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Extended Universe   作者: ぽこ
月影に咲く英雄

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92/105

袖振り合うも多生の縁 -1

毎週、月曜日と金曜日に更新中!


目を開けると、そこはセレスタドームの入口前だった。隣にはシカクとノア=キョウの姿もある。どうやら、転送される前にフィールドに残っていたプレイヤーたちは全員、この場所へまとめて送られたようだ。

すでに退場となっていたマルや山各、ペンタゴンの姿が見当たらないところを見るに、彼らはひと足先に転送され、もうドームの中にいるのだろう。


一緒に転送されたプレイヤーたちが一人、また一人とセレスタドーム内へ入っていく。nullたちもその流れに続いて足を踏み入れると、会場内はすでに活気で満ちていた。

知り合い同士で興奮冷めやらぬまま話し込む者たち、ステージ前の巨大スクリーンに映る、先ほどまでの戦闘映像を食い入るように見つめる者たち、そして最後まで残ったnullたちへ、称賛混じりの歓声を送る者たちの声まで上がっていた。


(……うわぁ…最悪…。)


そんな空気の中、ひときわ大きな声で自分の名前を呼ぶ者たちに気づく。避けようのない予感を抱えつつも、nullは観念してそちらへ向かった。


「なーーーるぅぅぅ♪」


待ちきれなかったのか、レーネが勢いよく飛びついてくる。予想をはるかに超える勢いで、nullはバランスを崩して後ろへとよろけるが、すぐにその肩をしっかりと支える腕があった。


「わっ……!」


振り向くと、そこにはノア=キョウの姿。どうやら、自然とnullの後をついてきていたらしい。その背後には、シカクとマルたちの姿も見える。どうやらそちらも無事に仲間と再会できたようだ。シカクは仲間に何か文句を言いながらも、しっかりこちらについて来ている。


(一緒にランキング発表を見るつもりなのかな……?)


「ありがとう……」

「あぁ」


ノア=キョウは短く返事をすると、nullの胸に顔をうずめ、頬まで緩ませているレーネへと視線を落とした。


「レーネ、危ないでしょ」

「えー? ごめんごめん」


まったく悪びれない笑顔に、nullは肩を竦めつつも軽く窘める。すると、レーネが駆けてきた方向からバルトのよく通る声が響いてきた。


「おい! 早く来いよ!」

「――はいはい…」


nullは思い切りため息をついてから、止めていた足を前へと動かす。その後ろを、まるで当然のようにぞろぞろとついてくる一行。

nullが足を止めた小さな丸テーブルの前では、すぐに団欒が始まった。

レーネやバルトは、シカク達やノア=キョウを自然に迎え入れ、彼らもまた遠慮なくくつろぎ始める。お互い挨拶を交わしたかと思えば、もう昔からの仲間のように溶け込んでいた。


(……馴染むの早いなぁ。)


「レーネ、危ないでしょ。ナル、ごめん」


エトが申し訳なさそうに顔を寄せてくるが、nullは手をひらひら振って気にしないと示す。


「いーよ。もう慣れた。」


そして、今なおnullの近くに控えているノア=キョウを手で指し示すと、仲間たちへ紹介した。


「こちら、ノア=キョウ。ランキング一位さん。」

「おい、まだ結果発表されていないだろう」


呆れ声で突っ込むノア=キョウは、小さくため息を落とした。しかし null は全く気にしていない様子で、さらっと紹介を続ける。


「で、こっちはエト。あっちにいるのがバルトとレーネ。この銃を作ってくれた人たちね。」


ホルスターの上からミラとリゲルを撫でてみせると、ノア=キョウは「ほぅ」と低く感嘆の息を漏らした。


「よろしく頼む。」

「はい、こちらこそ。二人の活躍、ここでしっかり見てましたよ。ナルは流石、ですけど……ノア=キョウさんも本当にすごかったですね!」


穏やかな笑みで話すエトは、周囲の騒がしさとは違う落ち着いた雰囲気をまとっていた。その様子に、彼は本当にまともな人なのだと感心させられる。


「ありがとう。」


ノア=キョウが柔らかく頷いたところで、横からシカクが楽しげに声を挟んでくる。


「おーい。俺たちも紹介してくれよ?」


null は「はいはい」と肩をすくめつつ、手でひらりと彼らを示した。


「えっと、手前から、シカク、マル、山各。で、一番奥で縮こまってるのがペンタゴン。」


紹介されるたびに、それぞれが照れたように、あるいは誇らしげに会釈する。ペンタゴンだけは小さく手をあげただけだったが、それがまた場を和ませた。

全員が「よろしく」と言葉を交わすと、テーブルの周囲には自然とゆるやかな空気が生まれた。ついさっきまで死闘を繰り広げていたとは思えないほどの、柔らかくあたたかなひとときだった。


