厳しく育てられたお姉様の顛末6
それから私は、エレノアお姉さまに近づくことをお母さまとお父さまから禁止された。
理由は簡単なことだ。
エレノアお姉さまが私に嫌がらせをするからだ。
私はエレノアお姉さまに嫌がらせをした覚えはまったくないのだけれども、お父さまもお母さまもイヤリングの件以来、そういう認識になってしまった。
否定したくても、今度は私がお父さまとお母さまに叱られるのではないかと思うと、怖くて言い出せずにいた。
「オフィーリア。可愛い可愛い私の娘。あなたには何にも煩わされることなく自由に生きてほしいの。」
お母さまの言葉はまるで鎖のように私をがんじがらめにする。
まるで呪いの言葉のようだ。
「ええ。わかっていますわ。」
「わかっているのならいいわ。私はオフィーリアのやることには全力で応援するつもりよ。お父さまもね。」
「ありがとうございます。そうだわ。お母さま、私、お茶会を開きたいんですの。」
私はお母さまにそう提案する。
今までお茶会に呼ばれることはあっても、我が家で開催したことがないことに気が付いたのだ。
「まあ、お茶会。いいわね。誰を呼びましょうか。」
「ジュドー様を呼んでちょうだい。私、ジュドー様とお茶会がしたいわ。」
にっこり笑って無理難題をお母さまに要求する。
ジュドー様というのはこの国の皇太子の名前だ。つまり、エレノアお姉さまの婚約者。将来の私のお義兄さまになる人だ。
お母さまは私の口から出た名前に目を大きく見開いて、両手で口元を押さえてしまった。
「オフィーリア……あなたなんてことを……。」
「構わないでしょう?お母さま。私は自由に生きるの。だから、ジュドー様を私のお茶会に誘いたいのよ。構わないでしょう?」
そう言って、私は目に少しだけ涙をためて、お母さまを見つめる。
こうするとお母さまは私の言うことをなんでもよく聞いてくれるのだ。
「……はぁ。わかったわ。可愛い可愛い私の娘、オフィーリア。お父さまからジュドー殿下にお伝えするようにお願いしてみるわ。」
「まあ、ありがとうございます。お母さま。大好きですわ。」
ほぅら。お母さまは私の我が儘をこんなにも簡単に受け入れてくれる。
「ふふ。オフィーリアはとても可愛いわね。流石私の娘だわ。」
そう言って、お母さまは愛おしそうに私の髪を優しく梳いてくれた。
☆☆☆☆☆
私の無謀とも言える提案から数日後、お父さまとお母さまのお陰で、私はジュドー様とのお茶会を開催することになった。ただ、ジュドー様はエレノアお姉さまの婚約者ということもあって、お茶会にはエレノアお姉さまも同席することになっている。
これは嬉しい誤算だ。
いいえ。すべては私の計画通りだ。
エレノアお姉さまとお話をするために、私はジュドー様を利用したのだ。
我が家の私が主催するお茶会にジュドー様を呼べば、世間体からしてエレノアお姉さまが参加するのは目に見えている。お母さまがそうなさるはずだ。
だって、お母さまは私ではなく、エレノアお姉さまを皇太子妃にしたいのだから。
「本日はお招きいただきありがとう。小さなレディ。」
ジュドー様はそう言って私に真っ白なアネモネの花束を差し出してきた。
「まあ、綺麗だわ。ありがとうございます。ジュドー様。」
私はそう言って花束を受け取るとにっこりとほほ笑んだ。
可愛らしいアネモネの花は私にぴったりのように思えた。ただ、私の隣でジュドー様をお迎えしていたエレノアお姉さまの顔はどこか浮かない表情をしていた。
「ああ、もちろんエレノア嬢にも用意してあるよ。君にはこれを。」
ジュドー殿下はそう言ってエレノアお姉さまに白いユリの花束を渡した。
エレノアお姉さまと、私。花の種類は違うけれど、同じ白い色の花を選んでくださったことにとても好感を覚えた。
「まあ、私にまで。ありがとうございます。ジュドー殿下。」
エレノアお姉さまはにっこりと作ったような笑みを浮かべてジュドー殿下から花束を受け取り、傍に控えている侍女にその花束を渡した。侍女はエレノアお姉さまから花束を受け取るとそっと席をはずす。
