28 【最終話】
可愛い可愛いオフィーリア。
あなたは私の妹ではなく、天使だったのね。
オールフォーワン侯爵家は取りつぶされることはなかった。
ジュドー殿下の取り計らいで私はオールフォーワン侯爵家を継いだ。
領地経営はすべて丸投げされており、お父様の介入はなかったのが幸いして経営を立て直すことはなかった。ただ、もっと領地を豊かにする方法があるのではないかと目下検討中だ。
問題だったのはお父様が残した借金の方だ。
お父様が捕まったとはいえ、お父様はオールフォーワン侯爵家として借金をしていたのだ。
オールフォーワン侯爵家を継ぐことはつまりお父様が拵えた借金も継がなければならないということ。
ただ、これについては状況が状況だけに無期限、無利子で返していくことになった。
ちなみにお父様は死ぬまで鉱山で働くことになるそうだ。
鉱山で働いて得た僅かばかりの収入は借金の返済に充てられる。つまり、お父様が自由にできるお金はない。これでもうお父様はギャンブルに走って身を滅ぼすことはないだろう。
私は皇太子妃候補として今まで教育を受けたことを領地経営と、新しい事業を起こすために生かすことにした。
もちろん、お父様が捕まったことにより、私が皇太子妃に選ばれることはなくなった。
これは何よりも喜ばしいことである。
あれだけの重圧に私は耐えられないだろう。
そして、忙しく数年が経ち。
お父様が作った借金はすべて返済し終えた。
新しくおこした事業も軌道にのり、収益も少しずつ上がっている。
趣味の観劇ももちろん続けているし、オフィーリアとの仲も良好だ。
すべては順調すぎるくらいだ。
「ねえ、エレノアお姉さまは幸せですか?」
そんなある日、唐突にオフィーリアが訪ねてきた。
私はオフィーリアの問いかけに「ええ、もちろん」と二つ返事で頷いた。
皇太子妃教育に明け暮れていた日が懐かしく感じるほど、今は幸せだ。
自由を謳歌していると言えるだろう。
そりゃあ、事業の方も忙しいけれど、それでも趣味も充実しているし生きている実感がある。
あの頃みたいに、生きている実感もなくただ与えられた教育を嫌々受けているわけではない。
「よかったぁ。」
オフィーリアは私の答えにそう言ってにっこり笑った。
そして、その姿が金色の粒に変わっていく。
「オフィーリアっ!?」
慌ててオフィーリアに手を伸ばす。
けれど、私はオフィーリアに触れることもできなかった。
「エレノアお姉さまを今度こそ、幸せにしたかったの。」
そう言って優しい笑みとともにオフィーリアは消えていった。
まるで、オフィーリアがいたことは幻だったかのように。
それから私はオフィーリアのことを探した。
けれど、オフィーリアのことを知っている人は誰もいなかった。
お父様もお母様もオフィーリアのことを覚えてはいなかった。
長年侯爵家に努めている使用人も。
不思議に思いながらも、オフィーリアを探す日々が始まる。
そして、オフィーリアを探して、ある修道院にたどり着く。
優しいシスターが管理運営する修道院は光に満ち溢れていた。
修道院にあった天使像を見て私は一筋の涙を流す。
「……ここにいたのね。オフィーリア。」
天使像はオフィーリアに瓜二つだった。
☆おわり☆
最後までお付き合いくださりありがとうございました。
いただいたたくさんのコメントはこの後ゆっくり返信させていただきます。
また次の作品でもお会いできることを祈って。




