モンスター討伐と金策
西門から街の外へとでたnullは、草原で既に戦闘を始めているプレイヤー達の姿を眺めなら、人の少なそうな場所へと進んでいく。
あまり進みすぎれば、敵も強くなる為、街から離れすぎないように注意をしつつ、他のプレイヤーに干渉されにくい場所を探す。
こういったMMO型のゲームでは、「他プレイヤーの戦闘妨害をしない」という暗黙のルールが存在している。勿論PKを行う場合は例外であるが、PK行為を行うつもりなく、他プレイヤーの戦闘に介入すれば、経験値やドロップアイテムが分散され、先に戦っていた人物の邪魔になるためだ。つまりフィールドは早い者勝ちというのがマナーなのだ。しかし、MMO型のゲームの経験が少ないプレイヤーは無邪気に目の前に現れたモンスターを狩る者もやはり存在する。その度に注意されるか、注意されない代わりにマナーのなっていないプレイヤーだと認識されて敬遠されるようになる。最悪はPK対象になったり、ネット掲示板で晒されかねない。その為そういったプレイヤーは少なくはあるのだが、皆無ではないため念のための対策である。
「さて、この辺でいいかな」
街から遠すぎず、近くのプレイヤーからも離れすぎていない場所。そう、他のプレイヤーと離れすぎるのもよくない。特に魔法使いなどの近接戦闘向きでない職業では。
防御力が弱く、回避にポイントを振り分けているとはいえ、まだまだ初期値と変わりない値。レベルも低く戦闘経験値も浅い状態で同等か多少格下のモンスターとの戦闘では、大ダメージを受ける可能性が低くない。仮に楽に倒せるモンスターだったとしても、近くにプレイヤーがいない状態であれば、モンスターに囲まれかねない。今はそれが何よりも危険であると知っているからこそ、MMO型の経験者は基本、”つかず離れず”の距離を意識して戦闘場を厳選する。自身が瀕死になったときに、周りのプレイヤーが手を貸してくれるかという点も、割と重要だったりする。勿論、こちらは運であるが。
nullが近くの青いスライムを見つけ、それに対して「ウィンドカッター」を唱えれば、スライムの核へと当たり消えていく。消える際に、青いポリゴン加工のエフェクトが入ったのはゲームの仕様だろう。
次に見つけた青スライムには、「ファイアーランス」を、その次には「ウォーター」をと、様々な魔法を使いながら、何体かのスライムを倒していく。
しばらくそうしていればピロリンと小さなシステム音。
戦闘後に確認をしてみれば、レベルが上がっていた。3レベルに上がり、ポイントの振り分けを考える。
今のままでいけば、やはり魔法攻撃威力が足りないか、いや、ソロで行うならばやはり回避が優先だろうか。ステータス画面と睨めっこを続けていれば、視界の端にちらりと映る青い影。スキルポイントの振り分けを後回しにして、目の前の敵を片付ける。
「”ステータス”、”ウィンドカッター”」
何度かの戦闘を重ねて、青スライムに一番適している魔法がウィンドカッターであった為、すぐさま魔法を放てば、スライムの突進攻撃は中断され、砕け散る。ほっと胸を撫でおろせば、ピロンッっと小さなシステム音が鳴り響く。どうやら今のスライムで五体目だったようだ。草原の、安全そうな場所まで移動して、スキルポイントを振り分けることにした。
次はバウルの討伐だからー、やっぱり回避が欲しいかな。
バウルとは、小さな狼に似たモンスターだと、冒険者ギルドのユーセスが教えてくれた。つまり青スライムとは違い、攻撃速度や移動速度が高いだろう。
青スライムは、ポヨンッポヨンッとゆっくり近づいてくる。
攻撃は酸近距離に飛ばしてくるか、近距離の突進か、そこまでは確認した。つまり、魔法で倒すnullにとっては難易度の低い戦闘だった。経験値が低いため先にMPが切れそうになるほどだ。
レベルが上がれば、HPもMPも全回復する。つまり経験値の旨さは重要だ。特にMPを使用して魔法を放つnullにとっては。
悩んだ末、結局NIT、AGI、LUKに振り分けた。最後までLUKに振り分けるか悩んでいたが、ステータスを見た感じレベルアップ時にLUKが上がっていなかった為、こちらに振ることに決めた。
さて、とnullはバウルが生息していそうな奥へと向かうために歩き出す。その間、他のプレイヤーたちの戦いを横目に、自身がなけなしの金で多少買い込んだポーションの残量を計算する。青スライムと同等のモンスターであれば問題ないが、そうでなかった時、ソロの魔法使いでは太刀打ちできない可能性があるためだ。
