棚から牡丹餅 -3
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その後もゲームの話を続けながら、二人で森の奥へと歩を進めていく。
やがて、視界の先に、ふと違和感が現れた。木々の隙間、その奥にわずかに開けた空間。石畳で舗装された道と、大きく、長い階段が姿を見せる。
遠目から見ただけでも、何かありそうな雰囲気が漂っていた。
「……なんだろ、あそこ」
nullは足を止め、目を細めてその先を見据えた。
今まで歩いてきた道は、確かに自然豊かな森だった。人の手がほとんど入っていない、獣道に近い道。そこに突如として現れた、明らかに人工的な石階段。不釣り合いな存在に、興味がむくむくと湧いてくる。
ノア=キョウもまた、無言のまま立ち止まり、考え込むようにその先を見ていた。
近づけば分かる。階段はかなり長く、上は見通せない程だ。周囲にあるのは、枝分かれした獣道がいくつかあるだけで、正式な道らしいものは存在しない。
つまり、知っていなければ辿り着くことすら難しそうな場所。それを、偶然にも見つけてしまったらしい。
nullは、自分の行動を思い返す。
何かのフラグを踏んだ覚えもなければ、特別な選択をした記憶もない。となると。
「……」
ゆっくりと、隣に立つ男を見上げる。可能性があるとすれば、きっと彼だ。
nullは、何も言わずに、じっとノア=キョウの顔を見つめた。
「心当たりは?」
「ないことは、ない」
その曖昧な返事に、nullは小さく首を傾げた。すると、ふっと笑った彼が、すっと指を伸ばす。その指先は、nullを指していた。
「……私?」
さらに首を傾げた瞬間、その指はゆっくりと下がり、腰のあたりで止まる。つられて視線を落とせば、そこにあるのは、杖。金色の宝石が、淡く、かすかに光を帯びているように見えた。
「……うーん。光ってる……?」
鞘ごと杖を手に取り、じっと見つめる。すると、確かにそれは、ごくごく弱く点滅している。
「光ってるな」
呆れたようにそう言う彼は、すでに階段へと足をかけていた。
「ちょ、ちょっと待って!」
慌てて後を追いながら、nullは頭の中で思考を巡らせる。
「キョウのWUってさ、どんな詳細だった?」
「んー……そうだな」
階段を登りながら、彼は少し考える素振りを見せてから答える。
「“女神の力を宿した武器で、特別な試練を経て、その真の力が解放される”……だったか」
「……あー、一緒だ。」
そう呟いてから、ふと気付く。
「……ん? ってことは……」
ちらりと彼の剣を盗み見る。右腰に収められた剣、その柄の部分に埋め込まれた赤い宝石。それもまた、こちらの杖と同じように淡く光を帯びていた。
じとっとした視線を向けると、ノア=キョウは気にも留めない様子で肩をすくめる。
「ふーーーん、なるほどねぇ」
「気が付かない方が悪い。あれだけ木々に囲まれた、薄暗い場所だったんだ。 むしろ、よく今まで気付かなかったな」
つまり彼は結構前から、これに気付いていたということだ。そして、その先に何があるのかも、ある程度は見当がついているのかもしれない。いや、見当がついているのは、nullも同じだった。
ヘリアデスから聞いた女神の話、幻月について。
――幻月とは、女神がこの地へ干渉する際に起こる現象。
――その際、世界には「恵み」がもたらされると信じられている。
そして、つい先ほどまで行われていたイベント、《幻月の英雄》。本当に、これらが無関係だと言い切れるだろうか。答えはノーだろう。
女神オルフィス。幻月。特設サーバー《オルフィス》。
石畳の階段。女神武器の共鳴。
この先にあるものは――おそらく。
「……気が付かなかったよ」
小さくそう返してから、視線を階段の先へと向ける。
「それより。この先に、何があると思う?」
ノア=キョウは少し考えるように視線を細め、やがて答えた。
「……神殿か、祭壇。 もしくは、教会って線もありそうだな」
「私は、御社とかだと思うんだけどなー」
そう言うと、彼は小さく笑った。
「そんな和か洋か、みたいな話か……。賭けるか?」
