颯の考えは、推量されていたようだ。
「う、うん」
首を縦に振る颯。
「さっ、さっきまでの話は忘れて、教室に戻ろうよ」




