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「……私に足りないものはあるのは存じております。それでも、私は……。」
まさか、ジュドー殿下にも皇太子妃として相応しくないところがあるなんてはっきりと言われるとは思ってもみなかった。
私はこのままでは皇太子妃に選ばれないのかもしれない。
今まですべてを犠牲にして皇太子妃教育にすべてを捧げてきた私を否定されたような気がした。
「エレノア嬢はとても真面目で努力家で賢い。皇太子妃として必要な知識もある。それは私も認めているよ。けれど、皇太子妃には積極性も求められる。それに、皇太子妃として表舞台に立てば口さがないことを言う者も現れるだろう。エレノア嬢の足を引っ張ろうとする輩も現れるかもしれない。エレノア嬢は、それを耐えることができるかい?」
ジュドー殿下は優し気なまなざしで、諭すように優しく語りかけてくる。
皇太子妃には精神的な強さも大事だと頭の中ではわかっている。積極性も大事だと頭の中ではわかっている。
けれど、それを実行できるか否か。
今まで私は皇太子妃教育を受けてきた。
他のことはすべて後回しにして皇太子妃教育だけを受けてきた。
「エレノア嬢。あなたはとても優秀だ。きっとエレノア嬢が皇太子妃として隣に立ってくださるのなら、私としては心強い。ただ、エレノア嬢の心が私は心配なのだ。」
「そうよ。エレノアお姉さま。エレノアお姉さま、どうか皇太子妃になることを諦めてくださいませんか?私にその座を譲ってくださいませ。」
ジュドー様の優しい言葉のあとに、オフィーリアが請うように語りかけてくる。
私はそっとオフィーリアを伺う。
オフィーリアの目は期待に満ちて輝いており、私が否と答えるとは思ってはいないようだ。
「……精進いたしますわ。」
「……エレノア嬢。」
「そんなっ……エレノアお姉さまっ!」
今まで培ってきたすべてを投げうつことなんてできない。
確かに皇太子妃は私には荷が重いのかもしれない。
皇太子妃になった私に幸せが約束されているとは決して思えない。重責に押しつぶされてしまうかもしれない。
けれど、私はお父様とお母様から皇太子妃になることを望まれてきた。
私だって、すべてを皇太子妃教育に捧げてきた。
ここで、皇太子妃になれなかったなら、今までの私がすべて否定されてしまう。
皇太子妃になることが例えいばらの道だとしても、私はそこを歩いていかなければならないのだ。
ジュドー殿下とオフィーリアが痛ましい目で私を見つめてくる。私は二人の視線から逃れるように目を伏せて耳をふさいだ。
「エレノアお姉さまには幸せになってほしいのに……。」
だから、そのあとにオフィーリアが小さくつぶやいた言葉は私の耳には届くことはなかった。




