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Extended Universe   作者: ぽこ
月影に咲く英雄

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呉越同舟 -2

毎週、月曜日と金曜日に更新中!


どのくらいの時間が経ったか、それほど長くない時間が経ち、nullとノア=キョウの攻撃が止むと、その場に残ったのは傍観に回っていたネムタロウとスキンヘッドの男、そして数人のPKプレイヤーだけになっていた。


「さてさて、君たちはどうする~?」


nullは二人に向けて拳銃を軽く掲げる。するとスキンヘッドの男が一歩前へ出た。砂埃が彼の足元で舞う。


「ノア=キョウ、あんたに用はない。その女を差し出してくれりゃ、危害は加えないと約束しよう」


「うわ~、厄介な交渉だねぇ」


nullは苦笑交じりにノア=キョウへ視線を送る。彼は短くため息をつくと、剣先をゆっくりとスキンヘッドの男へ向けた。


「…ユキダルマ、か。悪いが先約はこちらだ。お引き取り願おう。」


その言葉にnullは目を見開く。予想外の選択だった。

義理堅さか、面倒見の良さか。あるいは、別の理由があるのかもしれない。けれど、見放さずに対立を選んでくれたことに、胸の奥がふっと緩む。


「だって〜、残念でした〜」


にやりと笑えば、ネムタロウが後方から怒声を上げる。


「てめぇ!! いい加減にしやがれ!!」


その勢いとは裏腹に、nullはケタケタと楽しそうに笑い、まるで相手にしていない。挑発と無関心のちょうど中間にあるような態度だった。

そんなやり取りを眺めながら、ノア=キョウがふとnullへと問いかける。


「これほど執着されるとは……いったい何をしたんだ?」


その声は淡々としていたが、どこか呆れを滲ませていた。nullは肩を竦め、悪びれもせず答える。


「いや、PK罠張ってたから、ちょっと返り討ちにしたくらい? まぁ、その時たまたま居合わせたNPCの騎士と一緒に戦っててさ。その後、彼が捕まっちゃったのよ。……それで、逆恨み。」


「成程。」


ノア=キョウの相槌は短く、それ以上の詮索をしようともしない。そのあっさりとした反応に、nullは小さく笑う。しかし、その隙をつくようにネムタロウがまた吠えた。


「てめぇのせいで俺の装備がなくなったんだ!! きっちりけじめつけてもらうぞ!!」


nullはぷいっと顔を背け、まるで子どもをあしらうように返す。


「だから〜、それも戦利品だったんでしょう? じゃあ没収されても仕方ないじゃない。……まったく、人のせいにしないでよね」


その言い方があまりに軽やかで、ネムタロウの怒りはさらに燃え上がる。

だが、そこに低い声が割り込んだ。


「まぁ、それに関しちゃ、どうでもいいんだが――」


スキンヘッドの男、ユキダルマが一歩前へ出る。その目は冷たく光り、無駄のない動きで大剣を肩に担いだ。


「俺としては、あんたに興味があるんだ。」

「兄貴!?」


ネムタロウが目を見開く。しかしユキダルマは視線を逸らすことなく、静かに言い放った。


「ネム。……ちょっと黙ってろ。」

「……へい……。」


風が草原を渡り、砂埃がゆらりと舞う。空気が再び張りつめ、音という音が遠ざかっていく。


どうやら、完全に興味を持たれてしまったらしい。

PKプレイヤーを前にしても臆することなく、嫌悪するでもない。むしろ楽しげに挑発してみせるnullが珍しかったのだろうか。


しかし当の本人は、もううんざりしていた。彼らのせいでイベントを純粋に楽しむ余裕はとうに消えたし、今後もこんな執着を続けられてはたまったものではない。別の楽しみ方はしていたが、それは棚に上げて、nullは人差し指を立てると、それを横へと振る。


「悪いけど、ノーセンキュー。」


ぷい、と唇を突き出して言い放った。ユキダルマはわざとらしく肩を竦め、乾いた笑いを漏らす。


「あーあ。全くちっとも聞きゃしねぇ。……悪い話じゃねぇと思うんだがな?」

「悪かろうが悪くなかろうが、関係ないよ。」


きっぱりとした拒絶。

その一言に、黙っていろと命じられたネムタロウの拳が怒りでブルブルと震える。怒りが限界まで膨れ上がっているのが、誰の目にも分かる。


nullはその様子を横目で見て、わざとらしく口角を上げた。


「だってさぁ~、悪の親玉みたいなところに――こぉんな純粋可憐な私が入ると思う? 一人のが、ましー!」


ケラケラと笑うその声に、ネムタロウの理性がついに切れた。大剣を握りしめ、勢いのままに踏み出す。怒声と同時に振り下ろされた一撃だったが、しかし。その刃は――ガキィンッ!! と、甲高い音を立てて止まった。


ノア=キョウの剣が、無駄のない動きでその一撃を受け止めていた。

振り払う動作は静かで、しかし圧倒的に重い。吹き飛ばされたネムタロウが数歩後退し、草を踏み荒らす。


nullの視界には、彼女の前に立つノア=キョウの背中だけが映っていた。

彼が庇ってくれたことを理解し、ノア=キョウの背越しに顔だけを覗かせて、ユキダルマへと言い放つ。


「ほら。部下の制御もできないんだ。」


肩を竦めて煽るように笑うnullに、ユキダルマは舌打ちを返した。


「チッ……ネム。いい加減にしろよ。」


その声は低く、重く、今までで一番の圧を帯びていた。ビリリと空気が震え、草の葉が揺れる。その一声に、ネムタロウはビクリと肩を震わせて頭を下げる。


「す、すみません……! それでも……どうしたって、兄貴への侮辱だけは許せねぇ!!!」


怒りと悔しさがないまぜになった声。それを聞いたユキダルマは、ゆっくりと息を吐いた。


「……悪かったな、ナルさん。ノア=キョウさんや。 今回は引くとしよう。――おい、行くぞ!」


その言葉に応じて、男たちは一斉に動く。戦意を失ったわけではない。ただ、彼の言葉ひとつで全員が背を向けた。それだけの信頼と統率があるのだろう。

nullはそんな背中を見送りながら、小さく息をついた。


(やれやれ、筋の通った悪役ってやつ? 嫌いじゃないけど、これじゃ後味が悪いよねぇ……。)