どのくらい歩いたか、金策とアイテムと、装備と地図と、と考えている内にどうやらついたらしい。あたりには3名でチームを組んでいるだろうプレイヤーが今まさにバウルとの戦闘中である。大きさは大型犬と同等の大きさ。素早さもかなり高いように見える。
さて、これとどう戦うか。と考えていると、戦っていたチームが一頭を倒し終えた。前衛1枚、中近距離1枚、遠距離1枚となかなかバランスの取れたチームは次々にバウルを相手にしていく。近すぎると彼らの邪魔になるかもしれないと思い、少し離れた場所へ移動すれば、目の前から一体のバウルがこちらへ向かってきた。
「まだ、どう戦おうか考えてたところなのになー。”ウィンドカッター”」
独り言ちながら、素早い攻撃を目の前のバウルへと仕掛ければ、躱せなかったらしいバウルは、正面からザクリと切り裂かれる。しかし、まだ動けるようだ。それならばと、”ファイアーランス” を放てば、当たった所から燃え広がりエフェクトが空へと消えていく。
「二発で倒せるなら、囲まれないように注意してればいけそうかな。」
それからnullは少し遠くにいるバウルを標的として魔法を放っていく。
三体倒したところで、システム音が鳴り響いた。どうやら青スライムより経験値が高いらしい。
アイテムを消費せずにMPが全回復になったのはありがたい。思っていたよりも、もう少し戦っていられそうだ、と口角が自然と上がる。
「”ウィンドカッター”、”ファイアーランス”」
このコンボでバウルと次々に倒し、囲まれそうになると、後退しつつ近いバウルから片付ける。少し油断すれば、二体から同時攻撃が来る。それを、上げていた素早さを生かして寸でのところで躱せば、バウルの背後へと”ファイアーランス”を飛ばして倒す。
既にクエスト分の討伐は終わっていたが、中々に戦っているという感覚が楽しく、気づけばかなりの数のドロップアイテムを獲得していた。勿論レベルも5まで上がり、ホクホクである。
さて、そろそろ日が暮れる。残っているのは採取クエストだ。日が昇ってからの方が初心者としてはやりやすい。だからと言って一晩中戦っているというのも、面倒だ。特にこういったゲームでは、夜になると日中とは違ったモンスターが出現する可能性が高い。視界の悪い中での戦闘も分が悪く、一旦ファスティアンへ帰ることにした。
来た時に見たバウルを倒していたチームは既に姿が見えない。もしかしたら、もっと奥へと進んだのかもしれない。代わりに、他のプレイヤーの姿が増えていた。
ソロで戦っている戦士系のプレイヤーや数名のチームを組んで戦っている姿も見られた。やはり人数がいれば、夜でもある程度優位に戦闘ができそうだな。と考えながらゆっくりと歩いていれば、青スライムの狩場まで戻ってきた。青スライムのドロップアイテムは、どうやら調合の素材にもなるらしいので、帰りつつ目についた青スライムを倒しながら進む。
門をくくれば、街に光が灯り、昼間とは違った賑わいを見せていた。まだ少し早い時間だろうに、酒を片手に乾杯している姿なんかもある。プレイヤーだろう人物は泥だらけの恰好で疲弊した様子を見せつつ、仲間だろう男と肩を組み、戦闘の感想なんかを言い合っている。なんとも賑やかな夕暮れだ。
nullは、冒険者ギルドへと直行すれば、朝にはあった外の行列は消えており、ギルドの中の賑やかさが増していた。二階には飲食場があるのかもしれない。随分と賑やかな声が漏れ聞こえてくる。
「素材買取所」と看板が掲げてあるカウンターにて、声をかければ男性職員が受け付けてくれた。気が付けば結構色んなドロップアイテムを獲得していたらしい。主に毛皮や爪や牙の一部を売却すれば合わせて1, 650Gになった。ホクホク笑顔で受注クエストの受付カウンターへと向かえば、こちらの報酬は600Gと中々渋いが、新たに別のモンスター討伐の依頼を2つ受けて、夜ご飯を食べに行くことにした。
この身体には、空腹という概念が存在しない。その為、食事を行う必要はないのだが、冒険者ギルドへと向かっている最中にすれ違ったプレイヤー達が「美味しい」と言いながら串肉をほおばっている姿を見て、どのくらいの味覚が再現されているのか、ここの食事のレベルに興味が沸いた。
「さて、どこのお店にしよっかなー。」
どこも繁盛していて、どの料理も美味しそうで目が移る。取り合えず、座って落ちついて食事がとれる場所、且つ安いお店がないかと探して回れば、路地裏の人目につかなさそうな場所に、ひっそりと建っている小さく小綺麗な喫茶店のようなお店を見つけた。看板にはディナーメニューが書いてある。「夜明けの果実」が店名らしい。
「美味しそう!ここにしよう!」