「それにしてもさー、ナル、流石だよ!!」


また飛びついてきそうな勢いでレーネが迫ってくる。nullがそっと一歩下がると、バルトが無言でレーネの後ろ首をつまみ上げた。


「こら。」

「はーなーしーてーっ!!」


ぶら下げられたレーネは手足をバタバタさせるが、バルトの力の前では無駄である。


「ちったぁ落ち着けよ、レーネ。ナルは逃げたりしねぇだろ? ……まったく。」


バルトが呆れ気味に言えば、レーネはぷくりと頬を膨らませる。しかし次の瞬間には、ぱぁっと花が咲くような笑顔になり、再びnullへと身を乗り出す。


「ナルは本当にすごいよ!!だってね、NE:NEみたいにバシュバシュバシュって撃って! シュンシュンシュンって動いて!!めちゃくちゃカッコよかった!!」


目をキラキラさせるレーネに、周囲の面々は呆れながらも、否定しない。それどころか、nullの戦闘を思い返しながら何度も頷いていた。


「NE:NE…ねぇ。」


ただ一人、隣でクツクツと喉を鳴らす男を除いては。


「ちょっとぉ!!」


nullがむすっとノア=キョウを睨み上げると、彼は肩をすくめる。


「悪い悪い。」


(絶対悪いと思ってない…!)


全く心のこもっていない謝罪に、nullは深い溜息を吐く。そしてレーネたちへと向き直ると、少しだけ控えめに笑った。


「一位は取れないと思うけど……多少は宣伝になった、でしょ?」


そう口にしたnullに、レーネたちはそろって首を傾げ、そして柔らかく笑った。


「何言ってんのー? もぅ!」

「そーだ! すごいってもんじゃぁ、なかったぞ! 流石、うちのナル!」

「うん。いい活躍で、すごく目立ってた。ステージの大画面に何回も映ってたよ。 会場もすごく盛り上がってたし。」


「え……」


宣伝になっていたという安心感の後、エトの言葉にnullの背筋へ嫌な予感がそっと降りてくる。


(え、ちょっと待って……私、そんなに映ってたの……?)


元々、あまり目立ちたいタイプではないnullは、銃の宣伝になるとはいえ、必要以上の注目は避けたいのが本音だ。しかし、プロゲーマーであるnullが気合を入れて戦ったのであれば、そりゃ目立たないわけがない。周囲は当然それを理解しているが、null本人だけがその自覚に乏しい。


ガクリ、と肩を落とすnullに、誰一人として慰めの言葉はかけない。むしろ全員が、「当然の結果だろ?」とでも言いたげに苦笑していた。


「あんまり目立ちたくはないんだけどな~……」


「「「「 それは無理でしょ(だろ)!! 」」」」


「え……えぇ~~……」


nullは半泣きのような目で、隣にいる男を見上げた。


「まぁ、でも今回は……私よりキョウのほうが目立っただろうし、いっかぁ」


そこで、ノア=キョウがそっと視線を落とす。


「……あんまり変わらないと思うけどな」


淡々と告げるノア=キョウは、呆れ半分、楽しさ半分といった表情でクスリと笑った。その言葉に、周囲も揃って何度も頷くものだから、nullは再び肩をがっくりと落とす。


「えぇ~~……」


その様子に、仲間たちの笑いがふわりと広がった。その、ほんの一瞬後のことだった。


――ガシャンッ!!


まるでブレーカーが一斉に落ちたかのように、セレスタドーム全体が 完全な暗闇 に包まれる。


「わっ……!」

「停電……?」

「演出か……?」


ざわめきが走る中、暗闇の中心。ステージ方向で小さく機械音が鳴った。


カシャンッ──。


次の瞬間、ステージ中央に 柔らかな円形のスポットライト が灯る。白い光の中へ、ゆっくりと一人の男性が歩み出た。

タキシードを品よく着こなした男。背筋は伸び、所作に無駄がなく、まるでどこかの大舞台の司会者のようだ。


ステージ中央に立つと、男は観客席に向かって深く一礼し、胸元のインカムマイクへと静かに手を添えた。


『皆さま──ようこそお集まりくださいました。』


低く通る声が、ホール全体に美しく響き渡り、観客席が静まり返る。

光の粒がステージ上に舞い、演出が空間を彩った。


『ただいまより、オルフィス祭《幻月の英雄》イベントの表彰式を執り行います。

 司会進行は私、レギュール・レイションが務めさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。』


改めて一礼する男に、華やかな拍手が波紋のように広がった。その瞬間、セレスタドームは一気にイベント会場の空気へと塗り替えられる。

拍手が静まる頃、レギュールは両手をゆっくりと上げると、それに応じるように、大スクリーンが切り替わる。


そこに映し出されたのは『オルフィス祭《幻月の英雄》イベント結果発表』の文字。

金と蒼を基調とした豪奢なフレームがタイトルを囲み、光の粒子がゆらゆらと舞う演出が施されていた。その華やかさに、観客は暗闇の中、いよいよ発表の時だと胸を高鳴らせる。


nullは肩をすくめながら苦笑いすら浮かべていたが、隣ではレーネやバルト、エト、シカクらが子どものように目を輝かせていた。


次回:袖振り合うも多生の縁 -2

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