最終話 第121話 自分なりの決断
次の日の朝。
颯は珍しく遥希や瑞貴に起こされずに起床する。
自分の部屋の鏡で自身の顔や髪を入念にチェックする。寝ぐせは一切無かったが、瞳には目ヤニが多く蓄積していた。
2階に洗面所は存在しないため自分の部屋のティッシュを用いて器用に目ヤニを瞳から除去する。
そして、鼻毛や髭の状態をチェックしてから自分の部屋を後にする。自分の部屋を出る際に、颯は一層に硬い覚悟を固める。
階段を1段1段と時間を稼ぐようにゆっくり降りてからリビングまで移動する。
リビングには既に朝の準備に着手する遥希達3人の姿が有った。
「3人共おはよう」
颯は初めて遥希達3人に対して自分から挨拶を行う。
「あ、ああ。おはよう」
「おはよう颯君! 」
「天音っち、おはよう」
颯の進んでの挨拶に物珍しそうな顔を形成した後、遥希達3人は普段通りの調子で挨拶を返す。
「いきなりで悪いけど、告白の返事の回答を良いかな? 」
颯は真剣な表情で遥希達の顔を窺うように尋ねる。
「とうとう決意したのか? 」
遥希は瑞貴達2人の言葉を代弁するように答える。
「うん。待たせてごめん」
「いいよ。それでどう決意したの? 教えて欲しいな」
瑞貴は颯の謝罪を優しく普段の調子で受け止めるが、表情は真剣そのものだった。
遥希も愛海も真剣な眼差しで颯の動向を見つめ続ける。
「うん。言うね」
颯は胸中で大きく渦巻く緊張感を和らげるように深呼吸を行う。颯の胸中の激しい鼓動は些か静まる。逃げたく回答を先延ばしたい気持ちは未だに抱えるが、その感情を逃がすために勇気を振り絞る。
「俺は…3人から1人を選ぶことは出来ない」
颯は再び勇気を振り絞って決断した内容を伝える。
「「「!? 」」」
颯の決断内容を耳にした遥希達3人は一瞬だけ目が点になる。
「おかしいことを言ってることは分かってるよ。でも決断する前に俺は色々と考えたんだ。その中でも特に重視したのが3人の大切にしていることなんだ」
颯は緊張やプレッシャーの影響を受け、顔に何滴も汗を流しながらも理由を説明する。
「3人は他者の選択肢を奪わないということを重視してると思うんだ。だから俺が3人の中の1人を恋人に選んでしまうと3人の大事なことを傷つけ、3人の選択肢を奪ってしまうと思ったんだ。だから先ほどのような決断を下したんだ」
颯は3人の反応を予測できずに多大な緊迫した感情を抱く。
「「「はぁぁぁ~~~。よかった~~」」」
遥希達3人は心の底から安心したように安堵の息を吐く。まるで3人共に胸を撫で下ろしたようだった。
「え、どうして3人共のそんな反応なの? 」
颯は3人の予想外の反応に戸惑いを覚える。失望の反応を覚悟の上での決断だった。
「それはな。こっちの選ばれないと考えるとな」
「うん。夜もしっかり眠れなかったし」
「同棲も当然に解消しないといけないし」
遥希達3人は首を縦に振り同意を示す。3人共に同じような不安を抱いていたようだ。
「俺に対して失望とかしないの? 情けない男とか思わない? 」
颯は目の前の3人の心境を確かめるように尋ねる。
「思わないな」
「うん思わない。だって颯君が決めたことだから」
「2人に同意」
遥希達3人は颯の選択を尊重した姿勢を取る。
「本当に? 本当に3人は良いの? 遠慮とかしてないよね? 」
颯は内心の不安を緩和するために繰り返し本当の気持ちを確かめようと尋ねる。
「ああ。嘘じゃないよ。これは3人共に変わらない。それと…」
遥希達3人は互いに目を合わせる。そして、頬を緩めながら首を縦に振る。
「「「選んでくれてありがとう~~!!! 」
遥希達3人は満面の笑みで接近し、颯に勢いよく抱き付いた。




