袖振り合うも多生の縁 -3
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『それでは、5位から順にプレイヤー名を発表させていただきます。
総合ランキング――第5位、プレイヤー名:シカク。獲得スコア、180点!』
名前が読み上げられた瞬間、大スクリーンが切り替わり、シカクがモンスターへ突撃し、槍で次々と貫いていくシーンが映し出される。攻撃の軌跡は鋭く、砂煙が上がるたびに歓声が起こった。そしてシカクがnullを守ったあのシーンが流れると、会場は一気に湧き上がる。
「よっし……!」
小さくガッツポーズをするシカクは、そのまま仲間に肩を叩かれる。マルに抱きつかれ、山各に揺さぶられ、揉みくちゃにされながらも笑っていた。
『第4位:燐堂 海。獲得スコア、195点!』
スクリーンに映るのは、刀を手にモンスターの間を縫うように駆け抜ける男。一閃、また一閃と、ためらいのない切断の軌跡が鮮やかに走る。
nullがその技術に感心して映像を見ていると、前方から元気いっぱいの声が響いた。
「やったー!! 4位だ!!」
その男のまわりでは、仲間たちが肩を組みながら飛び跳ねていて、自然と人だかりができていた。
『第3位:エルディス・フェルゼン。獲得スコア、208点!』
映し出されたのは、銀髪の長髪を揺らす、どこか神秘的なエルフの青年。剣に魔力を纏わせる所作は美しく、魔法の光が軌跡となって舞う。どれも無駄のない一撃で、静かに、正確にモンスターを斬り伏せていく。
nullは思わず感嘆の息を漏らした。
(……綺麗。)
その姿は、すでに何人もの女性プレイヤーの心を捉えていたらしい。会場のあちこちから黄色い声が上がっていた。
『そして準優勝者は――プレイヤー名:null。獲得スコア、295点!』
スクリーンいっぱいに、自分の戦闘シーンが映し出される。モンスターから逃げるプレイヤーを巻き込んで撃ち抜いた、あの問題のシーンだ。
(うわぁ……これ……今見ると完全に悪役じゃん……)
nullは耐えきれず視線をそらし、顔を手で覆った。しかし、映像の中でいたずらっぽく謝罪している自分が好評だったようで、客席からは笑い声と歓声、拍手が起きていた。
『そして優勝者は――プレイヤー名:ノア=キョウ!! 獲得スコアは303点!
おめでとうございます! 1位と2位の差はわずか8点でした。
ボスへのラストアタックが決め手となったようですね! 皆さま、大きな拍手をお願いします!』
割れんばかりの拍手と歓声が会場を満たす。スクリーンには、ノア=キョウが巨大な光の大剣を振り下ろす瞬間が映り、観客の興奮は最高潮に達した。
「おめでとう!」
nullが隣の男を見上げると、ノア=キョウはわずかに目を細め、小さく頷いた。
「あぁ、ありがとう。」
「8点差かー。惜しかったなぁ。」
nullは晴れやかにそう言うと、結果よりも楽しさを優先するいつもの笑みを浮かべた。
彼女にとって重要なのは どれだけ楽しめたか であって、順位の上下ではない。今回の目的はあくまで《ミラ&リゲル》――トライアンヴィルの銃の宣伝である。それさえ達成できれば、後はおまけのようなもの。だからこそ、nullはノア=キョウの優勝を心から讃えた。
「ナルがいなければ、討伐も怪しいものがあっただろうが……」