そして、ふと思いついたように声をかける。


「ねぇ、ユキダルマさん。一個だけ。」


足を止めたユキダルマが、振り返る。夕陽の光が彼のスキンヘッドに反射し、金色に光っていた。


「さっきのは…、訂正する!」


nullは少しだけ頬を膨らませ、視線を逸らす。


「……いい親分――じゃなくて、兄貴? なんでしょ。」


照れ隠しのような笑み。その言葉に、ユキダルマもネムタロウも一瞬だけ息を詰め、そして苦笑する。


「……あぁ。」


短い返事を残し、ユキダルマは仲間を率いて去っていった。彼らの足音が遠ざかるにつれて、風の音だけが戻ってくる。草原の空気は一転して静まり返り、残されたのはnullとノア=キョウだけだった。


ふと横から視線を感じて、nullはむず痒そうに肩をすくめる。


「……なに?」

「いや。」


短く答えたノア=キョウは、ほんのわずかに口角を上げた。その笑みは微かで、どこか懐かしさを含んでいるようにも見える。


「――やっと、会えたな。」


唐突な言葉に、nullは目を瞬かせた。


「ん? 探してたの……?」

「あぁ。あの後、倒せたんだろう?」


「……あの後? 倒すって?」


言葉の意味が分からず、nullは首を傾げる。

ノア=キョウの瞳には、明確な意図の光が宿っていたが、彼女にはまだその意味が掴めなかった。


「人違い、じゃ――」


そう言いかけたところで、遠くから声が響いた。


「おーーーい! ナルさん!! 大丈夫かー!?」


見慣れた影が、こちらへと手を振りながら駆けてくる。風に揺れるその声に、nullはぱっと振り向いた。


「あ、シカク!」


口元に笑みが浮かぶ。戦いの熱がようやく引き、緊張の糸が切れたように、nullの表情は柔らかくほころんだ。

一方でノア=キョウは、彼女の横顔を一瞬だけ見つめ、静かに視線を逸らす。その口元には、わずかな笑みが隠れていた。


「いやぁ、よかった。上からナルさんが見えたから、やばいかと思ってさ……」


息を切らせながら駆け寄るシカクの声に、nullが手を振る。そのすぐ後ろでは、マルがぷくりと頬を膨らませていた。


「もーー、シカクってば! ナルさんがいたんなら、ちゃんと教えてよ~!」

「いや、悪いって! なんか追われてたから……!」


慌てて弁明するシカクの姿に、nullは耐えきれず吹き出した。


「ふっ……ふふ、あはははは! なにそれ」


笑いながらお腹を押さえるnullを見て、シカクは照れくさそうに頭をかきむしる。


「だぁーー! もういいだろ! とにかく無事でよかったんだから!」

「ありがと、シカク。」


くすりと笑いながら礼を言うと、マルが勢いよく抱きついてきた。


「ほんとに無事でよかったよ、ナルさん! それにしても……そのお兄さん、知り合い?」


問われたnullがちらりと横を見れば、ノア=キョウは腕を組み、相変わらず静かに立っていた。

既に剣を納め、表情も崩さない。ただ、観察するように三人を見ている。


「あ~……多分、今知り合った、はず?」

「なんだそれ。」


思わず突っ込むシカクに、nullはへにゃりと笑った。


「いや、まー。とりあえず! 彼のおかげで助かったんだよ。――ランキング一位のノア=キョウさん。こっちの二人は、シカクとマルさん。」


「マルでいいって!」


軽やかに笑うマルに、nullは苦笑しながら頷く。その背後でノア=キョウは、ほんの一瞬だけ、何かを思い出すようにまぶたを伏せた。


「よろしく!」

「よろしくねー!」


愛想よく手を振る二人と対照的に、ノア=キョウは「あぁ」と短く答えただけだった。

不器用なのか、単に無駄が嫌いなのか。それでも先ほどまでの冷徹な印象とは少し違う。その微妙な変化に気づいたnullは、ふっと楽しげに頬を緩ませた。


その時、空気を切り裂くように、視界にシステムアナウンスが走る。


【⚠ WAVE 4:ボスモンスターを掃討せよ ⚠】

【 残り時間:30:00 】


「ボス!?」

「――えっ…。」


「…。」

「へ~♪」


あるものは警戒し、あるものは動揺と困惑。そしてあるものは新たな強敵との戦いを楽しみにしている。


イベント最後のボス戦、観戦者の投票によって選出されたボスの登場を前に、nullはただ、楽しげに笑っていた。次に現れる何かを心から待ち望むように、瞳を輝かせて。



次回:閑話休題 side WOO/A



☆キャラクターメモ


ノア=キョウ

 黒髪黒目の端正な男。

 無駄のない軽装と落ち着いた立ち姿が目を引く。

 表情はほとんど動かないが、ランキング最上位に位置する実力者。



☆技メモ


《雷》

 雷攻撃二種。火力特化の純攻撃リンク。

 └① ジャッジメント・ボルト(雷・強攻撃)

 └② ライトニング・コード(雷・追撃)


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