その一言と、楽しげに細められた瞳を見て、nullは即座に首を横へ振る。
「いい。なんか、嫌な予感がするから」
「……そうか?」
余裕のある顔でクスクスと笑う彼は、恐らく何かしらの情報を既に掴んでいるのだろう。対してこちらは、ヘリアデスから貰った断片的な情報のみだ。その差は歴然で、同じ場所に立っていても、見えている景色が違う。戦えるはずもないと、そう直感が告げていた。
それ以上言葉を交わすことなく、二人は無言のまま階段を上り続けた。
やがて、長く続いていた石段の切れ目が見えてくる。最後の一段を上がる、その直前。視界の奥に、建物の全容が姿を現した。
「……ほんと、直感って大事だよね」
思わず零れた独り言。
鳥居と御社が並ぶ光景を、勝手に思い描いていたが、そこにあったのは、白亜の石で築かれた神殿だった。
天へと伸びるような柱。高く切り取られた窓には、色とりどりのステンドグラスがはめ込まれ、夜空に瞬く星の光を受けて、淡く、静かに輝いている。
夜であるにも関わらず、この特設サーバー《オルフィス》の空は比較的明るい。だからこそ、闇に沈むことなく、神殿はその姿をはっきりと主張していた。
静謐で、どこか神聖。そして、確かに何かがあると感じる場所だ。思わず、ため息が零れそうになる。
「このゲーム自体、洋風造りの建物が多いからな。 下でも、“祭り”ではなくフェスティバルと書かれてたくらいだ」
言われてみれば、確かにそうだ。少し浮かれすぎていたかもしれない、と自覚しながら、nullは苦笑する。
「なるほどね……」
そして、視線を神殿の入口へと向け、指を差した。
「……で、あそこ、かな?」
「だろうな」
二人の視線が、同時に入口へと定まる。色ガラスの嵌められた美しい扉は、それだけでも芸術品のようだった。
(……中に、何があるんだろ。)
小さな期待と共に、nullは足を踏み入れば、内部は静まり返っていた。中央奥には、石膏で作られた美しい女神像が鎮座している。像の前には、同じ素材で作られた台が備え付けられていた。
像の背後にはステンドグラス。星の光がそこを通して揺らめき、神殿の内部を淡く照らしている。華美ではない。けれど、確かに神聖さを感じさせる空間だった。
「「……」」
思わず、言葉を失う。
素朴な内装が像を引き立てているのか。それとも、ステンドグラスから降り注ぐ星々のきらめきがそう錯覚させるのか。理由は分からない。ただ、目を奪われた。
nullが動き出せたのは、ノア=キョウが一歩、前へ進んだからだった。そうでなければ、しばらく立ち尽くしていたに違いない。
彼はゆっくりと女神像へ近づき、やがて像の前にある台へと視線を落とす。
「……?」
その様子につられ、nullもまた歩みを進める。女神像の前で一度、胸の前で手を合わせ祈るように指を組んでから、同じように台座を覗き込んだ。
一見すると、それはとても素朴な台。女神への捧げものを置くためのもの。そう思っても、何ら不思議ではない。しかし、それもまた、一瞬のことだった。
――汝らの 力をそこへ。
どこから聞こえてきたのか。その美しい声は、nullを包み込むかのような心地よさを与え、すぐに消えていった。幻聴かと思うほど、あまりにも一瞬の出来事だった。
「……力、か」
そう呟いた彼が腰から剣を抜く。その行動に迷いはなかった。彼はそれを台座の上へ何のためらいもなく置くと、場所を譲るように一歩下がる彼に倣い、今度はnullが杖を台座へと下ろした。
――何も起きない。
小さく首をひねりながら、nullも彼と同じ位置まで下がった、その瞬間だった。女神像が静かに輝きだす。
――汝らに 祝福を。
――汝らへ 未来を託そう。
――悪しき敵倒す時 再び相まみえよう。
光が女神像へと降り注ぎ、やがてゆっくりと消えていく。それは再び、ただの像へと戻っていた。
今のは、いったい何だったのか。よくあるゲームの演出にしては、あまりにも凝っている。そして、最後の言葉。『悪しき敵』それが何を指すのか、今は分からない。分からないことだらけの、ほんのひと時だった。けれど、女神が口にした「祝福」に、武器は確かに応えていた。
