天は自ら助くる者を助く -2
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「ねぇ~~、そろそろお祭り行こうよーーー!!」
その空気を断ち切るように、レーネが声を上げる。
「いいねぇ!行こう行こう! せっかくなんだし、みんなでお祭り楽しもうよ!」
マルも大きく頷き、場の空気は一気に軽くなった。
結局、報酬に関しては何も変わらなかったが、その中でnullだけはほっこりとした表情を浮かべていた。
「早くいこー!」
そう言ってレーネが走り出すと、バルトとエトは慌ててその背を追い、マルは楽しげに笑いながらnullの腕をつかんだ。
「ナルもいこう!」
ぐいぐいと引っ張られ、そのまま広場の中へと進んでいく。
広場に一歩踏み出した瞬間、音が跳ね上がったように感じた。
遠くで鳴っていたはずの太鼓や笛の賑やかな音が、いつの間にか耳元で重なり合い、胸の奥に小さな振動となって響いてくる。笑い声や話し声が幾重にも重なり、祭りの熱気をさらに盛り立てていた。
人の流れは途切れることなく、どこを見回しても人で溢れている。肩が触れ、足並みが揃い、そのまま前へと押し出される。立ち止まる暇もなく、nullたちは祭りの中へと溶け込んでいった。
「ナルー!!ナルナルナルー!!」
はしゃぐレーネが、遠くの方から呼んでいる。
マルはその声の方へとnullを引っ張るように連れて行き、レーネはキラキラとした目で一つの屋台を指さした。
「これ!! やって!!」
屋台には、白い円の中に赤い丸が幾つも描かれた的が十個と、銃が用意されている。現実世界でもよく見るその的当てに、nullは首を傾げた。
「射的?」
「うん! nullなら、絶対、アレ取れるでしょう!?」
大きなぬいぐるみを指さすレーネ。まるで確信しているかのようなキラキラと輝く瞳に見つめられ、思わず苦笑する。
周囲も「なんだなんだ」と興味深げにこちらへ注目し、やがて納得したように観戦側へと回っていった。
(えーー、一人はちょっとなぁ……)
そう考え、誰を巻き込もうかと視線を巡らせて――最初に目が合ったのは、ノア=キョウだった。彼もまた腕を組み、数歩離れた場所からこちらを眺めている。
nullはニヤリと笑みを作ると、その腕をつかんだ。
「勝負しようよ」
「……勝てる気がしないが……」
彼はnullがNE:NEであることを知っているからこそ、露骨に躊躇する様子を見せる。それでも、周囲から期待の眼差しを向けられてしまえば、さすがに無碍に断ることもできないだろう。半ば強引に、参加させる形となった。
店主に話を聞くと、どうやら対戦形式での的当ても可能らしい。上下に並べられた的の得点で勝負を行う仕組みのようだ。それならば、他の面々ともスコア勝負ができる。そう考えたnullは、さらに口角を上げた。
「みんなで勝負しない? 掛け金一万G。勝者が総取りでどう?」
「まぁ……一万Gくらいなら?」
そうして、全員が参加する運びとなった射的ゲーム。
先ほどまで賞金の話をしていたせいか、どうにも全員の金銭感覚が少しだけ狂ってしまっている。そのことに気が付いているのは、恐らくノア=キョウとエト、それからシカクくらいなものだろう。だが、誰もがあえて口をつぐむものだから、他の者たちが気付くことはなかった。
最初の挑戦者はnullとノア=キョウである。
二人は射的用の銃を受け取り、それぞれ構えてみせる。どこかしっくりこないのは、慣れている型とは違うからか。nullは小さく首を傾げながらも、的との距離をじっと見定め、店主の合図と同時に引き金を引いた。
――パンッ!
――パンッ!
――パンッ!