少し考えてから、ぽつりと言うノア=キョウ。その声音には、単なるお世辞ではない、確かな評価が含まれていた。
「そうだねー。 観客に奥の手とか、まだ見せたくないもんねー??」
nullはニヤリと笑いながら、意味深に彼を見上げる。彼が本気を出していないのは、見れば分かる。この場は注目度が高すぎるからだ。すべてをさらけ出せば、イベント後にどれほどのプレイヤーが群がってくるか知れない。
「……お互いにな。」
ノア=キョウも、静かに笑って返す。彼もまた、nullの武器が銃ではないことも、戦いぶりの奥にまだ何か隠していることも、最初から気づいているようだった。
二人の間に流れる沈黙は、ぎこちさではなく、互いに読み合い続ける者同士の静かな共犯めいた空気だった。
「そういう話を聞くと、効くなーー。」
困ったように笑うシカク。どうやら「全力で戦ったうえで二人に負けた」という事実が、じわじわ効いているらしい。
nullの双銃を見たのも初めてだったし、彼女が何かしら途轍もない火力を隠していることも薄々察してはいた。それでも悔しいものは悔しい。
「シカクには仲間がいるじゃーん。 ソロプレイヤーって、何かと大変なんだよー?」
nullが軽く言えば、横でノア=キョウも静かに頷いた。その様子を見てシカクが「まあ……そうか」なんて納得しかけたところで、横から山各が茶々を入れる。
「いやいや、いつでもパーティ攻略してるわけじゃないだろ? シカクもソロで動いてたからナルさんに会えたわけだし?」
「……確かに」
神妙に頷いてしまうシカク。そこへ、レーネが勢いよく首を横に振った。
「シカクくん、無理無理! ウチのナルは普通じゃないもん! 天才プレイヤーだからね! ウチのナルは!!」
「レーネが威張らないで。」
にこにこするレーネの頭へ、エトが容赦なくチョップを落とす。ついでにまた飛びつこうとするレーネの服をつかんで拘束すると、ジタバタ暴れるレーネ。それを見たnullはすっと一歩後ろに下がるとノア=キョウの背中をそっと盾にした。
そんなやり取りを見ていたマルが、ぽつりと提案する。
「ソロ活動が難しいなら、パーティを組んだらいいんじゃない?」
しかし、nullとノア=キョウはきれいに同時に首を横へ振った。
「ソロでどこまでできるか挑戦したいし、 パーティはパーティで大変なことも多いからね。 まだ組む気はないかな。」
「俺も同意だ。 時が来るまでは、一人の方が動きやすい。」
「なーーんだ。二人が組めば最強だと思ったのにな――」
つまらなさそうに肩を落とすレーネ。その言葉に、ノア=キョウは一度だけ目を細めて考え、すぐ隣のnullへと視線を落とした。だが、nullはやはりきっぱりと首を横へ振る。
「キョウとも戦ってみたいもん。 パーティを組んだら戦略が変わっちゃうよ。 手の内が分からない方が戦ってて楽しいもん」
「うへぇ~~、戦闘狂だぁ……。 ナルはそんなこと言ってますけど、ノア=キョウさん。どう思います~?」
レーネが信じられないといった顔でバトンを渡すと、ノア=キョウは迷いなく頷いた。
「確かに一理ある。 共闘も悪くないが……全力で戦える相手がいるというのも重要だからな」
「あーだめだ。似た者同士だ……」
レーネが諦めたように言うと、その場にいた全員がそろって頷く。当の二人だけが、同じ角度で首を傾げ、お互いの顔を見合わせていた。
(???)
