厳しく育てられたお姉様の顛末7
それからも私は、エレノアお姉さまとお会いするために、ジュドー様のことを利用した。ことあるごとに、ジュドー様を家に招いた。また、無理やりジュドー様のいらっしゃる王宮に出向いたこともあった。
私はジュドー様と介してエレノアお姉さまと会話をし、ジュドー様は私を介してエレノアお姉さまと交流を深めていった。
エレノアお姉さまは少しずつジュドー様と一緒にいるときに笑みを見せるようになった。それはとても穏やかな笑みだった。
そんなエレノアお姉さまの笑みをみたくて、私はジュドー様にお会いする頻度を増やしていった。けれど、それがお父さまとお母さまの気に障ったようだ。
エレノアお姉さまは屋敷に軟禁されるようになった。そうして、今までジュドー様と私とお茶会をする時間を埋めるかのようにエレノアお姉さまには複数の家庭教師がつき、寝る間を惜しんで皇太子妃になる勉強をし始めてしまった。
「お父さま、お母さま。私、ジュドー様とお茶会をしたいわ。いいでしょう?」
「オフィーリア。すまないね。流石に、オフィーリアとジュドー様の二人だけのお茶会は許すことができない。いくらオフィーリアの頼みでもね。」
「じゃあ、今までどおりエレノアお姉さまもお茶会に誘うわ。」
「オフィーリア。エレノアは今までサボってしまった分、皇太子妃の教育を詰め込まなきゃいけないんだよ。わかってくれるね。」
お父様はそう言って私を宥める。
「どうして、エレノアお姉さまが皇太子妃にならなければならないの?」
私は、最近芽生えた疑問をお父さまとお母さまにぶつけてみた。
なぜ、エレノアお姉さまが皇太子妃になる必要があるのだと。
私はエレノアお姉さまと遊びたいのだ。どうして、私の要求よりもエレノアお姉さまが皇太子妃になることが重要なのか、と。
「我が侯爵家から皇太子妃が出ることは一族の埃なのだよ。」
「そうよ。エレノアが皇太子妃になってくれれば、我が侯爵家は安泰なの。オフィーリアも何不自由なく暮らして行けるのよ。」
「いやよ。私、エレノアお姉さまと遊びたいわ。」
「……エレノアが皇太子にならなければ、我が侯爵家は取り壊されるんだ。そうしたら、私もオフィーリアも自由な暮らしができなくなってしまう。困るだろう?」
「旦那様っ!それはっ!?」
侯爵家が取り壊される……?
お父さまはいったい何を言っているのだろうか。
お父さまの口から飛び出した言葉に、お母さまが慌てふためく。
つまり、今のお父さまの発言は真実なのだ。
「侯爵家が取り壊されるってどういうことですの?」
私は震える声で、お父さまに問いかけた。
侯爵家が取り壊されたら、今までの贅沢な暮らしはどうなるというの?
私は平民にならなければならないのかしら。
平民って……?
平民には確か使用人がいないのよね。
料理も洗濯も掃除も自分たちでやらなければならない。お金だって平民の持っているお金は我が侯爵家からしたら微々たるものだわ。
ドレスも、アクセサリーも話題のお菓子ももう購入することができなくなるというの……?
「……王宮の金に手をつけてしまってな。免職と我が侯爵家の解体を求められている。だが、エレノアが皇太子妃になれば別だ。エレノアが皇太子妃になった暁には、私の罪が……我が侯爵家への罰が取り消されることになっている。だから、なんとしてでもエレノアには皇太子妃になってもらわなければ困るのだ。」
お父さまはそう言って明後日の方向を見つめた。
お父さまの隣に座っているお母さまの顔色も暗い。
「……それは、お父さまの所為ではなくって?」
「……ああ、まあそうだが。オフィーリアに買い与えたアクセサリーやドレスの費用を捻出するためにも使った。」
「旦那様っ!!それはオフィーリアには言わない約束ですわっ!!
お父さまの言葉にお母さまが声を荒げる。
「……私の、せい?」
「いいえ。いいえ、違うわ。そうではないの。あなたのお父様がすべて悪いのよ。あなたのお父様が、ギャンブルに我が家の資金をすべてつぎ込んでしまうから……。だから、オフィーリアのドレスやアクセサリーを買うために、あなたのお父様は王宮の資金に手をつけるしかなかったのよ。オフィーリアが悪いんじゃないの。すべては、あなたのお父様が悪いのよ。」
「……ふんっ。」
お母さまは侮蔑するように見ながら、そう言った。
「娘のせいにするだなんて、なんてひどい人かしら。」
「……ふんっ。今まで散々いい思いをしてきだろう。私だけの所為にするではないっ!」
お母さまの視線に今までそっぽを向いていたお父さまは、お母さまを睨みつけた。今まで、幸せだと思っていた家族が少しずつ歪んでいくのを感じた。
「まあっ!もとはと言えばあなたがっ!!」
「ふんっ!」
お父さまもお母さまもそのまま互いを罵り合う。私が目の前にいるというのに、もう私のことなど目に入っていないようだ。
屋敷の中で騒いでいれば、当然エレノアお姉さまの耳にも入るもので。騒ぎをかけつけてやってきたエレノアお姉さまが、口元に両手を当てながらお父さまとお母さまを見つめていた。
それから、エレノアお姉さまは私の震える手をギュッと握った。それはまるで私を安心させようとしているようにも思えた。
「大丈夫よ。オフィーリア。私は、皇太子妃になるから。だから、オフィーリアは今までどおりの生活を遅れるわ。安心してちょうだい。」
エレノアお姉さまは顔を真っ青にしながらも、そう言って私を宥めてくれた。
ポロリと私の目から涙が溢れだす。
こんなことは望んでいなかったと。
お父さまやお母さまにドレスやアクセサリーを買うことを咎められていたら、きっと私だって買おうとしなかった。強請ったりしなかった。
お父さまやお母さまが何も言わなかったから、だから私は高価なドレスやアクセサリーを買っただけ。そう、私は悪くない。
悪いのはお金がないのに高価なドレスやアクセサリーを買うことを許したお父さまとお母さま。ううん、もっともいけないのは、お父さまがギャンブルにお金をつぎ込んだこと。それが、なければ平和な毎日が続くはずだったのに。
そう思うと、無性にお父さまに対して腹が立ってきた。
「なによっ!すべてお父様のせいじゃないっ!!お母さまや私に責任をなすりつけないでっ!!」
私はそう言い捨てると自室に引きこもった。
悪いのは私じゃない。
……私じゃないんだから。
そんな私のことをエレノアお姉さまは痛ましいものを見るように見つめていた。




