22
侍女にもらった動きやすい簡易ドレスを着て、王都を散策する。
隣にはもちろんオフィーリアがぴったりとくっついている。まるで、オフィーリアは私の護衛をしているようにみえる。
「オフィーリア。私についてこなくても大丈夫よ?」
「いいえ。いいえ。エレノアお姉さまは外出されたことがほとんどないはずよ。エレノアお姉さまが悪党に騙されないか不安だから私も一緒についていくわ。」
やはり、オフィーリアは私の護衛を務める気満々のようだ。
私の腕に掴まりあたりを警戒するようにキョロキョロと伺っている。
「オフィーリアったら。可愛いわね。」
「エレノアお姉さまは私が守るもの。」
「じゃあ、可愛いオフィーリアのことは私が守らなくてはね。」
「いいのよ。エレノアお姉さまはご自分のことだけを守っていてちょうだい。自分の身くらい自分で守るわ。」
「まあ。オフィーリアがそう言うのなら、私も私の身くらいは自分で守らなければならないわね。」
「えっ!エレノアお姉さまっ!私はエレノアお姉さまをお守りしたいのですわ。そんなことおっしゃらないでくださいませ。」
オフィーリアは必至になって私に抱き着いてくる。
そんなオフィーリアが可愛らしくて私はクスクスと笑ってしまった。
本当にオフィーリアはとても可愛い。
「おや、オフィーリアに、エレノアかな?いつもと違う服装だから一瞬わからなかったけど……。」
「あっ!ユリアお姉さまっ!!」
「お久しぶりです。ユリアさん。」
オフィーリアとじゃれあっていると、劇団員のユリアさんに出会った。
ユリアさんは舞台上でも輝いていたが、こうして王都の街中で会っても、他の人よりも輝いて見えた。
「珍しいね。二人が歩いているなんて思わなかったよ。」
「ええ、いろいろとありまして。」
「私たち、家を出てきたんですよ。と、いうかエレノアお姉さまがお父さまに家を追い出されたから、私も家を出てきたっていうのが正しいかな。」
ユリアさんの言葉にオフィーリアは家を出てきたとはっきりという。
私は苦笑するしかなかった。
「おや。こんなに真面目そうなエレノアが家を追い出されるなんてウソだろう?オフィーリアならいざ知らず。」
「まあ。私だったらってどういうことかしら?」
「オフィーリアだったら浪費しすぎて家から追い出されそうだ。」
そう言ってユリアさんは大声で笑った。
「まあ、失礼ね!私だって時と場合は選んでいるわ。……それに、私が浪費しすぎたってお父さまもお母さまも叱ってなんてくれないしね。」
オフィーリアは萎みそうな声でそう付け足した。
確かにお父様とお母様は私には厳しすぎるほど厳しくて、オフィーリアには甘すぎるほど甘かった。
まさか、オフィーリアが浪費してたのも、お父様とお母様に叱ってほしかったからなのだろうか?
ふと、そんな思いが頭をよぎった。
「ちぐはぐな姉妹だね。」
「そうよ。お父さまもお母さまもエレノアお姉さまには厳しすぎて、私には甘すぎるの。エレノアお姉さまはね、外出用のドレスを一着しか持っていないのよ?なのに私には何着も外出用のドレスを買ってくれるの。それで、エレノアお姉さまがせめて外出用のドレスをもう一着買いたいと言ったら、お父さまもお母さまも激怒してエレノアお姉さまを家から追い出したのよ。おかしいわよね?」
「それはっ……。なんと言ったらいいのか。君たちはそんなにそっくりな見た目をしているのに産みの親が違うのかい?」
オフィーリアの暴露にユリアさんは一瞬息を飲んだ。
「私も不思議に思ってこっそり調べてみたことがあります。」
「エレノアお姉さま、いつの間に?」
実は、私とオフィーリアの扱いの違いを疑問に思って、皇太子妃教育の合間を縫ってこっそりと調べてみたことがある。
お父様とお母様の毛髪、そして私とオフィーリアの毛髪を使って親子関係があるかを検査してみたのだ。
結果は、オフィーリアも私もお父様とお母様の実の子供だった。
「結果は私もオフィーリアもお父様とお母様の子供で間違いありませんでしたわ。」
「……両極端な両親に育てられたんだね。君たちは……。」
「そうね。ちょっと極端すぎるわよね。足して2で割ったらちょうどよかったのに、ね。」
「そうね。」
思わずため息が出てしまう。
あのような両親に可愛がられて育ったオフィーリアが我が儘で手の付けられない子に育たなくてよかったと心の底から安心するとともに、あそこまで盲目的に可愛がられていたのにも関わらず、オフィーリアが真っ当に成長したのが不思議でならなかった。
可愛がられるだけ可愛がられて、何をしても叱られなければ傲慢な子に育つと思われるのに。
「エレノアお姉さま。」
それなのに、オフィーリアは人のことを考えられるとても良い子に育ったと思う。
普通だったら、両親に同調して両親と一緒に私のことを虐げてもおかしくはないのに。
「エレノアお姉さま。」
私を呼ぶオフィーリアの声はとても可愛らしい。
私のことを慕ってくれているのがわかるような声だ。
私は感謝をする。
あのような両親に育てられても真っすぐ育ってくれたオフィーリアに。




