24 Side:アネモネ・オールフォーワン(オールフォーワン侯爵夫人)
Side:アネモネ・オールフォーワン(オールフォーワン侯爵夫人)
「どうして、こんなことになってしまったの……。」
私、アネモネ・オールフォーワンは自室をうろうろと歩きながら自問自答を繰り返す。
私はただ、娘たちをオールフォーワン侯爵家の令嬢として一人前に育てたかっただけなのよ。それなのに、どうして、エレノアもオフィーリアも侯爵家から出て行ってしまうの。
私の何がいけなかったというの。
同じ場所をくるくると歩きながらエレノアとオフィーリアに思いを馳せる。
エレノアは私の初めての子供だった。
子供ができたときはとても嬉しかったし、これで私も侯爵家の一員として認めてもらえると思った。
男の子であれば、侯爵家の継ぐ後継者として喜ばれるし、女の子であったとしても、もうすぐ御生まれになる王子殿下の婚約者として育て上げれば良い。
これで、ギャンブルばかりで家にほとんどいなかった夫の気持ちも少しは私に向くだろうと淡い期待を抱いたものだ。
夫は侯爵家を継いでからすぐに侯爵家の潤沢な資金をギャンブルにつぎ込み始めた。
前侯爵様がいらっしゃったときは金銭管理はしっかりとされていたようだが、前侯爵様がお亡くなりになり夫が侯爵家を継ぐとすぐに、その資金を元手に他の貴族たちとギャンブルに使い始めた。
元々夫はギャンブルが好きだったようで、次第にギャンブルにのめり込むようになり、王宮での文官の職も辞してギャンブルだけに明け暮れるようになった。
子供が出来れば、少しは将来のことを考えギャンブルを辞めて家のことも顧みてくれるのではないかと思ったのだ。
王妃様が無事に男の子を出産され、すくすくと育つ頃、私も女の子を出産した。
私は、この子をかならず王子妃とすることを心に決めた。
王妃様が産んだ第一子はいずれ皇太子となるだろう。
それなら、私の産んだ子はいずれ皇太子妃となるはずだ。
私は、産まれた子に皇太子妃として相応しいようにとエレノアが言葉をしゃべり始めたころから優秀な家庭教師をつけることにした。
エレノアのことは皇太子妃になる子として厳しく育てなければならない。少しのことで泣き言を言うような子に決してしてはならない。
勉強だって他の誰よりも優秀でなければ皇太子妃は務まらないだろう。
何人もの家庭教師をエレノアにはつけた。
優秀な皇太子妃になるように。
でも、エレノアの辛そうな顔を見るたびに私は不安にかられた。
このままでいいのだろうかと。
けれど、エレノアには皇太子妃になってもらうしかないのだ。
夫が侯爵として自覚するためには、エレノアに頑張ってもらうしかない。夫も、娘が皇太子妃になれば、自分が侯爵としてちゃんとにしなければならないということをわかってくれるだろう。
でも、私は寂しかった。
本当は娘を可愛がりたかったから。
可愛いお洋服を着せて、可愛いぬいぐるみを上げて、可愛らしい部屋に住んで欲しかった。そこで、にこにこと天使のような笑顔を浮かべてほしかった。たまには私を困らせるような可愛い我が儘を言ったりして。
だから私は、夫をなんとか説得して、オフィーリアを作ったのだ。
エレノアにできなかった分、オフィーリアのことはエレノアの分まで可愛がろうと。
エレノアには、皇太子妃として恥ずかしくない教育を。
オフィーリアには無償の愛を。
それぞれ分け与えてきたはずなのに、気づけばエレノアもオフィーリアもどちらも私の手には残らなかった。
残ったのはギャンブル好きの夫と、夫が作った侯爵家の莫大な借金だけ。
……私はいったい何を間違えたの。




