棚から牡丹餅 -1
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ステージ上では、レギュールが先ほどの戦いを楽しげに語っていた。
語られるのは、どれもプレイヤーたちの勇姿ばかりであり、聞く者たちの関心を強く引きつけている。大きな歓声と拍手が何度も巻き起こり、その熱気に乗せるように、レギュールは話題を進めていく。
『本イベントにご参加くださいました皆様への褒賞について、ご説明させていただきます。
本イベントでは、参加者の皆様へ賞金および各種称号、さらに《幻月フェイスペイント》のアイテムが贈られます。
また、順位に応じまして、特別アイテムボックスや装備品などもご用意しておりますので、どうぞお楽しみくださいませ。』
新しいアイテム名が告げられた瞬間、会場がざわめく。自然と視線と意識がステージへと集まり、レギュールの言葉一つ一つに注目が注がれていった。
レーネやマルは楽しげに跳ね回り、バルトやシカクは腕を組んだまま、それを微笑ましそうに眺めている。その様子を横目に見たnullもまた、小さく口角を上げ、ステージ上のレギュールへと視線を戻した。
『幻月フェイスペイント参加者皆様へ送られます。
こちらは、瞳や髪をイベント特殊色に変えることが出来ると共に、本イベント限定のフェイスペイントを施すことが出来ます。
内容に関しましては、アイテムを使用してからのお楽しみとなりますので、ご期待くださいませ。
また、本アイテムは一度使用しても消えることはありませんが、使用した瞬間から譲渡が不可能となりますため、ご注意ください。』
「フェイスペイントだってー!」
「おー、面白そうだな。」
マルが楽しげに声を上げると、山各と顔を見合わせて笑い合う。その様子を眺めながら、nullは小さく息を吐いた。
この世界のアバターは、新規作成時に設定した姿から、ほとんど変更ができない。だからこそ、こうした後発的な見た目の変化が可能になる要素は、純粋なお楽しみとして高い人気が出そうではある――だが。
あまりにも頻繁にアバターの外見が変わることは、世界観的にどうなのか。プレイスタイルとしても、良くない使われ方をされる可能性が容易に想像できる。だからこそ、nullは小さく唸った。
「脅威だな……」
声の主である隣の男も、同じ結論に辿り着いていたらしい。nullがちらりと視線を上げると、ばちりと目が合った。
「髪の色とかが変わるだけで、印象って結構変わるんだよね。 今はまだいいけど……戦闘中に切り替えられたら、流石に混乱しそう」
困ったように肩を竦めると、ノア=キョウも静かに頷いた。
「あぁ、識別が狂う。味方か敵か、瞬時に判断できなくなる可能性もあるな」
そんな二人に向かって、大きなため息を吐いたのはレーネだった。
「はぁ……二人ともさぁ、発想が斜め上すぎるよ……。 いつもそんなこと考えて戦ってるの?」
そこへ、エトが苦笑混じりに割って入る。
「でもさ、レーネ。 もし“色違い装備を作れるアイテム”が出たら、僕たちだって使用感とか、他との差別化とか、良し悪しを考えるでしょ? たぶん、この二人も同じ感覚なんだと思うよ」
肩を叩かれたレーネは、はっとしたように目を見開いた。
「……あっ、そっか。そういうことか!! ごめんね、ナル。確かに、それなら色々考えちゃうよね……!」
「……そうなるのかぁ……」
nullは苦笑しながら呟き、レーネには穏やかな笑顔を返した。内心では、少しだけ複雑な気持ちが渦を巻いていたが、それにはそっと蓋をする。
――立場が違えば、見え方も違う。
自分たちが当然のように考えていることは、他人から見れば“理解しがたい発想”なのかもしれない。そう思うと、ほんの少しだけ、胸の奥が沈んだ。
そんな空気の中でも、ステージ上では変わらず、レギュールの説明が軽快に続いていた。
『特別アイテムボックスにつきましては、上位100位以内のすべての皆様へ贈られます。
本アイテムは使用することで、ランダムなアイテムへと変化いたします。
