厳しく育てられたお姉様の顛末2
「ねぇ、エレノアお姉さま。このフィナンシェとても美味しいわね。この紅茶もとっても美味しいわ。」
「ええ。そうね。オフィーリアがお茶に誘ってくれなかったら、私はこのフィナンシェを味わうこともできなかったわ。ありがとう、オフィーリア。」
エレノアお姉さまはそう言って寂し気に微笑んだ。その微笑みからはとてもフィナンシェを美味しいと言っているように思えなくて、私はちょっとムッとした。
この私とお茶をしているというのに、エレノアお姉さまはちっとも楽しそうではないのだ。
私は皆に愛されている誰よりも可愛いオフィーリアなのよ。
私とお茶をするのを皆楽しみにしているのに。
「……エレノアお姉さま。エレノアお姉さまはお勉強がお好きですの?私よりも?」
思わずそんな言葉が口から飛び出した。
私のことを第一に考えてくれないエレノアお姉さまなんて、いらない。
「……オフィーリア。私は、皇太子妃になるようにとお父様とお母様から言われています。皇太子妃になるためには沢山勉強をしなくてはなりません。オフィーリアとどちらが大事かという問題ではないのよ。わかってちょうだい。」
エレノアお姉さまは聞き分けのない子供を諭すように私の頭を撫でながらそう言った。
エレノアお姉さまの私の頭を撫でる手は、慈愛に満ちていた。
「……むぅ。でも、エレノアお姉さまは勉強ばっかりでちっとも私を構ってくださいません。お父様とお母様は忙しいと言いながらも、私のことを第一に考えていてくださるというのに。」
「そうね。私が未熟なばかりにオフィーリアには寂しい思いをさせてしまっているわね。」
「私、寂しくなんてないわ。だって、お父様もお母様も私のことを一番大事にしてくださるし、私、お友達だって多いのよ。明日は、マリアンヌのところでお茶会ですもの。明後日は、ユフィリアのところでお茶会で、その次の日はロシアンヌと観劇に行く予定ですの。私の予定はひと月先まで埋まっていますのよ。寂しいわけないわ。」
「そう。オフィーリアは予定がいっぱいあるのね。」
「エレノアお姉さまの予定なんて毎日毎日家庭教師との勉強ばかりなのでしょうね。」
「……ええ、そうね。皇太子妃になるためには遊んではいられないもの。」
「私は遊んでなんかいないわ。他の貴族令嬢と交流を深めているの。そう、遊んでなんかいないわ。」
「そうね。オフィーリアはオフィーリアで、頑張っているものね。とっても素敵よ、オフィーリア。」
「ふふっ。私は誰からも愛されるオフィーリアですもの。」
「そうね。私の自慢の妹だわ。」
エレノアお姉さまはとても優しい。いつも控えめだけと優しく微笑んでいる。それが、どこか余裕を感じさせる。
私とは違って、とても洗練されている空気を漂わせているエレノアお姉さまのことを尊敬するとともに、私のために割いてくれる時間が極端に少ないことに憤りを感じる。
「そう思うのでしたらもっと私との時間をとってくださいませ。」
「そうね……。皇太子妃になれば、きっとオフィーリアとの時間をもっととることができるわ。」
「……絶対ですわよ。絶対に私との時間を今よりも多くとってくださいませ。約束ですわよ。エレノアお姉さま。」
「ええ、約束よ。きっとオフィーリアのために時間を捻出するわ。」
エレノアお姉さまは私にそう約束をしてくださった。エレノアお姉さまが皇太子妃になれば、私との時間をもっと沢山作ってくださると。
エレノアお姉さまと私は同じ屋敷に住んでいるというのに、エレノアお姉さまが勉強ばかりで私との時間がまったく取れない。だから、私は家庭教師も勉強も大っ嫌いだ。
私から、エレノアお姉さまを奪っていくんだもの。
「絶対、皇太子妃になってくださいませ。エレノアお姉さま。」
「……わかったわ。」
私は欲していた。
エレノアお姉さまからの無償の愛情を。
だって、本当は私、知っていたのだもの。
私を本当に愛してくれているのはエレノアお姉さまだけだってことを。
この約束は最悪な形で実現されることを私はまだこの時は何も知らなかった。
ただただ、エレノアお姉さまが皇太子妃になれば、私はもっともっとエレノアお姉さまと一緒にいられると思っていたのだ。




