袖振り合うも多生の縁 -2
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『ではまずは、《幻月の英雄》イベントへご参加くださいました皆様へ、心より感謝を申し上げます。
イベント参加者の皆様、素晴らしい戦いを披露してくださりありがとうございました。
また、観客席・映像にてご鑑賞いただいた皆さまも、投票へのご協力、誠にありがとうございました。
皆さまのご参加とご声援があってこそ、本イベントはこれほどまでに熱く盛り上がることができました。』
深く一礼したレギュールは、顔を上げると爽やかな笑みを浮かべた。
『本イベントへご参加くださった皆様、そしてこの会場にお越しいただいた皆様へは、後ほど運営よりささやかながら記念アイテムをお送りさせていただきます。』
その言葉に、会場中からぱぁっと笑顔が弾け、拍手と歓声が起こる。
『それでは皆様お待ちかね――本イベントの表彰に移らせていただきます。
まず初めに発表するのは、「人気投票・観客賞」です。
こちらは、観戦席および配信視聴者の皆さまにご協力いただいた投票数による特別賞となります。
もっとも魅せ場が多かった、印象に残ったプレイヤー……その栄誉をここで発表いたしましょう。』
レギュールの声が響くと同時に、セレスタドームの空気がふっと張り詰め、観客の誰もが息を呑み、レギュールの言葉を待つ。
『第三位 プレイヤー名:ユリエル。
……ユリエル選手は、とても可憐な見た目と、あの優雅な舞から一転。
ためらいなく敵の急所を射抜き、多くのモンスターを撃破する姿を見せてくださいました。
入賞おめでとうございます。 皆様、大きな拍手をお願いします。』
パチパチと大きな拍手が波のように広がると、スクリーンには白いローブをなびかせるユリエルの手には短剣のようなものが映されており、観客席からは「あのステップすごかったよな!」「かわいい!」などと感想が飛び交う。
(あの回避からのカウンター……なるほど、人気が出るわけだ。)
nullは腕を組み、大画面をじっと見つめながら小さく頷いた。可憐な見た目に反して身軽で切れ味の鋭い戦い方。そのギャップに、nullも素直に感心していた。
『そして、第二位 プレイヤー名:ノア=キョウ。
……ノア=キョウ選手は、最後のボスモンスター討伐時もそうでしたが、常に冷静に剣を振るい、危なげなくすべてを切り捨てていた姿が印象的でした。
もっとも票が入った瞬間は、やはり、ボスモンスター討伐時のあの一撃のあとでした。
二位入賞、おめでとうございます!』
レギュールが言い終わる前に、会場は爆発したような歓声に包まれる。
「うおおおおっ!!」
「やっぱノア=キョウだろ!!」
「最後の斬撃ヤバかった!!」
拍手と叫びが渦のように渦巻き、セレスタドームは揺れるほどの盛り上がりを見せる。しかし隣の男――ノア=キョウは、軽く眉をひそめ、ほんの少し気まずそうに苦笑すると、nullを見下ろして小さくため息をついた。
「おめでとう。」
nullが素直にそう伝えると、彼はわずかに視線をそらし、どこか居心地悪そうに眉を寄せながらも、小さく頷いた。
「あぁ……、ありがとう。」
しかしその直後、じわりと口元に意地悪そうな笑みが浮かぶ。
「まぁ……、一位が誰かなんて、聞かなくても分かるけどな。」
片眉を上げながら、面白がるようにステージを指すノア=キョウに、nullは「え?」と首を傾げつつも、その視線の先にあるスクリーンへと目を向けた。
『そして、観客賞 第一位は……プレイヤー名:null!!』
瞬間、会場の空気が一段と沸騰する。割れんばかりの歓声と拍手が、波のように押し寄せた。
『彼女もまた素晴らしい戦いを見せてくれました。
最も多くの票が入ったシーンは、PKプレイヤーに囲まれた際、彼らと共にレアモンスターを討伐した場面でした。
止めの一撃のタイミングと、その威力が観客を大いに魅了したようです。
さらにnull選手は、その他にも投票が集中したシーンが多く、会場を非常に盛り上げてくれました。
null選手――観客賞第一位、おめでとうございます!』
「……え”っ……!?」
か細い悲鳴のような声がnullの口から漏れる。
ステージ上のレギュールは優雅に微笑み、会場は祝福の嵐。そのど真ん中で、当の本人は顔をゆがめ、両手でぱっと顔を覆った。できる限り存在感を消そうと、縮こまり震えている。もちろん、そんな努力は1ミリも意味がない。周囲の視線はとっくに彼女を見つけているのだから。
「おめでとう。」
隣のノア=キョウが、楽しげに声をかけ、nullが恐る恐る顔を上げると、案の定揶揄い半分の意地悪な笑みがそこにあった。
「ぜんっぜん、嬉しくない……」
「だろうな?」
二人がそろってため息をつくと、周囲にいたエトやバルト、シカク達が楽しそうに笑う。
「ナル、おめでとー!!」
「いやマジで、すごかったぞ!」
「うちの広告塔が1位取らないわけねぇだろ!」
レーネはもう興奮の極みで、nullに勢いよく抱きついた。今この瞬間ばかりは、誰もその行為を止める者はおらず、みんな微笑まし気にその光景を見守っている。