何が問題なのか本気で分かっていないらしい。
そんな中、nullはふと視線をずらしあることに気づいた。円卓の向こう側から、複数の熱い視線が刺さっている。
(あー……気づきたくなかった……)
プレイヤーたちは、今もっとも注目を浴びる二人――nullとノア=キョウに話しかけたくて仕方がないらしい。武勇伝を聞きたい者も、会話に入りたい者も多いが、当事者二人は「気づかないふり」を完璧に決め込んでいた。
この輪の中で、もっとも居心地悪そうにしているのは、ペンタゴンだった。
背中を丸め、そわそわと指先をいじりながら、周囲のざわつきをいち早く察して落ち着かない。「なぜ自分が、この二人(1位と2位)と同じテーブルにいるのか」と、その現実にまだ追いつけていなかったが、ふと、一つ思い出す。
「あ……てことは……」
蚊の鳴くような小声に、マルがすぐ反応した。
「どうしたの? ペンタゴン」
その瞬間、輪の中の全員の視線がペンタゴンへと突き刺さる。驚きと緊張で肩をすくめながらも、彼はもごもごと口を動かした。
「え、あ…えっと……その。か、賭け……なんだけど……。 ナ、ナルさんが……ランキング入賞した……し。 お金……」
そこまで言ったところで――レーネが叫んだ。
「あーーーーーっ!!」
突然の大声にペンタゴンはびくりと跳ねあがり、さらに縮こまる。
「そうだよ! え、確か2位なら……ご、ごひゃくおく!?」
「違うから、レーネ。 ちょっと黙ってようね?」
エトが深いため息をつきながらたしなめ、指を折りながら説明を始める。
「イベント開始前までの入賞予想の賞金は……えっと、
100位入賞で1万G、50位入賞で5万G、10位入賞で10万G、
6位入賞で15万G、3位入賞で20万G、
2位入賞で30万G、1位が50万G……だったと思うよ?」
レーネの億発言が完全に間違っていたことが判明し、その場に微妙な沈黙と呆れが流れるが…、ここにいる全員が、ほぼ間違いなくnullへ投票していた。
(…つまり。)
「えーっと、全員で7人。ってことは……210万Gも集まったわけか〜」
nullはぱぁっと微笑み、指を折りながら計算を続ける。
「自分には投票できないから……みんなから均等に10万Gもらうとして――、つまり私の取り分は70万Gかぁ。美味しいなぁ〜♪」
にっこりと笑うnullに、テーブルにいる全員の顔が引きつった。
「「「「「「…………」」」」」」
まるで可愛い笑顔の悪魔でも見たような沈黙が落ちる。
「ちょ、ちょっと待って! なんでそうなるの!?」
「えー? レーネさん、私の活躍あってこそじゃん? 私、自分に投票できないんだよ? かわいそうじゃない?」
レーネが血の気を失いながら叫ぶが、にこりと悪魔のような笑顔を向けられた彼女は、口をぱくぱくと開閉させるだけで言葉が止まった。それを見たバルトが慌てて前に出る。
「ナル、ちょっとまて。これは俺の金だ」
「バルトも酷いなぁ~」
nullは口を尖らせ、懐から双銃を取り出してくる。
「じゃあさ、もう宣伝入らないってこと? この銃もオークションにでも出してぼろ儲けしてもいいんだけど??」
その瞬間、バルトの顔色がレーネ以上に青ざめた。
渾身の一作であるミラとリゲル。それは、ナルの為に作成した一品だ。他の誰かの手に渡る、という選択肢だけは、制作の一番の功労者であるバルトには許せないことだ。
「な、ナル……落ち着いて、分ける!! 分けるから!!」
エトが慌てて割って入り、必死に手を振った。
「ぼ、僕たち三人から、合わせて10万Gでどうかな? ね? それでどう?」
「え~? エト、それじゃ喧嘩になっちゃうでしょ?」
nullは悪戯っぽく目を細め、可愛らしく小首を傾げる。
「一人だけ4万G払うなんてかわいそうだもん。 全員から10万Gの方が計算も楽でしょう?」
「いやいやいや!!」
エトはぶんぶんと首を振り、涙目になりながら必死に言った。
「僕が4万G出すから大丈夫!! それに今後の取引価格も半額にするから!! ね!? 落ち着いて!?」
nullは少し考えたあと、すぐにぱぁっと笑顔を咲かせる。
「半額か~。確かに、永久的に半額価格って言うなら、アリだね! 交渉成立!!」
ウィンクしながらサムズアップしたnullに、エトは真っ青になりながら「永、久……?」と呟くしかなかった。
