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皇太子と年が近く地位の高い侯爵家の長女として産まれた私は、産まれたその時から皇太子妃候補としての辛い教育が始まりました。
親の愛情をたっぷりと受けて育つ子供時代を私は、教師に囲まれて起きている間はマナーや算術・語学などを勉強させられました。おかげで親と接することは、ほとんどありませんでした。
そんなある日、私の前に天使が舞い降りたのです。
「エレノア、こちらにいしゃっらい。」
「はい。おかあしゃま。」
3歳の私は舌足らずな言葉で返事をし、疲れた表情をしながらもどこか嬉しそうに笑うお母さまに呼ばれてお母さまの元に近寄りました。
お母さまと顔を合わせるのは随分と久しぶりです。
久しぶりに甘えさせてくれるのかと期待して私はベッドに横になっているお母さまに近寄りました。
「あなたの妹のオフィーリアです。」
「あ……、くしゃくしゃ、可愛い。」
お母さまの腕の中には雪のように白い肌と血のように真っ赤な唇が印象的な赤ちゃんがいました。
産まれたばかりで顔は幾分かくしゃくしゃしておりました。
赤ちゃんを実際に見たのはこれが初めてでしたが、とても可愛いと思い、その小さな手の平に私は指を近づけた。
きゅっ。と、オフィーリアが私の指先を握りしめました。
それは条件反射なのかもしれません。
「ゆび……にぎってくれた。」
条件反射だとしても、私にはとても嬉しかったのです。
だって、たとえ指先であったとしても、皇太子妃候補として育てられている私にぎゅっとしてくれる人は誰一人いませんでした。
傍にいる人はどこか一線を引いて私を接していたから。
だから、オフィーリアが私の指を握ってくれた時、とてもとても嬉しかったのです。
「ふふ。オフィーリアはとっても可愛いでしょう。エレノア、あなたの妹として可愛がってあげてちょうだい。」
「はい。おかあしゃま、エレノアはオフィーリャアをかわいがるとちかいます。」
優しく笑うお母さまも、オフィーリアの温かい体温も心地よくて私は生きている中で一番の幸せを嚙み締めました。
これが私と私の天使、オフィーリアの出会いでした。
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