その間もステージ上では、次々に賞の発表が続いていた。技巧賞、生存賞、ハードラッカー賞、ドラマ賞――。そしてそのいくつかの賞の場面で、またしてもnullとノア=キョウの名前が呼ばれ、そのたびに周囲の仲間たちが大騒ぎして喜んでいた。当の本人たちよりも、周りの方が何倍も盛り上がっている。
そしてついに、会場の照明が、再びわずかに落とされた。いよいよ、総合ランキング発表へと移っていく。
『それでは、総合ランキングの発表へと移らせていただきます。
モンスター討伐スコアによるランキングとなっております。 こちらのランキングは、上位100名が表彰の対象となります。
まずはモニターに、100位から51位までのプレイヤー名を表示します。こちらです。』
会場の空気がぐっと締まる。大スクリーンにずらりと名前が並ぶと、あちこちで小さな歓声と落胆の声が混ざり合った。
「やった、入ってる!」
「うわ…あと少しで50位だったのに……!」
一喜一憂するプレイヤー達をよそに、ステージ上のレギュールが滑らかに続ける。
『51位までに入賞された皆様、おめでとうございます。
対象の皆様には運営より100位入賞特別アイテムを贈らせていただきます。
それでは続きまして、50位から11位の発表です。
50位入賞の皆様には、特別アイテムが二つ贈られます。』
スクリーンが切り替わり、先ほどよりも大きく、はっきりとした文字で50位~11位が並ぶと、その瞬間また会場がひと盛り上がりする。
「おっ……!」
「いた!!」
「あーーー惜しい!!」
その中には、山各やペンタゴンの名前もあり、二人は安堵と悔しさが入り混じった絶妙な表情を浮かべていた。
「あ~~、やっぱ10位は無理かぁ~~」
山各が頭をかくと、横で腕を組んでいたシカクがニヤッと悪い顔をする。
「まぁ、最終ステージにもいなかった山各達には、厳しいだろうな」
「んなこと言って~…お前こそ逃げ回って戦えてなかったんじゃね~の~? 大丈夫か~リーダー??」
珍しく強気に意趣返しをする山各に、シカクは苦笑しながら肩をすくめた。
「その可能性も大いにある」
その正直すぎる返しに周囲は噴き出し、山各は笑いながらシカクの肩をぽんぽん叩いた。マルが「そこは否定しなよ!!」とシカクの腕をつつくと、二人のやり取りに場が柔らかく和む。
「ははは、まぁ~~、大丈夫だろ。シカクとマルなら心配いらねーよ!」
からりと笑う山各に、シカクは軽く頷きを返す。
「あぁ。山各もペンタゴンも、入賞おめでとう。俺らにとっては、かなりいい出だしだな?」
「あぁ!」
二人が素直に喜びを分かち合う姿に、レーネがニヤニヤしながら口を挟む。
「仲いいねぇ~、ほんと。」
からかうような声に、シカクと山各は同時に「は?」という顔をしてきょとんとすれば、その反応がまた可笑しくて、nullたちの視線が自然と集まる。皆の視線にようやく気づいた二人は、気恥ずかしそうに後頭部をかきながら笑った。
そんな温かな空気の中、レギュールの声が再び場内に響く。
『さて、それでは総合10位から6位までの発表を行います。
10位入賞の皆様には、運営より特別アイテムと、限定アイテムが贈られます。』
会場全体が一瞬で静まり返り、期待の熱がぐっと高まる。暗転したモニターがゆっくりと数字を刻み、ついに10位からの表示が始まる。
表示されたプレイヤー名一覧の中に『マル』――の文字を見つけた瞬間、震えるような声が上がった。
「きゃ~~!! 私7位だって!! 入ってるよーー!! やったー!!」
喜びを爆発させるようにぴょんぴょん跳ねながら、マルはシカクへ両手を差し出す。シカクも同じように両手をパチンと合わせて笑った。
「よくやったな、マル!!」
「おめでとう!! すげーじゃん!」
山各が勢いよく彼女の背をバシバシ叩くものだから、「ちょ、痛い! 痛いってば!!」と怒られ、ペンタゴンが慌てて山各を止めるという慌ただしいやりとりが起きていた。nullはその様子を見ながら、少しだけ羨ましそうに吐息をもらす。
「……仲いいねぇ。ほんとに。」
その呟きに、隣でノア=キョウが首を傾げた。
「ナルにも、いるだろう。ああいう仲間が。」
その言葉で、脳裏に浮かんだのは――ZERO:NEのメンバーたち。苦労ばかりだったはずなのに、胸の奥をよぎるのは意外にも懐かしさと温かさだった。
(……楽しかった時も、嬉しかった時もあったな。)
でも同時に、もう戻らない場所でもある。大々的に活動休止を発表してしまった以上――彼らは過去の仲間だ。ならば、この世界で新しく作ればいい。あの頃のような、でもあの頃とは違う、自分の居場所を。
小さく息を吸って、nullは微笑んだ。
「そうだね。でも……それはここじゃない。 私は今、この世界が気に入ってるから。」
見上げてそう言うと、ノア=キョウはわずかに目を見開き「そうか…」と静かに頷く。彼もまたシカク達に視線を向けて、小さく笑った。
「それでも、一人でどこまでやれるか挑戦したい気持ちも……分かるからな。」
「そうなんだよねー。」
同時にふっと笑い合う二人。似た者同士――けれど同族という感じとはまた違う、自然で心地よい距離感。そんな空気がふわりと2人の間に広がった。
次回:袖振り合うも多生の縁 -3