そんなエトの生気が抜けていく様子をまるで風景の一部のように流し、nullはくるりと振り向いて、今まさに逃げようとコソコソ歩き出していたシカク達へ声をかけた。
「あれぇ~~~?? シカクくーーん。どこ行くのかなぁ?」
nullがにこにこしながら声を伸ばす。
「マルも山各も、ペンタゴンも。始まる前にさ、山分けの話、了承してくれてたよねぇ~?」
名前の呼ばれた四名が凍り付いた。
「ま、まぁ、落ち着いてナルさん。ほら、俺、戦闘中助けに入ったろ? …な?」
シカクが苦笑しつつ、じりじりと後ずさる。nullは「うーん」と唸りつつ数秒考えてから、ぱっと天使の笑顔を浮かべた。
「確かにね~~。じゃあ、君たち4人からも合計で10万Gでいいよ♪ 一人約3万G! そのくらいならいいよねぇ? 1割だよ?」
「待て待て、一人3万Gなら普通、12――」
「「馬鹿! シカク!!!」」
マルと山各が同時にシカクの口を塞ぐ。
「分かった! ナルさん、それでいいよ!! 俺たちから全部で10万Gな!!」
「そうそう! 取引成立ね!!」
nullがご機嫌でサムズアップする中、ペンタゴンは二人の見落とし(値切れていない事)に気付いて、肩を落とすと心の中で静かに泣いた。もうnullに、取り消しなど願えない。
(……二人とも可愛いねぇ~♪ ま、私は得しかしないから、なんでもいいんだけどね。)
一仕事片付けたnullは、満足げに振り返る。そこには、ずっと静観していたノア=キョウが腕を組んで立っていた。
20万Gをほんの数分で稼ぎ出した少女は、しかし、まだ満足していないらしい。じり……とノア=キョウへと歩み寄る。
「で??」
「……で、とは?」
不敵に笑むノア=キョウは、相変わらず余裕の表情を崩さない。
「誰に賭けたの?」
「さて、誰だったか。知り合いもいないからな。適当に投票した。」
「で、誰? ぜっっっっっったい私に入れてるでしょ。」
「なんでそう思うんだ?」
のらりくらりとかわしながらも、口角だけで挑発してくる。nullは細めた目のまま、さらに踏み込んだ。
「私を見てすぐに気が付いたでしょ。つまり――知ってたんじゃないの?」
「投票時、アバターを見ることはできないだろう?」
「でも、絶対私に賭けてる。」
「そうか……? そういうナルは、誰に賭けたんだ?」
「ん?」
返しが速すぎて、一瞬だけnullの喉が詰まった。
「入れてない。」
そう言い切ってから、困った様に頬に手を当て、ため息をつく。
「ほら、自投票できないなら入れる意味ないでしょ? キョウの存在なんて知らなったし?……負けるとも思ってなかったから。」
「そうか。……そういうことにしておいてやろうか?」
一見柔らかい声だが、明らかに暗に口撃を止めろと言っている。nullはぷくりと頬を膨らませた。
(……絶対気づいてるじゃん。)
彼はnullが誰に投票したか察しているようだ。余計な詮索を避けるために、nullはそっと視線を横へそらす。
すると、すぐそばで、ペンタゴンが「はっ」と息を呑み、nullと目が合った。ビクリ、と肩を震わせたペンタゴンは、次の瞬間、見事なくらいバレた動揺を全身で表現し、プルプルと縮こまる。
nullはその反応にゆっくり目を細めると、にっこりと唇を弧にして一本指を立てた。
(黙っててくれるよね?)
そう目が告げると、ペンタゴンは何度も何度も縦に首を振り、心配そうに声をかけるマルへ「なんでもない!」と必死にアピールする。
その様子を眺めながら、nullはご機嫌を取り戻すと、鼻歌交じりにステージ上のスクリーンへ視線を向けるのだった。
次回:棚から牡丹餅 -1
☆キャラクターメモ
燐堂 海
人懐っこく、明るく、よく笑う赤髪の青年。初対面でも距離感が近い、天真爛漫系。
打たれ強く、へこたれない性格の持ち主。好きになった相手にはとことん懐く(わんこ気質)。
刀使いに合わせ和よりの装備で整えている。(整えたい。)
エルディス・フェルゼン
長い銀雪色の髪をもつ、神秘的なエルフの青年。眉目秀麗で、気品があり落ち着いた人物。
感情をあまり表に出さないが、微笑むと周囲が息を呑むほど美しい。特に女性に人気が高い。
白と緑を基調とした装備を身に着けており、ローブで顔まで隠すこともしばしば。
武器は、魔導長剣を使用している。