あの瞬間、宝石は一層輝きを増し、光が止んだ今もなお、以前とは違う透明度を帯びている。
nullはゆっくりと自身の武器を手に取れば、それに呼応するようにステータスウィンドウが展開された。
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【女神武器シリーズ:光輝の杖 (レイピア)】UW
概要:
「女神武器シリーズ:光輝の杖 (レイピア)」は、杖とレイピア、二つの性質を内包する女神武器。
女神オルフィスの祝福と強化を受けており、装備者の魔力と魂に呼応し、その力を最大限に引き出す。
杖の先にある金色の宝石は高い透度を誇り、まるで星のきらめきを閉じ込めたかのように静かに輝く。
鞘の内に秘められたレイピアの刀身は、光を結晶化したかのような輝きを放ち、邪気や歪みすら切り裂く力を宿す。
装備中は魔法関連ステータスが恒常的に強化され、特に光属性の魔法および攻撃に対して高い適性を示す。
使用者の戦闘スタイルに応じて、杖とレイピアを自在に切り替えて運用することが可能。
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「……進化、した感じかな?」
nullの呟きに、ノア=キョウが小さく頷いた。
「あぁ、そうみたいだな」
やはり、彼の武器もUWだったようだ。しかも、恐らく同じ系統か。だとすれば、彼の剣もただの剣ではない。そして、その武器もまた進化したとなれば……脅威と言っていい。今はまだいい。だが、もし敵として相対することになったなら。どう立ち回るかが、明確な課題になるだろう。
nullは、ステンドグラスの光を受け、ただ微笑んでいる女神像を見上げて、小さく笑った。
(――やっぱ、面白い。)
「帰るぞ。」
そう言った彼は、すでに女神像に背を向け、歩き出している。もう少し、この静かで美しい神殿に浸っていたい気持ちもあったが、nullは満足げに頷いた。
「うん♪」
次回:天は自ら助くる者を助く -1
☆武器進化後メモ☆
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【女神武器シリーズ:光輝の杖 (レイピア)】UW
概要:
「女神武器シリーズ:光輝の杖 (レイピア)」は、杖とレイピア、二つの性質を内包する女神武器。
女神オルフィス の祝福と強化を受けており、装備者の魔力と魂に呼応し、その力を最大限に引き出す。
杖の先にある金色の宝石は高い透度を誇り、まるで星のきらめきを閉じ込めたかのように静かに輝く。
鞘の内に秘められたレイピアの刀身は、光を結晶化したかのような輝きを放ち、邪気や歪みすら切り裂く力を宿す。
装備中は魔法関連ステータスが恒常的に強化され、特に光属性の魔法および攻撃に対して高い適性を示す。
使用者の戦闘スタイルに応じて、杖とレイピアを自在に切り替えて運用することが可能。
主な特徴:
杖: 魔法全ステータス強化、回復やバフに特化。
レイピア:高速での近接攻撃、光属性の追加ダメージ。
・光属性強化: 光属性の魔法と攻撃力がアップ。
・「聖なる裁き」: 光属性ダメージを与える必殺技レイピア。
・「光輝の盾」: 味方を守るバリアを展開。
・ 女神の力を宿した武器で、特別な試練を経てその真の力が解放される。
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☆武器進化後スキルメモ☆
①《光属性強化・改》
MP:0|CT:0s| パッシブ
光属性攻撃を大幅に強化し、連続使用するほどクリティカル率と貫通力が上昇する。
②《聖なる裁き・改》
MP:100|CT:180s 近接
敵に光の印を刻む強力な裁きの一撃を放ち、条件次第で周囲へ連鎖する。
③《光輝の盾・循環》
MP:100|CT:200s| 防御
光の障壁でダメージを吸収し、完全に防ぎ切ることで自身の攻撃力を高める。
④《星光崩落》
MP:100|CT:100s|範囲(光属性)
天空から星光を落とし、広範囲を殲滅しつつ敵に光の印を付与する。