スキルブックなどの“当たり”アイテムから、武器・防具といった装備品までが排出対象となっております。
また、こちらは譲渡可能なアイテムであり、使用したプレイヤーに適した内容へと変化する、非常に貴重なアイテムです。
ただし――必ずしも高レアリティのアイテムが排出されるとは限りませんので、その点はご了承ください。』
ステージ上の説明に、会場のあちこちでざわめきが広がる。
「へぇ……特別アイテムボックスねぇ。 つまり、ガチャ要素ってことか?」
シカクが肩をすくめると、マルが苦笑交じりに頷いた。
「スキルガチャとか……当たらないもんねぇ」
その言葉に、nullはふと、あの店のおばあちゃんの顔を思い出す。
あのときは、確かに運が良かった。けれど、こういったランダム要素は、果たしてどの程度の確率なのだろうか。
小さく首を傾げたその時、隣の男が淡々と口を開いた。
「あれは、LUK値が関係しているという噂がある。それなりに振っていれば、良いものが出やすいそうだ」
その一言で、周囲の空気が一気に重くなる。全員が、なんとも言えない表情を浮かべていた。どうやら誰一人として、LUK値にはほとんど振っていないらしい。
「……鍛冶職ってさ。 LUK値、いらないの? 成功率とかに関係しない?」
nullが何気なく投げかけた疑問に、エトは小さく頷いた。
「理論上は、多少は関係するって言われてるけどね……」
しかしその直後、バルトとレーネが、示し合わせたようにさっと視線を逸らす。
(――あ、これ、触っちゃいけないやつだ。)
それを見たエトの表情が恐ろしいものに変わったような気がしたが、nullは何も見なかったことにした。
これ以上首を突っ込んでも、ろくなことにならない。それは、経験則というやつである。
「戦闘職だと、LUK値に上げてる余裕ないよな……」
ぽつりと零すシカクに、nullはきょとんと首を傾げてみせる。
「そう? 私、毎回振ってるけど。」
一瞬、周囲が驚きに息をのみ、nullへと視線が集中する。
「「「……え!? まじ!?」」」
ほぼ同時に上がった声に、nullは思わず瞬きをした。シカクやマル、山各は信じられないとばかりに目を見開き、揃ってnullを凝視している。
「え……キョウさんも??」
恐る恐るシカクがノア=キョウへと視線を向けると、彼は小さく首を横に振った。
「いや。流石に毎回は振っていないな。 そこまで必要だとも感じていない。ボーナス時に一だけ振る程度だ。」
彼の言う「ボーナス時」とは、レベルが五上昇した際に付与されるボーナスポイントのことだ。通常のレベルアップではSPが三付与されるが、五の倍数レベルでは、SPが五に増える。
その余剰分を、彼はLUK値に回しているらしい。つまり基本は、剣士として必須となるステータスを最優先している、ごく真っ当な振り分けだ。
(……まぁ、普通はそうなるよね。)
nullは内心で頷いた。自分自身が、かなり偏った――というか、特殊な振り方をしている自覚はある。
だからこそ、彼の回答には素直に納得できたのだった。
「そっか、確かに……。俺も今度から、そうしようかな。」
山各が腕を組み、考え込むように呟くと、ノア=キョウも静かに頷いた。
「効率だけを考えれば、その方がいいだろうな。 あとは、どこを限界値として設定して、据え置くかだ。そこは完全に、好みだろうな。」
そう言いながら、彼はちらりとnullへ視線を向ける。その表情は、どこか楽しげで、試すようでもあった。
「……運に、上限なんてないし。」
唇を尖らせてそう言うnullに、周囲は一様に苦笑じみた笑顔を向ける。呆れているというよりは、「また始まった」とでも言いたげな、慣れた反応だった。その微妙な温度差に、nullは内心むっとする。
(……いつか絶対、ぎゃふんって言わせてやるんだから。)
小さく拳を握り、そう意気込むと、さっさと興味を切り替えるように視線をステージへと戻した。
次回:棚から牡丹餅 -2