「今日は私の主催するお茶会へようこそおいでくださいました。仲良く交流を深めましょう。」
私は、そう挨拶をして二人に席につくように促した。
本日のお茶会の参加者は、私とエレノアお姉さまとジュドー様の3人だ。私としてはジュドー様をお茶会に招いたという事実をいろんな方に知ってほしくて、複数の令嬢に招待状を出したのだけれども、誰一人として参加してくださる令嬢はいなかった。
ジュドー様とのお茶会なんて恐れ多いというのが断り文句だった。
ジュドー様には婚約者候補が何人かいる。そのうちの最有力候補が私のお姉さまだ。身内から皇太子妃がでるかもしれないと思うととても鼻が高い。
お父さまとお母さまも同じ気持ちなのだろう。でも、彼らはすでに皇太子妃になるのはエレノアお姉さまだって盲目的に信じている。だから、お父さまもお母さまもエレノアお姉さまにとても厳しく当たる。皇太子妃として相応しくあるように、と。
「オフィーリア嬢は、とてもすてきなアクセサリーをいくつも持っているようだね。」
ジュドー様が私のつけているアクセサリーを褒めてくださった。私は嬉しくてにっこりと微笑む。
「ええ。お父さまが買ってくださいましたの。でも、お父さまったら私の趣味にないアクセサリーばかり買ってくださるから、とても困っておりますの。そういうものは、不要なので侍女に下げ渡しておりますわ。」
「おや、高価なアクセサリーばかりのようだが、侍女に下げ渡してしまうのかい?」
「ええ。だって、持っていても仕方ありませんもの。」
「そうか。君はとても思いっきりが良い性格のようだね。」
「恐れ入ります。ジュドー様。」
「エレノア嬢も、たまにはオフィーリア嬢のように着飾ってみてはどうかな?エレノア嬢はそのままでも充分美しいが、着飾ったエレノア嬢も見てみたいと思うのだが。」
ジュドー様はそう言ってエレノアお姉さまに話題を振った。
このお茶会は私が主催しているお茶会だというのに。
「私は、皇太子妃として相応しくあれと常々教育されております。」
エレノアお姉さまは感情を押し殺したような声でジュドー様に応えた。
いつものエレノアお姉さまと違って、どこまでも余所余所しい態度だ。指先まで意識がいっているようで、微かなずれも許さない。
まさに皇太子妃を演じようとしているとでも言うようだ。
ただ、その表情はとても皇太子妃として希望に満ちた表情ではなく、明らかに作り笑顔だけど。
「そうか。慎ましいことは好ましいことだ。日々精進するといい。」
「はい。ありがとうございます。ジュドー様。」
エレノアお姉さまはそう言って深々と頭を下げた。きっと、この礼の仕方もマナーの講師に叩き込まれているのだろうなと思うほど、綺麗に整った礼だった。
お茶会は始終ジュドー様と私が場を盛り上げ、エレノアお姉さまは軽く微笑んで頷くだけだった。エレノアお姉さまが積極的に話に加わることはなかった。それもこれも、マナーを気にしてのことだろう。
「今日は非常に楽しかった。誘ってくれたオフィーリア嬢には感謝をするよ。」
「まあ。そんな、感謝だなんて。私の方こそ、とても楽しい時間をすごさせていただきましたわ。是非、またいらしてくださいませ。」
「そうだね。機会があれば。」
「まあ、ジュドー様ったら機会は作るものであって待つものではありませんわ。」
「はははっ。オフィーリア嬢は実に面白いな。」
「まあ。ほほほっ。」
楽しいお茶会はあっという間に時間が過ぎ去り、お開きの時間になってしまう。
私は、エレノアお姉さまと一緒にジュドー様を見送るために、玄関に向かう。
エレノアお姉さまはどこか沈んだ表情でジュドー様のことを見つめていた。まるで、思いつめたような表情とでもいうのだろうか。
「エレノアお姉さま?」
「いいえ。なんでもないわ。今日は誘ってくれてありがとう。オフィーリア。楽しかったわ。」
ジュドー様を二人で見送ると、エレノアお姉さまはそう言ってすぐに自室に戻ってしまった。