五つの的に当てると、倒れた的が自動で戻り、再利用できる仕組みになっているらしい。さらに五回、引き金を引き終えた瞬間、周囲から歓声が上がった。
少し遅れてノア=キョウも撃ち終えると、店内にスコア表示が浮かび上がる。
ー スコア ー
null:1,000/1,000
ノア=キョウ: 980/1,000
――――――
「惜しい! 最初の一発だけ、ちょっとズレたねー!」
マルが、まるで自分のことのようにノア=キョウの点数を見て悔しがる。他のみんなも次々と賞賛の言葉を投げかけるが、nullには当然だという顔をしている。
(解せん……)
しかし、レーネだけはキラキラとした瞳をnullに向けたまま、じっと見つめ続けていた。
彼女の中では、この結果は当然。それでも、やはり嬉しくて仕方がないらしい。どうにかその期待には応えられたようだと察し、nullは小さく胸を撫で下ろす。
「じゃあ次は、シカクとバルトでどう?」
nullがそう言うと、二人は頷いて前へと出てくる。
バルトは銃を手に取ると、どこか様になっていた。手慣れているというより、ガタイの良さも相まって、そう見えるのかもしれない。一方のシカクは、好青年という印象そのままの立ち姿で、どんな結果を出すのか少し楽しみだった。
結果として、二人は首を傾げるような点数を叩き出していた。どうやら最初の二人があまりにも簡単そうに高得点を取るものだから、そういうものだと思ってしまったらしい。だが、現実は違っていた。
ー スコア ー
シカク:420/1,000
バルト:460/1,000
――――――
「これ、難しいぞ……」
バルトの小さな呟きに、自然と視線が集まる。その先にいるのは、言うまでもなくnullだった。
「やっぱ、ナルってすごいんだ……。キョウさんも簡単に撃ってたけど、ポテンシャルの違いなのかな……?」
エトが困惑気味にそう分析し、ペンタゴンは同意するように何度も何度も頷いていた。そんな二人を見て、今度はレーネが勢いよく手を上げる。
「はーい! じゃあ次は私やるーー! 誰か一緒にやろう!」
「じゃあ、私がやろうかな」
そう言って手を上げたのはマルだった。
とてもいい組み合わせじゃないか、と周囲は温かな目で見守っていた――が。始まってすぐ、その表情は引きつることになる。
ー スコア ー
レーネ:320/1,000
マル:880/1,000
――――――
「マル……うま!!」
「へへへ~、そうでしょう! 実は得意なんだよねー、こういうの!」
にこりと笑うマルは、ピースをしながらご機嫌そうにスコアを眺めた。
彼女としてはかなりの好成績だ。ただし、上の二人がずば抜けすぎていたせいで、射的が上手い人という枠に収まってしまっただけである。
その後も他の面々が挑戦するが、誰も彼もがそこそこの点数止まりだった。結局、nullのスコアと同点を叩き出す者は現れず、見事に一人勝ちとなる。
最高得点の商品を店から受け取ると、景品アイテムは自分のボックスへ。そして副賞として渡された大きなぬいぐるみは、そのままレーネへと差し出した。
「わぁっ!?いいの!?」
「もちろん♪」
ホクホク顔でぬいぐるみを抱きしめるレーネを横目に、nullは順番にみんなから掛け金を受け取っていく。
そして、満足そうに一度手を叩くと、高らかに宣言した。
「よーーし! このお金でいっぱい美味しいもの食べよー! 今日は私のおごりだー!」
「「「 やったー! 流石ナル!! 」」」
レーネは誰よりも早く手を上げ、たこ焼き、焼きそば、クレープ、りんご飴と屋台を回っては買いあさる。たくさん買った食べ物を一度収納してから、欲しい分だけアイテムボックスから取り出すと、その場でゆっくりと食べ始めた。
マルも同じように、いくつかの食べ物を選んでは嬉しそうに頬張っている。
ノア=キョウは多少遠慮がちだったが、場の雰囲気に飲まれ、nullから渡された食べ物を両手に持って困ったように笑った。
nullはというと、遠慮しがちな人たちの分までいくつもの屋台を回り、半ば押し付けるように食べ物を配りながら、最後に自分の好きなものを買っては、気ままに食べ歩いていた。
次回:天は自ら助くる者を助く -3
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☆おまけ
ー 射的最終スコア ー
異常値 :null(1,000)/ノア=キョウ(980)
意外な高得点:マル(880)
上手い一般枠:山各(620)
平均帯 :ペンタゴン(500)
下位常識枠 :バルト(460)/シカク・エト(420)
愛され枠 :レーネ(320)




