第23話 ストレス解消?
颯・遥希・瑞貴・愛海は、学校最寄りのファミレスを訪れた。
入店し、依然として気分良さそうに、遥希達は、自由にテーブル席に腰を下ろす。このファミレスは、自由に席を選ぶことが可能な店舗だ。
「私は奥に座るぞ」
「愛海も! 」
遥希と愛海がソファ席に座り、瑞貴はイスに腰を下ろす。
最後に残ったイスに、自然と颯が座る形になる。
「何を頼もうかな~」
事前にテーブルに用意されたメニューを手に取る愛海。メニューをテーブルの上に広げ、目を通す。
遥希は愛海の横から覗き込み、メニューを共有する。
「天音君は何を注文するの? はいメニュー」
以前と同様に、おっとりした口調で、瑞貴は余ったメニューを、颯に差し出す。
颯はメニューを受け取る。
「あ、ありがとう。え~っと」
石井の幼馴染である瑞貴。颯は名前しか知らなかった。そのため、瑞貴の名字は存じ上げなかった。流石に、あまり面識の無い女子を名前で呼ぶのは、躊躇われる。
「そういえば、自己紹介してなかったね。うちは中谷瑞貴だよ~。宜しくね~~」
進んで自己紹介を済ませ、瑞貴は薄く微笑んだ。その表情が、和風美人感をより一層強める。
当然、颯の目には、魅力的に映る。
「俺は天音颯。こちらこそ宜しくね中谷さん」
畏まったように軽く会釈し、瑞貴に倣って、颯は自己紹介を行った。
「知ってるよ~。そんな畏まらなくても良いからね~」
和むような空気を醸し出す瑞貴。
その空気は、幾分か颯をリラックスさせる。
「何だ。瑞貴は天音に自分のフルネームを教えてなかったのか? 」
メニューから意識を外し、遥希が疑問を投げる。
「そうなの。機会が無くて。遥希ちゃんと愛海ちゃんは既に済ませた感じかな? 」
「ああ。私は1番初めにしている」
「愛海も終わってるし」
遥希と愛海は瑞貴の疑問を解消する。愛海もメニューから視線を外し、意識を瑞貴に向ける。
「そうなんだ。うちが最後だったみたいかな」
指で前髪をいじりながら、瑞貴は苦笑いを浮かべる。
「話を中断させる感じになるが。私と愛海は既にオーダーを決めたが、瑞貴と天音はどうなんだ? 」
テーブルに開いた状態のメニューを閉じ、遥希は元の場所に直す。どうやらメニューは用済みなようだ。
「うち達はまだ決まってないかな。天音君、早く決めようね」
「う、うん。了解」
颯は右手に持ったメニューをテーブルに広げる。メニューを物色する。
「どれにしようかな~」
颯の真横からメニューを覗き込む瑞貴。
颯と瑞貴の距離は非常に近い。あと少しで、瑞貴の顔と颯の腕が触れそうだった。青りんごの香りが、颯の鼻腔を優しく撫でる。颯にとって心地よく、魅力的な香りだった。
「うちは、ミートソースにしようかな」
颯のペラペラめくるメニューから物色し、瑞貴はオーダーを決定する。
メニューを見る必要が無くなり、瑞貴は颯から距離を作り、前の体勢に戻る。愛海と向き合う形となる。
「え~っと。俺はペペロンチーノかな」
メニューを決めていないのが、颯1人になってしまった。そのため、催促されてはいないが、胸中では焦って、メニューを決めた。遥希達を待たせている気分だった。迷惑を掛けたくないので、早急にオーダーを決定した。
「それでは、ボタンを押すと」
3人からの返答を待たずに、テーブルに設置された呼び出しボタンを、遥希はプッシュした。
ピンポ~~ン。
店舗内に軽やかな音が拡がる。
呼び出しボタンの音に答え、ファミレスの店員が、颯達の座るテーブルに訪れる。
「注文の方を窺います。どれになさいますか? 」
注文に窺ったのは、颯達と年の変わらない女性の店員だった。愛嬌のある好印象のスマイルで、颯達に接客を行う。
「私はナポリタンで」
まず、遥希がオーダーを口にする。
「愛海はハンバーグステーキで」
遥希の次に、愛海がオーダーを出す。
その後に、瑞貴、颯の順にオーダーを出す。
「オーダーの確認をさせていただきますね。ナポリタンが1つ、ハンバーグステーキが1つ、ミートソースが1つ、ペペロンチーノが1つ、で宜しかったでしょうか? 」
女性の店員が、オーダーの入ったメニューを復唱する。
「それで問題ないです」
全員を代表して。遥希が応対する。店員に対しては、礼儀として敬語である。
「かしこまりました。ではお席でお待ちくださいませ」
軽く1礼し、女性の店員は、キッチンに移動する。おそらく、調理者にオーダーのメニューを伝えるのだろう。
「それにしても。いきなりだが。停学3週間とはな。クソ1号とクソ2号はざまぁないな」
遥希が話を切り出す。クソ1号とクソ2号の愚痴について語り合う会が始まるようだ。
「本当に! でもうちは満足してない。もっとひどい目に遭ってもらわないと。それに、聞いてよ! クソ2号君は、私達と交わした約束を完全に忘れてたんだよ。面倒な契りを交わした覚えはないだって。ひどすぎない? 」
瑞貴の口調に若干だが変化が生じる。言葉に熱が帯び、おっとりさが、多少なりとも損失する。瑞貴にとって、それほど熱くなる事柄なのだろう。
「それまじ! ありえないし!! 」
愛海も共感の意を示す。
「そう思うよね」
共感を獲得でき、瑞貴は、さらにヒートアップする。
瑞貴の言葉に同意するように。遥希も首を縦に振る。遥希も瑞貴と同じ気持ちなのだろう。
「本当にクソ2号は、ろくでもない野郎だな。まさにクソ野郎だな」
「それには同意」
「うちも」
遥希達は、同じ思考を共有していた。相当に石井に対して、ストレスが溜まっていたことが分かる。言葉や態度で明らかである。
「おっと。私達ばかりで盛り上がっては駄目だな。クソ1号の彼氏だった天音は何かないか? クソの奴らに対して、吐き出したい愚痴とか」
気を遣って、遥希が颯に話を振る。
「え、俺? 」
突然の指名に、颯は戸惑い、人差し指で自身を指す。
「ああ。そうだよ。好きなだけ愚痴ればいい。溜まってるものを解消するようにな」
「そうだし。天音っちはすごい傷ついてると思うし」
「どんなことでも言って良いんだよ。うちたちは、黙って耳を傾けるから」
遥希・愛海・瑞貴は、温かい目で颯を見つめる。まるで、安心感を与えるように。
その優しさに、颯は言葉に甘え、口が動いてしまう。
「ちょっと聞いて欲しいんだけど———」




