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両親に溺愛されて育った妹の顛末  作者: 葉柚
番外編

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厳しく育てられたお姉様の顛末8




 夜が明ければいつも通りの日々が訪れるかと思ったが、そんなことはなかった。

 屋敷の中はどこかギスギスとした雰囲気が漂っていた。

 エレノアお姉さまの顔色も悪い。

 

「エレノア。すべてはお前にかかっている。必ず皇太子妃になるんだ。いいな。」


 お父さまは自分の犯した罪を反省することもなく、すべてエレノアお姉さまに押し付ける。

 お母さまはなにも言わなかった。ただ、お母さまはエレノアお姉さまに視線を合わせることはなかった。

 私はなんて言っていいかわからず、ただその場に立ち尽くすだけ。こんな修羅場が来るなんて思ってもいなかった。

 私はただただいつも通りでいたいだけなのに。

 

「……わかりました。必ず皇太子妃になります。」


「そうか。よく言った。」


「頼むわね、エレノア。」


「……。」


 責任はすべてエレノアお姉さまが背負うことになってしまった。

 でも、私はそれに対してなにも言えなかった。

 言ってしまえば、今度は私が責任を負うことになる。

 私が今から王太子妃になるなんて、無理だ。エレノアお姉さまの頑張りをみていて思う。エレノアお姉さまが皇太子妃になれなにのなら、私なんてこれっぽっちも皇太子妃になる希望がない。

 だから、エレノアお姉さまに託すしかない。

 私は、エレノアお姉さまに甘えてしまったのだ。お父さまとお母さまと同じように。

 

 思えばこの時、私がもっと勇気を出していたら最悪の事態にはならなかったのではないかと思う。エレノアお姉さまを止めなかったことで、エレノアお姉さまにすべての責任を押し付けてしまったことで、状況はどんどんと悪化していくことをまだこの時の私は知らなかった。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆





「エレノア!よくやったなっ!!」


「エレノア。流石は私の娘だわ。きっと、皇太子妃に選ばれると思っておりましたよ。」


「……エレノアお姉さま。」


 侯爵家の行く末を託されたエレノアお姉さまはその重圧に押しつぶされそうになりながらも、他の皇太子妃候補を押しのけ、なんとか皇太子妃に選ばれることができた。

 私はホッと胸をなでおろした。

 これで、家族がバラバラにならなくてすむ。今までと同じ生活ができる、と。

 

「……これもすべてお父さまとお母さまの教育の賜物ですわ。」


 エレノアお姉さまは真っ青な顔に笑みをうかべてそう言った。

 エレノアお姉さまは皇太子妃になるために、今まで以上に寝る間を惜しんで皇太子妃教育に明け暮れた。いつ寝ているのだろうかと思うほどだ。

 ただ、そのかいがあって、エレノアお姉さまは皇太子妃として正式に決定がくだされたのだ。

 エレノアお姉さまだったらきっと皇太子妃になってくださると、そう私は確信していた。

 

「ふんっ。エレノアには莫大な教育費がかかっているからな。これから少しずつ返していくように。」


「それは……っ。」


「皇太子妃になれば、公費があてがわれるだろう。その金を私に返してくれればいいだけだ。簡単なことだろう。」


 お父さまは皇太子妃となったエレノアお姉さまからもお金をむしり取ろうとしているらしい。

 エレノアお姉さまの顔から徐々に血の気が引いていく。今にも倒れそうな顔色で、エレノアお姉さまはお父さまをあり得ないものを見たとばかりに見つめた。

 私もお父さまには思うところがある。けれど、こんな傲慢なお父さまに立てついたらどうなるかわからない。ここは、お父さまとは適度な距離をとり、お父さまの機嫌を損なわない方が得策だろう。

 

「エレノア。我が侯爵家にはあなたのお父様が作った返しきれないほどの借金があります。どうか、お願いよ。エレノア。私たちを助けると思って、あなたに与えられる公費から少しだけでいいの。侯爵家の借金返済に充ててくれないかしら。」


 お母さまはすまなそうにエレノアお姉さまに懇願する。確かに領地経営だけでは返せないほど借金は膨れ上がっている。主にお父さまの所為で。

 でも、本来であればそれを返すのはお父さまだろう。それをエレノアお姉さまに押し付けるなんて……。とは、思いつつも私はそれを声に出せないでいた。

 お母さまの発言に対して反論してしまえば、私に矢面が立つかもしれない。私だって、侯爵家のお金を高価なドレスやアクセサリーにつぎ込んでしまっている。それらの金額を返済しろと言われても、私にはお金を返す当てがない。

 借金の返済については、お父さまとお母さま、それにエレノアお姉さまに頼るしかないのだ。

 

「……どうか、お願いします。エレノアお姉さま。」


 そう、言うしかなかった。

 エレノアお姉さまに懇願するしか、私には選択肢がなかったのだ。

 

「……わかりました。」


 三人からお願いされてしまえば、エレノアお姉さまは断ることなんてできなかった。

 エレノアお姉さまは今まで侯爵家のためにと働いてきたのだ。今さら、自分のことだけを考えて行動するなんてことできはしないだろう。

 だって、そういう風にエレノアお姉さまはお父さまとお母さまから育てられたのだから。

 ごめんなさい。エレノアお姉さま。

 エレノアお姉さまにばかり負担を押し付けてしまって。

 でも、私が生き残るためにはそうするしかないの。

 

 エレノアお姉さまは皇太子妃になり、私たちの約束通りに毎月の公費の中から、侯爵家の莫大な借金返済のための費用を工面することになったのだ。

 のちにこれが大問題へと発展するなどこの時の愚かな私たちには想像もつかなかった。




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